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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第十五話 勉学 3

「おいサブ、お前ちょっとお菓子食いすぎやろが。 もっと性根入れて勉強せんかいや」


「何言ってんだよリュウ、頭使うには糖分が必要な事ぐらい知ってるだろ? 特に俺の頭はスペシャルだからな、俺が頭を使うと一般人の二倍以上のエネルギーを消費するから常に補給しとかないとダメなんだよ」


「何がスペシャルやねん。 ただ単にお前の脳みそは他の人より燃費悪い言う事やろ。 こっちの二人見てみぃ、さっきからお菓子にも手ぇ付けずに黙々と勉強しとるやろが。 この二人が燃費が良くて乗り心地抜群のスマートな車やとしたら、お前は上っ面のカタログスペックだけ見事に細工した、乗る価値も無い燃費最悪のっるいオンボロ車やぞ」


「そのぐらいにしといてやりなよ竜之介、三郎太泣いちゃいそうだよ。 でも三郎太じゃないけど僕もちょっと甘いもの欲しくなってきたかも」


「私もです。 もう一時間くらい勉強しましたし一旦休憩にしませんか?」


 僕達は今、竜之介の自宅で四角のテーブルを四人で囲み、勉強会を開いている。 事の発端ほったんは、時をさかのぼる事およそ四時間前――竜之介、三郎太、古谷さんと共に食堂で昼食を摂っていた時の事である。


「そういや来週中間考査やけど、みんなもう勉強しとるんか?」と、ふと思い出したかのように竜之介が僕達にたずねてきたのがきっかけだった。


「先週あたりから始めてるよ」と僕は真っ先に答えた。


「私もユキくんと同じですね」

 古谷さんも僕と同じ時期から勉強を始めていたらしい。 そして三郎太は、


「んなもん当日のテストの教科だけ前日に勉強すりゃ何とかなるだろ」と、実に三郎太らしい楽観を放った。


「そうか。 いやな、もし良かったらみんなで集まって勉強会でもどうかなと思てな。 俺はどうも一人で勉強しよったら集中出来んタイプでなぁ、もし来れるんやったら俺んの部屋も貸すから、テストまでの期間、都合合う日ぃだけでもええから誰か付きうてくれんか?」


 竜之介の申し入れを受けた僕達三人はこの件を快諾かいだくし、放課後に四人揃って高校の最寄り駅から電車で西に一駅向かい、駅からは徒歩で竜之介の自宅へと向かった。 竜之介の家から最寄駅までは非常に近所だと聞いていたけれど、彼の表現は誇張でも何でもなく本当に近所だったので驚いた。 全体どれほど近所だったかと言うと、駅から彼の家の玄関が見えていたぐらいだ。


 また、別の意味で驚かされたのが、古谷さんが今回の勉強会に参加した事だ。 以前より僕達と親睦しんぼくが深まったとはいえ、男三人に対し女性一人という環境にはばかって断ってくるものかと予想していただけに、彼女が臆する事無く勉強会に参加を表明した時には思わず驚倒させられたけれども、裏を返せばそれだけ僕達に気を許してくれているという事なのだろう。 そう考えると彼女との距離が一段と近くなったようにも感じる。


 ――以上の成り行きで竜之介の部屋で開催された勉強会も早や一時間が経過し、休息には頃合という事で、勉強前に竜之介が用意してくれていた菓子折りの中のクッキーであったりチョコレートだったりを各自つまみながら休憩中だった。


「そういや千佳ちゃんの家は東方面やったっけ? 悪いなぁ、わざわざ逆方面の電車に乗ってこんな男三人のむさっ苦しい勉強会に参加してもろて」と、竜之介が古谷さんをおもんぱかっている。


「いえいえ、気にしないで下さい。 逆方面って言っても一駅だけだし、ここからなら地元の駅まで十分くらいで着きますから。 でも、それで言うとユキくんの帰宅時間の方が遅くなっちゃうんじゃないですか?」

 竜之介にそう言われた古谷さんは自分の事より僕の帰宅事情について気遣ってきた。


「大丈夫大丈夫。 夕飯までに家に帰れれば問題ないから。 十八時ぐらいまでは付き合うよ」

「そうか、ほんま二人には感謝しとるわ。 俺一人で勉強しよったら三十分も持たんからな」

「おい、リュウ、俺へのねぎらいがまだだけど?」

 ぼそ、と三郎太がやけに不満そうに竜之介へ向けて呟いた。


「お前に何を労え言うんや」

 一方竜之介は僕たちと喋っていた時とは打って変わって、どすの利いた声で威嚇気味に三郎太へそう言い放った。


「おいおい、俺もチャリ通だぞ? それをわざわざ電車に乗ってお前んまで付きやってやったのに、ユキちゃん達みたいに労いの言葉の一つぐらいあってもいいだろうがよー」


「何甘えとんねん。 お前がここに来てからペン持った時間よりお菓子食うとる時間の方が多かったんちゃうか? そんな周りの集中力乱すような奴に労いの言葉が必要やと思うか? そもそもお前はテスト前日に勉強したら余裕や言うとったやろ、なに早速心変わりしとんねん」


 さすがの三郎太も竜之介の正論の数々には返す言葉が無かったようで、特に否定する素振りも見せずにぽりぽりと頭を掻きながらハハハと笑ってお茶を濁した。

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