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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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第五十話 ほんの些細なこと 7

 それから全生徒がくじを引き終えた後、一人の先生がマイクを通じて、今から組と番号を読み上げるから、自分の引いた番号と読み上げられた番号を間違えないよう注意して自分の組を確認して欲しいと伝えてきた。 間もなく先生は一組から番号を読み上げ始めた。 私は一年七組だった。


 全ての番号が読み終えられた後、私たちは先生先導のもと、一年生の教室のある二号館の二階へと向かった。 小学校の時は同階層に四教室しか無かったから、同階層に十以上もの教室があるこの学校はやはり巨大なのだなと、最早カルチャーショックとでも言うべきか、そうした驚倒と戸惑いのような感情が私の全身を巡った。


 それと同時に、期待もした。 私と同等か、もしくはそれ以上の頭脳を持つであろう同い年の同級生が三百余人居るのだから、きっと小学生時代では得られなかった切磋琢磨出来る友人の一人や二人は出来る筈だと。

 A特待に選ばれたとはいえ、一年間の成績の結果によっては特待を剥奪される場合もある。 そうなってしまったら私は父母に多大な迷惑を掛けてしまう。 だからこそ私はあの少女のような不真面目な人間をあそこまで毛嫌いしていたのだ。


 けれど、入学式から続いていたその心配もここで終わるだろう。 神様の悪戯いたずらでもなければ、私があの少女と同じクラスになる訳がない。 何故なら私は真面目で、あの少女は不真面目だからだ。 こんなのは何の根拠も無い私の願望でしかないけれど、これまでの私の人生において、真面目な者はむくわれて、不真面目を働く者は例外なくむくいを受けていたから、私は私の経験してきた因果応報を安直に信じた。


 そして七組と言っても、教室へのアクセスには然程さほど不便を感じなかった。 教室が全て一列に並んでいれば、教室の大きさの基準である七四平方メートルを元に換算して、一組から七組までの距離はおよそ五〇メートルを超えるから辟易へきえきしただろうけれど、それぞれの学年の教室が設けられている二号館は()の字型の作りになっていて、二号館の北側に一組から五組、南側に六組から十組までの教室がある。


 私たち一年生の教室のある二号館二階へ繋がる南西の階段を使用したとすると、二階に辿り着いて一番近い教室が六組だから、七組は二番目に近いという事になる。 当初は移動教室の際は多少余裕を持って移動を開始しなければならないと懸念していたけれど、さほど各教室へのアクセスには不便しない事が分かって少し心の軽くなった私は、生徒たちの流れに乗って七組の教室へと入室した。


 床はパーケットフローリング仕立て。 私たちの教室使用に合わせて先生ないし上級生が丁寧に掃除してくれていたのか、床に適度なつやが見られる。 それから入試の時にも驚かされたけれど、この学校の机と椅子は一体型で、椅子の位置が完全に固定されていて前後の調整が利かないから、この仕様だけは少し不便だと思った。

 けれども、新しい環境というものは理由はうまく説明出来ないけれどついつい心をおどらせてしまう。 これから如何いかような知識を得られるのだろうと期待を抱かない訳にはいかない。


 そうして教室から得られる情報を元に様々な思考を巡らせていると、教壇側の黒板に何やら四角が規則正しく数十個描かれていて、その四角の中に数字が記入されている。 それを見てまもなく、その図形が教室の平面図を表している事に気が付いた私は、恐らく四角の中の数字が自分の座るべき座席なのだろうと理解した。


 すると私たちと同じくして入室していた一人の女性の先生が黒板に描かれている図形と数字の説明をし始めた。 やはり私の予想通り、それは座席の位置を表すものだったらしい。 私は自身の番号の席を探した。 私の席は廊下側の最後列。 黒板からは最も遠い位置になるけれど、視力は良い方だから極端に小さな文字を書かれない限りは授業に支障は無いだろう。 私は早速自分の席へと着いた。


 次々に座席が埋まってゆく中、私の右隣の席には未だ生徒が座る気色が無い。 よもや入学式を欠席したという事も無いだろうから、お手洗いにでも行っているのか、はたまた、自身の番号に対応した教室を間違えて迷子になっているのか。 その生徒が男か女かも定かでは無いけれど、私の隣に座する以上は私も一定のコミュニケーションを図らなければならないから、未だ現れない右隣の座席の主が気になってくる。


 ふと、黒板に書かれた私の右隣の座席番号を見た。 四九とある。 その数字はよく覚えている。 私の入試の時の受験番号であり、私の好きな数字だ。 私がその数字を引いていれば運命的な何かを感じられていただろうけれど、運命もそこまで私に甘くは無かったようだ。 少し悔しい。 その番号を引いた右隣の生徒を羨ましく思う。 ますます右隣の生徒の存在が気に掛かってくる。


 それから空席が私の右隣の席のみとなった頃、教室の前方から一人の女の子が現れた。 その子は、あの栗色のショートカットの少女だった。 少女は先程くじで引いたであろう紙を先生に見せた後、先生の指を差す方向へ歩き始めた。 それはすなわち、私の居る方向。 私は現実を疑った。 あろうことか、私の右隣の空席の主、座席番号四九の生徒というのは――


「おっ、奇遇だね。 キミもこのクラスだったんだ?」


 失敗する余地のある時は失敗する――マーフィーの法則とは言い得て妙だと一人納得した。 この世で自身に起こり得る災難の確率ほどあてにならない数字があるだろうか。 例の少女は入学式の直後に私から言われた拒絶の言葉すら右から左へと受け流していたかの如く、何事も無かったかのよう私に喋りかけてきた。

 私は生まれて初めて、神様に裏切られたような気がした。

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