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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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第五十話 ほんの些細なこと 32

 校門の門構えとして左右にそびえ立つ二.五メートル超のへい悠々(ゆうゆう)と越す満開の桜の木々が新入学生を迎える頃、私と理央はとうとう中学として最上級生の三年生へと進級した。 しくも担任の先生は一年の時と同様、荒井先生だった。 入学した当初は同じくらいの背丈だったのに、いつの間にやら私は理央の身長を軽々と超えてしまっていた。


 私は入学まもなく知り合った理央と共に今日こんにちまで濃密な時間を過ごしていたのだけれど、理央と出会ってからの私の時間の進み具合は小学校の頃と比べて数倍早く、二年という歳月の内に私の六年間の小学生時代をはるか遠くに置き去りにしてしまったような感覚さえある。


 精神的に充足した中での時間の経過はこれほどまでに加速するものかと、日々退屈だった小学校時代と今とを照らし合わせてみるたび、理央と出会った日以降の時間の加速具合を如実に感じ、私という存在すら置いてきぼりを食らいそうな錯覚を覚えさせられた。


 肝心の理央との仲は相も変わらず健在で、進級するたびにクラス替えも行われたけれど、もはや運命共同体とでも言うべきか、私はその年を含めて理央と同じクラスで、一度たりとも彼女と離ればなれにはならなかった。 ひょっとすると、入学式の日、理央が私の右隣に位置し、私に声を掛けてきたその瞬間ときから、私と理央がねんごろな関係になる運命は神様に決定付けられていたのかも知れない。


 そして、中学三年生という身分になる事はすなわち、進学という将来の進路と真摯しんしに向き合わなければならない身分になったという事。 私の通う私立中学は中高一貫の学校だから、本人の希望で外部進学を望まない限りは内部進学が可能だった。


 進学における一通りの内部試験などは執り行われると耳にはしたけれど、余程内申に問題が無い限りは進学を約束されているようなものらしいから、中学に続いて高校にも特待制度のある事を知っていた私が、外部進学という自ら恩典おんてんを放棄するような選択肢を選ぶ道理はこれっぽっちも無かった。


 そうした進学事情をあらかじめ知り得ていたがゆえに、特待制度を得られるかいなかという不安にさいなまれつつ日々勉学をこなしてのぞんだ中学受験に比べると今の私の身分は呑気のんきなものだと、進学という二文字はたちまち私に特別な感情を与えなかった。


 そうは言っても、理央もまた私と同じく内部進学を希望していたから、その事柄が意識の外だなどと格好良く余裕よゆう綽々(しゃくしゃく)の気味でのたまいつつも、進学という言葉を耳に認めるたびに高校でも理央と同じクラスになれればいいなと、私は私の一年先の未来を安易に想像していた。 そうして、その想像がいつしか数年先の未来へとおよんだ頃、私の心には冬の朝霧あさぎりの如きとある懸念(・・・・・)が濃く立ち込め始め、私の未来を見据える目をさまたげていた。


 "私はこれから先もずっと、理央と今の関係を継続してゆくのだろうか"


 私の懸念の原因となっていたのは、理央の存在だった。 別にその頃何かしらの要因で理央と不仲になってしまったという訳でもなく、かえって私と理央の恋仲は過去にないほど最高潮に燃え盛ろうとしていた。


 だけれど、明けない夜が存在しないが如く、下りないとばりも存在しないよう、現今の私と理央の恋仲を完全に昇り切った正中せいちゅうの太陽とするならば、いつまでもその高度を保っていられるはずもなく、必定ひつじょう、いずれはやがて西へ落ちてゆく。 私は、このまま理央と同性間の恋愛という不安定極まりない事を続けていていいものかと、妙に冷静に考えさせられていた。


 これまでは、理央との禁断の恋愛という目先の欲望を優先し、そうした現実的な問題をたけ思考によぎらせないようつとめていた。 まだまだ精神的に未熟である中学一、二年の私が数年先の未来の事などを案じている筈も無く、その日暮らしではないけれど、その日の感情を大切に私は日々を過ごしていた。


 けれど、進学というもっともな自身の未来と何度も向き合っている内に、いよいよその問題は満を持して私の眼前に亭々(ていてい)と現れた。 私にとって無回答で逃げられない問題を目の前に突き付けられたのだから、もう、先延ばしや遠回りは許されない。 そもそも、本来ならばこの問題は理央とそうした関係を結んだ直後に向き合わなければならなかったのだ。


 面倒事は率先して片を付けるという私の方針ポリシーはその程度の弱い意思で成り立っていたのかと、私は私にいましめられた。 自分自身にとはいえ、そこまで言われたからには私も肩を落とし項垂うなだれ続ける訳にはいかなかったから、私は理央と恋仲になって初めて、私と理央の関係に対するこれからのすえと向き合った。

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