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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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理央の手紙

 この手紙は私の友達、坂井玲へ向けたものであり、それを前提として書いています。 もしお母さんが誤ってこの手紙を読んでしまったのなら、必ず玲に渡してあげて下さい。 以下、本文に移ります。


 玲へ。




 あなたにこの手紙が届いている頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。 どういう経緯で私の死が玲の耳に入るかは分かりませんが、それを知らされた時、玲をとても驚かせてしまったと思います。 私が死んでからこんな事を言うのもおかしいと思うけど、私の死によって玲には色々と迷惑を掛けてしまっただろうから、一言謝らせてください。 ごめんなさい、玲。


 私は多分、この世界に生まれて来た事が間違いだったんでしょう。 その思いは私が物心ついた頃からずっと胸の中に変わらず位置を占めていました。 今更ながら正直に話すと、私は幼い頃からずっと死について考えていました。 その思考を私にもたらしたのはきっと、玲も良く知っている私の性質のせいだったのだと結論付けています。 あの頃から私はずっと――~~


 ……駄目だね。 書いてるうちに堅苦しくなっちゃった。 こんなの私と玲の仲らしくもないよね。 という事でこれからは、私の思いのままの言葉で書かせてもらうね。


 玲、本当にごめんね。 こんな事になっちゃって。 優しい玲のことだから、私がこうなったのは自分のせいなんじゃないかって一人で責任を感じちゃってるんじゃないかな。 でもね、これは玲のせいじゃないよ。 多分私は玲と出会っていなくても、いずれこういう結末を迎えていただろうから。


 小さい頃から死を考えていたっていうのはほんとでね、私は自分の性質についてずっと悩んでて、でもその悩みを誰にも言い出せなくて、このまま一生解決しない悩みを背負って孤独に生きていくくらいなら死んだほうがマシだって本気で思ってたんだ。 でも私としても心の準備は欲しかったし、ひょっとすると私の事を理解してくれる人が現れるかも知れないって淡い気持ちもあったから中学校には進学したんだ。 その時入学式で見つけたのが、玲だった。


 こんな事を言うと信じてくれないかもしれないけど、玲の横顔を一目見た途端に私は運命っていうものを実感したんだ。 もっと簡単に言うと、あれはきっと一目惚れだったんだと思う。 もちろん顔も私の好みだったんだけど、その人のオーラっていうのかな、この人なら私のすべてを理解してくれる! って何の根拠も無い確信すら沸いてきたんだよね。 だから私は全く見ず知らずの玲にあそこまで執着してたんだ。


 まぁ、クラスが一緒だったり席が隣同士になった事は単なる偶然だったんだろうけど、実際その感覚は正しくって、玲は私の性質を知ってもなお、私を私として接し続けてくれたよね。 あの時私は生まれて初めて、この世界で呼吸を続けてきて良かったって思えた。 世の中にはこういう人も居るんだなって、その時はちょっとこれまでの考え方を改め直したんだ。


 でもやっぱり心のどこかでは、私の性質に対するこの世界の自浄作用っていうのかな、異質なものを排除するっていう空気を時折感じちゃって、そのうちに、私の性質に付き合わせちゃってる玲さえもその自浄作用に巻き込まれちゃうんじゃないかって思ったら急に怖くなって、そうこう心配してる内に玲が別れ話を持ち掛けてくれて、私はあのとき心の底から安堵したんだ。 これでもう、玲を私と同じ目に遭わせないで済むんだって。 だからこそ私はあそこまで潔く玲の別れ話を受け入れる事が出来たんだ。


 それから玲に言われて伊藤くんと知り合って、付き合うようになったんだよね。 あの時は本当に、こんな性質の私でも異性を好きになれる可能性があるんだって事を玲が教えてくれて、すごくわくわくしてた。 でも結局私は大事な場面で異性に拒否反応が出ちゃって、それで伊藤くんたちのあの会話を直接聞いちゃって、やっぱり私なんかが異性を好きになる事は間違いだったんだって改めて思い知らされたんだ。 それと同時に、久しく私の頭から消えてた死に対する思いが湧き上がってきて、私はその思いをどうする事も出来なかった。 もう、二度とこんな辛い思いをしないように、その日の内にこの世界で呼吸をする事を止めようって決めたんだ。


 でも私も心が弱いから、土壇場で玲に縋り寄って、最後の最後まで玲を困らせちゃった。 けどね、玲があそこではっきりと私の恋人になる事は出来ないって言ってくれたおかげで、私はこの世界とさよならをする最後の踏ん切りをつける事が出来たんだ。 あの時にもし玲が私を受け入れていたら、きっと私は玲の優しさに付け込んで、また何度も何度も同じことを繰り返し続けて玲を困らせたり自分自身を辛い目に遭わせるだけだっただろうから、あの時にも言った事だけど、玲が一時的な情に流されずに自分の意思を貫ける人でほんとうに良かったと思うよ。


 ……なんか色々と思い出しながら書いてたら涙が出て来ちゃった。 何の涙なのかな、これって。 この手紙を書き終えたら私はこの世界とさよならするって決めてたから、今になって死が怖くなってるのかな。 でも、それは違う気もするんだ。

 少なくとも私は玲と出会うまで、ここまで死を恐れたりなんてしなかった。 だからこの恐れはきっと死に対する恐怖じゃなくて、玲と二度と会えなくなるっていう恐怖なんだと思う。 それなら泣いちゃうのも無理はないよね。 私は玲の事が大好きだったから。 その思いは多分死んでからも変わらないし、生まれ変わって何もかも忘れたとしても、玲の事を見つけて、玲を好きになる自信があるよ。


 でもね、玲は私なんかじゃなくて、これから出会う誰かを好きになってあげなくちゃ駄目だよ? その人が男の子なのか女の子なのかは私には分からないけど、私の事なんて気にしないで、自分の思うままに恋をしてください。 どんな恋であれ、私は玲の恋を応援しています。 私の死を言い訳にしていつまでも一人でいるようなら、幽霊になってでも玲を叱りつけにいっちゃうからね。


 手紙なんて書いた事無かったから、つらつらと思った事を書き連ねてしまったけど、私の言いたかった事は玲に伝わったでしょうか。 簡潔にまとめると『私の死は玲のせいでも何でもない。 だから玲が私に罪悪感を感じて自分の心を束縛する必要なんて無い!』って事。 それさえ伝わってくれたら、私としては本望です。


 さて、玲に伝えなければならない事はおおかた書いたつもりだから、そろそろこの手紙も終わりにします。 はじめから言いたい事だけを書いていればここまで長々と私の思いを書き連ねずに済んだのに、そうなってしまったのはきっと、私のわがままだったんだと思います。 この手紙を読む際に一分一秒でも長く、玲が私の事を思い出してくれるのを期待していたんだと思います。


 人間っていうのは死の直前に本性が出るって聞いた事があったけど、私は死を目前にしても玲が好きだという想いが変わる事なく私の心に居続けてくれて嬉しかった。 やっぱり私の目に狂いは無かった。 玲は私にとってこの世界で誰よりも優しくて誰よりも好きな人でした。


 それじゃあ、さようなら! 玲。 あなたと出会ってから共に過ごした数年間、私にとっては夢のような時間でした。 少しの間だけでも、この世界で呼吸を続ける喜びを私に教えてくれた玲に幸あれ!

 そして願わくば、玲にふさわしい恋人が現れてくれますように。


Goodbye! my best friend.

Goodbye! my first love.

You were my light.




                           内海 理央

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