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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第五部 太陽は月を照らして
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第四十八話 幸福の定義、初恋の行方 3

 午前は十時前。 時折通り過ぎる寒風はさすがに身にこたえるけれど、今日も冬晴れの陽がしっかり地上を照らしてくれているから、風さえ無ければコートもマフラーも要らないほどの穏やかな気候だ。


「んじゃあまたなみんな。 よいお年を! 千佳ちゃん、詳しい時間はまたメッセ送るわ」

「うん、じゃあね三郎太くん」


 三郎太とは校門で別れた。 「向こうでサブに会うかも知れんと思うと気が休まらんな」竜之介の愚痴みたようなひとり言を最後に、僕たちは駅へと歩き始めた。


「さっき聞き忘れてたけど、綾瀬くんは今日何か用事あるの?」

 それから駅までの帰路の途中、平塚さんが先の話題を続けようとしていた。


「うん、僕も夕方からなんだけど出かける用事があるんだ」と僕が答えると、平塚さんは「えっ、まさか綾瀬くんもデートとか……」と妙な詮索をしながらえらく驚いた様子を見せていた。


「いやいや違うよ。 ――でも、僕にとって大事な用なんだ」

 僕はきっぱりそう言い切った。


「そう、なんだ。 じゃあ今日特に用事無いのって私だけってこと? なんかすごい寂しいんですけどっ?」


 平塚さんは悲哀に満ちあふれた語調で自分だけ用事の無いのをなげいている。 普段は自身の恋愛事に関してあまり口を開かない平塚さんだけれど、竜之介や古谷さん達がクリスマスという大事な日に恋人との時間を過ごそうとしているから、ひょっとすると彼女なりに焦りだとか出遅れ感をいだいてしまっているのかもしれない。


 そのあとあからさまに落ち込んでいる平塚さんをみんなでなぐさめつつ、「私も来年のクリスマスはぜったいイイ人と過ごすんだからっ!」という信念めいた宣言を聞いたあと平塚さんとも道中で別れた。 僕たち三人はそのまま駅へと向かった。


 そうして駅に辿り着いてまもなく、「あの、ユキくん」という古谷さんのやけにばつの悪そうな声が聞こえてきて、「どうしたの古谷さん」と僕が答えると「もし今から時間に余裕があったら、少しおはなししたい事があるんですけど」と、何やら僕に用があるのだという事を告げてきた。


 もちろんその申し出は竜之介にも聞こえていて、それを聞いていたのがもし三郎太や平塚さんであれば、突拍子も無い詮索で僕や古谷さんを困らせて来ただろうけれども、さすが竜之介とでも言うべきか「ほんだら俺は先に帰っとるわ。 また来年もよろしく頼むでお二人さん」と言い残し、こちらを振り向きもせず一人改札を抜けてホームへの階段をのぼって行った。

 彼の階段を上ってゆく背中を眺めているうちに、男とはかくあるべきだという僕の中の男性像がまた一つ更新されたような気がした。


「ちょっと、悪い事しちゃったかもしれないです」

 竜之介の気遣いを察したのか、古谷さんはそう言いながら竜之介の背中を見送りつつ後ろ暗そうな横顔を覗かせていた。


「竜之介はそんな事気にするような人じゃないから大丈夫だよ。 それより、僕に話したい事っていうのは」

 いささか消沈気味の古谷さんをフォローしたあと、僕は僕に話を持ち掛けてきた古谷さんの意図を探ろうとした。


「あ、そうでしたね。 ちょっと長話になるかもなので、出来れば落ち着いて座って話せる場所がいいんですけど、どこで話しましょうか」


「そこにベンチはあるけどさすがにここじゃ目立つだろうし、ちょっとこの辺を歩いてみて、どこか適当に座れるところがあったらそこで話そうか」


 駅付近に一基のベンチはあったものの、まだ学校から駅までの通学路には電車を利用するであろう生徒の姿がちらほら見受けられたから、いくら古谷さんと三郎太が恋仲になっているとはいえ――いや、彼らが恋仲になったからこそ、僕が彼女と二人きりで話し込んでいる姿などは安易に見せるべきではない。 よって、駅付近で話し込むのはあまりよろしくない。


 かと言って電車の都合もあるからあまり離れすぎると不便だ。 どこか駅の周辺に、目立つ事もなく落ち着いて腰を下ろして話せる場所があればいいのだけれど――と、古谷さんと共に駅周辺を散策していると、駅より南西方向に六、七〇メートルほど進んだとある住宅街の一区画に小さな公園を発見した。


 公園から駅はちょうど家々にさえぎられて見る事が出来ないから他の生徒の目に映る事もなく、また人通りもあまり無さそうだったから、僕は「ここで話そうか、ベンチもあるし」と古谷さんに提案した。 彼女も「そうですね」と難色を示すことなく承諾してくれて、そうして僕たちは公園のベンチへと腰を下ろした。

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