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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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第五十話 ほんの些細なこと 3

 私の狙っている特待生には階級がある。 それはA特待とB特待に分けられ、A特待の条件は入試で行われたテストの総合点数が九割以上の優秀者に贈られ、入学金、授業料、教科書代、学食代、交通費の都合五つの免除が適応される。 変わってB特待の方はというと、A特待の条件とほぼ同じく総合得点が八割以上の佳良者が対象で、こちらは入学金、授業料の二つのみが免除となる。


 いずれの特待にも人数制限などはなく、どちらの恩典おんてんも私にとって魅力的な事に違いは無かったけれど、通学に掛かる費用の事を考えると、出来ることならばやはりA特待を取りたかった。 けれども、総合点数を九割以上に収めるのは決して容易たやすくはない事を理解出来ないほど、私の楽観視は過ぎていなかった。


 それが私の通う小学校のテストの数々ならまだしも、私の入試を挑んだのは県内屈指の難関校。 試験の手ごたえは十分感じたと格好よくのたまったはいいけれど、正直なところ、確実にA特待の条件をクリア出来ているかと問われてしまうと、私は小気味良く首肯しゅこうを果たす事は出来ない。 つまるところ、必ずしもA特待の条件を満たしているという自信は無かったという事だ。


 現に、当中学のホームページで前年度に特待生の条件を満たした者を調べた事があるけれど、B特待が二名、A特待に至っては一人も居なかった。 特待に人数制限が設定されていないのは、こうした背景があるからこそなのだろう。 それらの情報だけでも、B特待はもちろんA特待などは狙って座する事など出来ない、まさに選ばれし者の座席なのだという事が読み取れる。


 しかしながら、結果も見ない内に弱気になるほど私も諦めの過ぎた人間じゃあ無い事は私自身理解している。 全体特待云々(うんぬん)などは合格証を見れば一目で分かる(特待の可否が合格証に記載されているという事は事前に把握済みだった)。 変に気負いするだけ損だ。 ひとまず合否を知ろうと、私は早足気味に昇降口前へ急いだ。


 昇降口前に辿り着くと、既にそこには受験者とその保護者らしき人たちが大勢集まっていた。 試験の時はそれぞれ割り当てられた教室でテストをこなしていたから全体的な人数は把握出来なかったけれど、こうして改めて一堂に会してみると結構な人数だ。 試験が四日間にわたって行われるからこれでも人数は分割されているのだろうけれど、保護者の数も都合すれば二〇〇人は悠に超えているかもしれない。


 そして昇降口より少し手前の広場には合格者の受験番号が記載されているであろう縦長のパネルが二枚用意されていて、しかし番号はパネル全体に新聞紙が巻き付けられているから読み取れなかった。 発表の時間と共にあれを取り外すという形式なのだろう。


 しかし、これだけの人数が集まると喧騒の一つや二つは起きていそうなものだけれど、不思議と皆が皆静まり返っていた。 きっと私と同じくして、他の受験者も、保護者も、合格発表を隠す新聞紙がいつ取り外されるのだろうと固唾かたずんでいるに違いない。 そうして、無意識なる一体感とでも言うべきか、妙な静寂がしばし続いたかと思うと、パネルの傍にいた学校関係者数名が動き始め、私たちに背を向ける形でそれぞれのパネルの前に整列した。


 とうとう、私の将来を左右するあのヴェールの下の結果が明かされる時が来たのだと、私はまばたきすらも忘れて新聞紙が取り外されるのを待ち――外された新聞紙の下から、合格した受験者の受験番号が現れた。 それから間もなく、比較的前列に位置していた受験者及び保護者たちの中から、一つの歓声が沸き上がった。 その声が水端みずばなとなったのか、前方から次々に歓声が聞こえてくる。


 私も一秒でも早く自身の合否を知りたかったけれど、パネルに記載されている受験番号が生憎あいにくの小ささで、私も目は悪くないほうだったけれど今の位置からでは到底自身の番号を見つける事は叶わなかった。 だから私はいささか強引に人の波をかき分けながら番号が確認出来る距離にまで移動し、そうして、番号の一つ一つがはっきりと認識出来る位置に辿り着いた私は、自身の受験番号を探し始めた。


 私の受験番号は四九。 余談だけれど、私はこの『四九』という数字が好きだ。 一見素数に見えてしっかりと七で割り切れるこの数字のひねくれ感というべきか、そういう生意気さがこの数字からはかもし出されている。 この事は親にも担任の先生にも共感を得ようとした事があるけれど、親は揃って首をはてなとかしげ、先生も苦笑いで私をあしらって、結局私の『四九』という数字に対する思いはついぞ理解された試しが無かった。 だから、もしこの学校に私と同じ感覚を持つ人が一人でも居れば嬉しいなと妙な願望を抱きつつ、私は四〇番台の記載されている行を凝視した。


 四〇――四三――四四――四九。 あった。 私の番号は確かにそこにはっきりと記されてある。 私は、合格したのだ。 県内屈指の難関校に。 けれども、まだ手放しでは喜べない。 パネルに記載されているのはあくまで合格者の受験番号のみで、特待か否かは受付で合格証を受領するまでは分からない。 仮に私が特待生としての条件を満たせていなかったら、私はこの中学に通う事を諦めなければならなくなる。 それは、私がこの私立中学を受験すると決意した時から決まっていた事だ。

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