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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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第五十話 ほんの些細なこと 36

 理央は次のように語った。

 ――あの日、玲が私を受け入れてくれたのは勿論嬉しかった。 でも、心のどこかで、私は玲に無理をさせているんじゃないかと思っていた。 私は物心ついた時から女性を恋愛対象として見てきたから男性に興味は無いけれど、玲は違う。


 たまたま好きになったのが私という女性だっただけで、いずれは男性に恋心を抱く可能性も十分にあるという事。 その可能性を、私という曖昧あいまいな性質を持った人間が潰してしまっていいのかという懸念も幾度となく抱いた。


 ひょっとすると、他人に興味が無いだ何だと言いつつも目の前の困っている人を放っておけない優しい玲の事だから、私の性質を知ってしまったがゆえに私をあわれんで、私の恋愛わがままに付き合わせてしまっているのではとも勘繰ってしまった事もある。


 私も玲の事は好きだ。 この世界で誰にも負けないくらい、大好きだ。 でも、大好きだからこそ、玲には幸せになって欲しい。 私というゆがんだ人間なんかの為に、玲も無理に私に合わせて歪まなくたっていい。 私は、玲が本心を私に聞かせてくれて、とっても嬉しかった。 玲がこんなにも私の事を想ってくれているなんて、本当に私は幸せ者だ。 だから、『ありがとう』って伝えたんだ。


 ――なるほどだから『ありがとう』なのかと、覚えず私は首肯しゅこうを果たした。 私と同じく理央もまた、私との関係に対し理央なりの葛藤かっとういだいていたという事は、先の吐露とろで痛いほどに伝わった。 けれど、一つだけ理央の言葉に訂正を掛けなければならない事も既に承知していた。


「なるほどね。 でも、私は情けやあわれみなんかで理央との関係を続けてた訳じゃあないよ。 私も理央の事がたまらなく好きで、時間の許す限りずっと一緒に居たかった。 その気持ちにいつわりはないよ。 だから、それだけは訂正させて」


 私がそう語ると理央は「ほんと優しいね玲は。 ありがとう」と、また微笑を浮かべながらそう言った。 その笑みにつられて私も一つの笑みを浮かべた。 それから間もなく予鈴が鳴り響いて、私と理央はいこいの場所を後にして教室へと向かった。


 教室へと戻る途中、理央は「今日の事、また改めてしっかり話そうね」と私に伝えてきた。 私は「うん」とだけ簡単に返事をした。 心無しか、廊下を歩く理央と私との距離が以前よりも遠くなってしまったように感じたのはきっと、勘違いでも何でも無かったのだろうと思う。


 その翌日、私は昼休みの時間を利用して、理央と共にいこいの場所へとおもむき、そして、理央との恋仲を解消するというむねを理央に伝えた。 理央もまたとりわけ取り乱すような素振りを見せる事もなく、私の言葉をすんなりと受け入れた。 これで私と理央はただの(・・・)友達へと戻った。 けれど、お互いが恋仲の解消に至った要因を理解し容易たやすく飲み込んでいた事もあって、私と理央の関係は以前と何ら変化をきたさなかった。


 授業の合間の休み時間には決まって理央が私の席へと訪れるし、昼食もこれまで通り一緒に摂り、理央のおすすめの歌や動画を一緒に視聴したり、時には理央の家を訪問したり、手を繋ぐ事や口づけなどといった外的接触は完全に無くなってしまったけれど、そうした接触の消失を除けば、ほぼ以前の関係を保っていると言っても過言では無く、しかし日を重ねるごとに私と理央の熱情は確実に温度を失いつつあった。


 そうは言っても、理央との熱情を不意に思い出してしまい、あの頃の熱きに懐かしさを覚えてしまう事も勿論あったけれども、火傷やけどはたちまち治らないから、散々熱情によってかれた私の心がまったく完治するには相応そうおうの時間を要するだろうと、長い目で私の懐古かいこへと移り気味な心を許容しようと取り決めた。


 そうして理央との熱情によって灼かれた心を日々冷ましつつ時は過ぎ――中学最後の夏季休暇を終えた長月の中頃、進路希望票を出し終えた日の放課後、私は同学年のとある男子に呼び出された。 当初一緒に下校する予定だった理央とは教室で別れ、私は男子の指定した、一号館と三号館の間に位置する校内の広場へ向かった。


 異性に呼び出された事などは中学に入学してから一度も無かったから、私は広場に着くまでのわずかな時間のうちに妙な動機を胸に走らせていた。 放課後という時間に男子生徒が異性わたしを呼び出すという行為の真意について、私は一つの心当たりがあった。 それは『告白』だ。


 しかしながら、その男子生徒とは一年生の時に同じクラスだっただけで、二年生以降はまったくと言っていいほどにその男子との接点は無かったから、先の心当たりも当てにはならなかった。 だからこそ高揚に成り切る事の出来ない妙な動悸が私の胸に走っているのだと思う。


 あれこれ考えを巡らせている内に広場に辿り着いた私は、私を呼び出した男子生徒――名は小寺という。 小寺くんの姿を一号館寄りの一本の木の下に認めた。私が完全に小寺くんのそばまで近寄る前に私の姿を発見したらしい彼は、私を視認するなり微笑を浮かべながら胸辺りに軽く手を挙げて挨拶を果たした。 その挨拶を見た私も軽く会釈えしゃくをした。


 それから小寺くんの傍まで立ち寄った私は率直に「小寺くん、私に用って何かな」と彼にたずねた。 小寺くんは「あー、その話なんだけどさ」と言いつつ、私からあからさまに目線を反らしたり後頭部辺りを手で掻いてみたりとえらく落ち着きが無く、一向に本題に入ろうとしなかった。


 彼のそうしたいかにもな(・・・・・)態度から察するに、私の広場へ辿たどり着く前に予想していた例の心当たりが本当に的中してしまったのだろうかと、今になって私も心を取り乱してしまいそうになった。

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