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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第四部 月は太陽を蝕んで
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第四十七話 友情の雨 6

 気が付けば四時間目終了のチャイムが僕の耳を打っていた。 結局登校してから僕は一度も例の四人とまともに顔を合わせる事もなく、焦り、不安、動揺――などの様々な負の感情を胸中に育てながらこの時間まで無為に過ごしてしまった。 チャイムが鳴り終わってから、僕は横目で彼ら彼女らの動向を探った。


 まず三郎太が古谷さんに声を掛けた後、二人揃って教室を出て行った。 恐らく食堂へと向かったのだろう。 それから次いで竜之介が席から立ちあがり、誰に声を掛ける事もなく一人教室を後にした。 彼も間違いなく食堂へと向かったろう。 最後に平塚さんが席から立ち上がったかと思うと、先の竜之介と同じくして一人教室を退室していった。


 ――四人とも食堂へ向かった事を確認出来た僕は、覚えず安堵のため息をついた。 あとは彼らが食堂を出るタイミングを見計らい、僕が食堂へ向かえばひとまずは安心だ。


 しかしこれでは何だか僕があからさまに彼ら彼女らを避けているようであまりいい気分では無かったけれども、今はまだ僕の方からアプロ―チを掛けられそうにもなかったから、こうした逃げの姿勢を取ってしまうのも仕方のない事だ。

 今日の玲さんとの昼食時に、どうすれば僕は彼ら彼女らと元の仲に戻れるだろうかと相談しよう。 玲さんならきっと、僕にとっての最適解を導き出してくれる筈だから。


 それから僕はしばらく自分の席で時間が過ぎるのを待った。 すると山野くんがこちらに向かってきたかと思うと「ん、綾瀬君、食堂には行かないのか?」と、突然声を掛けてきた。 山野くんは毎日食堂を利用しており、彼とは食堂で何度も顔を合わせているから、もちろん僕が食堂を利用していた事も知っていたのだ。


「あぁ、うん。 金曜休んでた分もノートを取ってて、さっきの授業中にノートが取り切れなかったんだ。 これが終わってから行くつもりだよ」


 実際のところ金曜日の授業の分は後で個人的に復習しようとしていたのではなからノートなど取っていないし、先の授業分のノートも既に取り終えていたのだけれど、先の山野くんみたように万が一に僕が食堂へ行かずに教室に滞留していればクラスの誰かしらに不審がられるであろう事は予覚していたから、僕は四時間目のチャイムが鳴り終わってからもなおペンを持ち続けてノートを取るふりをしていたのだ。


「そうか、綾瀬君レベルでも一日授業が遅れると結構巻き返すのに大変なんだな」

「そう、だね。 それに僕もそれほど頭が良い方じゃなくて復習に復習を重ねてやっと自分のものに出来るタイプだから、大事な公式とかが出る授業を逃したら結構困るんだ」


 意図があるとはいえ山野くんを騙してしまっている事に変わりはないから、僕は見え見えな愛想笑いを振り撒きつつ心を痛くした。


「なるほどな。 俺が頭良かったら色々教えてやれたんだけど、俺も勉強があんまり得意じゃないからなぁ。 ごめんな、何も力になれなくて」


「ううん、その気持ちだけでも十分だよ」


 相変わらず山野くんの言葉は社交辞令にはまったく聞こえないから驚かされる。 きっと彼の本心から出る言葉だからそうした態度を一切匂わせないのだろう。 それが彼を彼たらしめている所以ゆえんなのだろうけれども、しかし今の僕にはその気遣いが余計に胸に刺さってしまう。


 案の定お腹の中に謎の流動体が走り始めてまもなく、キリキリと痛み始めた。 この状態で昼食がまともに食べられるだろうかと、少々不安になる。

 それから山野くんは「んじゃ俺も食堂行くから、頑張ってな綾瀬君」と言い残して数名の男女と共に教室を後にした。 教室には今、十名程度の生徒しか残っておらず、居残っている生徒の大半は弁当持ちで自身の席で昼食を摂っている最中だから、山野くんたちが教室を出てから以降、嘘のように教室は静まり返った。


 そうして時刻は十二時五十分前、玲さんとの約束の時間までは残すところ十分程度だから、そろそろ食堂へ向かう段取りを付けておかなければならないと思い、僕は机の上に広げていたノートやらの勉強道具の片付けに入った。 するとその途中、僕のスマートフォンがズボンのポケットの中で振動した。


 時間から察するに多分玲さんからだろうと予測してから着信内容を確認すると果たして玲さんからのメッセージだったようで、[今食堂にいるけど、古谷さんとかは食べ終わったみたいで食堂には居ないから、もう食堂に来ても大丈夫だよ。]という食堂事情を僕に教えてくれた。


 僕が彼ら彼女らと食堂で昼食を摂っていた時、全員の昼食を終えてから食堂を出る頃にはだいたい十三時過ぎになっていたから、食べ終わるのにはちょっと早い気がするけれど、そもそも食堂を出るのが十三時過ぎになるというのも、昼食を摂りつつああだこうだと他愛無い話を平行しているからこそで、時には全員が昼食を食べ終えてからも食堂の閉まる直前まで喋っている事も決して珍しくはなかったから、今現在彼ら彼女らがほぼ個別に昼食を摂っている現状にかんがみれば、十五分程度で昼食を手早く済ませているという事実にも納得が行く。


 そもそも玲さんが彼ら彼女らの存在をうそぶいたところで何のメリットも無いだろうから、彼女の情報は間違いなく本当だ――ここまで深く推察しておいて、僕は何をそこまで慎重になっているのだろうとむなしくなる。

 とにもかくにも玲さんが既に食堂に居る以上、彼女を待たせるのは失礼だ。 僕は[わかりました、今からすぐ食堂に向かいます]と返信した後、勉強道具を片付け終えてからいよいよ席を立ち、若干の不安を抱きながら食堂へと向かった。

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