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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第十八話 蒙昧 5

 元来、人というものは誰かをたのみ誰かに恃まれながら生きてゆく生きものである。 子は成長の為、親を恃み、親は老後の万が一の為、子を恃む、と言ったように、この世は恃み恃まれの応酬で成り立っていると言っても過言では無いだろう。 しかしあくまでその応酬は、相互の利害関係が一致してこそ初めて成り立つものであって、相手を受け入れず一方的に恃む者が現れでもすれば、その者は確実に周囲から排除されてしまうに違いない。 つまるところ僕は、玲さんを頼り過ぎる事によって彼女に愛想を尽かされてしまうのではないかとおびえていたのだ。


 僕が玲さんという存在ひかりを失ってしまえば、僕の進もうとしている道は再び暗澹あんたん冥濛めいもう常闇とこやみに閉ざされてしまう。 もしそうなってしまったら僕はもう、その場所から一歩も足を踏み出せずに呆然とむなしく立ち尽くすしかない。 だから僕は、必要以上に玲さんを頼り過ぎないようにしなければならなかった――はずなのに、一時的な気の緩みから、何でもかんでも彼女にたずねてしまいそうになっていたのだ。


 面倒見の良い玲さんの事だから、きっと僕にたのまれればたのまれるだけ助力を惜しまず僕の悩みを聞いてくれるだろうけれども、先に述べた通り、どのような優しさにだって底はある。 その底をのぞいてしまった時、僕の男としての道は完全に閉ざされてしまうだろう。 そして僕は二度とぼくを語る事も無く、男と女の狭間に身を置き続けながら息絶えるまでこんな後悔をするだろう。

 "あの時(・・・)も、あの時も(・・・)些細ささいな相談を持ちかけなければよかった" と。


 そうは言っても優しさの底など本人にしか知り得ないものであるから、たとえ僕が毎日のように玲さんをたのんだとしても彼女はけろりとした顔で僕を受け入れてくれるかも知れないし、ことによると僕の出方次第では今日この場で底をのぞいてしまうやも知れない。 ――いずれにせよ僕は、玲さんに甘えてしまいそうになる癖を治さなければならないのである。


「わかりました。 出来る限りの事は自分で調べて考えてみます。 それでも答えが見つからない時は、どうか先輩を頼らせて下さい」


「うん。 まぁそこまで堅苦しく考えなくてもいいからさ、ダメそうな時は迷わず頼って、一緒に悩もうよ」


 玲さんがそう言ってくれただけでも、今の僕は大いに救われていた。 こうして影ながら支えてくれる玲さんの為にも僕は何としても自分の中に男のかたちを創り上げなければならない。 その使命を今一度胸に刻み込み、僕は玲さんに「はい」と力強く応答した。


「それじゃ、そっちの話は今回は終了って事で、そろそろ聞かせてもらってもいい? キミとあの子の進展具合。 今日はそれが楽しみでキミを招いたんだから、どんな惚気のろけ話を聞かせてくれるのか楽しみにしてるよ」


「ちょっとハードル上げ過ぎじゃないですか先輩。 あれからまだ一ヶ月も経ってないんですから、きっと先輩の期待してるような話は出てきませんよ」


「なーんだ、もうキスくらいしたのかと思ってお菓子まで用意してたのに、それじゃあアテにもなんないなぁ」


「してませんって。 というか僕の話をさかなにしようとしないで下さいよ」


「冗談冗談っ。 まぁ、もうキスなんてしてたら私なんてとっくにお払い箱だし、それはそれでつまんないから不定期に進展具合は聞かせてもらうからね」


 先の玲さんの口ぶりから推察するに、僕はこれからも彼女の気まぐれでこの家に呼ばれる可能性があるという訳だ。 その度に僕は彼女ににやにやされながら惚気話を語らないといけないと思うと少し億劫おっくうにもなったけれど、玲さんにはすっかり貰いっぱなし(・・・・・・)になってしまっているし、それで玲さんが満足するのであればその程度の余興には喜んで付き合おうと心中で承知した僕は「その時はまた粗コーヒーをご馳走してくださいよ」と冗談交じりに言ってみせた。 すると玲さんは玲さんで「次はキミに粗相が無いように粗ソーダ(・・・・)でも用意しとくよ」と、洒落しゃれを交えながら得意げに言った。


「それ、逆に粗相起こしそうで嫌なんですけど」

そうだ(・・・)ね」

ソーダ(・・・)だけに、ですか」

「……ぷっ、はははっ! もうっ、つまんない事言ってないで早く聞かせてよ!」

「何言ってるんですか、ダジャレを言い始めたのは玲さんですよ」

「生意気言ってないでさっさと話す!」


 玲さんのひょんな洒落を機に、また子供染みたやりとりが二人の間を行き交う。

 ――午前は十一時恰度(ちょうど)。 昼食時にはまだ早い。

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