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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第四部 月は太陽を蝕んで
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第四十七話 友情の雨 5

 翌週の月曜日。 僕は通常より一本遅い電車で学校へと向かっていた。

 ――先週の木曜の夜中から金曜の午前中に掛けて僕を襲った高熱は、日曜に目が醒めた頃にはほぼ完治していた。 やはり玲さんに言われた通り、多少の食欲不振だろうがお構いなしに食事をしっかり摂って、変に夜更かしなどもせずとこいていたのが功を奏したようだった。


 体調もすっかり元通りになったという事で、日曜の午後からは近所の携帯電話販売店に足を運び、恐らく雨の浸水によって故障しているであろう僕のスマートフォンの具合を店員に確認してもらった。 果たして僕のスマートフォンは浸水により使用不可となっていて、修理したところで浸水による何かしらの不具合が今後出る恐れもあるから携帯端末を交換した方が無難だという話になって、僕のスマートフォンはまったく新しいものに交換された。


 もちろん交換費用は無料などではない。 幸い僕の使用していたスマートフォンの利用年数はまだ一年にも満たず、そのうえ月額の保証サービスにも加入していたから、携帯端末の交換による費用の大半が保障によってまかなわれたので、親に頼らず何とか自身の小遣いの範囲内で交換費用を支払う事が出来た。


 だからと言って決して交換費用が安かった訳でもなく、思いがけぬ痛い出費となってしまったから、しばらくは金銭の掛かる娯楽などを我慢しなければならないだろう。 自業自得だとは言え、つくづく馬鹿な真似をしてしまったなと、僕は僕自身をいましめた。


 新たな携帯端末の設定などは日曜日中に終わらせていて、当初は使い慣れない新機種の操作感などに苦戦していたけれど、今ではもうすっかり以前使用していたスマートフォンと同等の操作感で扱える程度には操作に慣れている。


 一時はデータの全消去を心配したSNSアプリの方も、携帯端末ではなくアカウントの方にデータが残っていたようで、アプリをインストールし直して以前のアカウントでログインすると、なるほど連絡先は全て残存していた。 ただ、以前までの会話内容は全て消えてしまっていたからそこだけは少し残念に思ったけれど、連絡先が残っていただけでも儲けものだという事で素直に割り切った。


 そしてその日の夜、僕は僕の携帯電話が使えるようになったという旨をメッセージとして玲さんに報告した。 既読が付いてからまもなく[やっぱり故障してたんだ、でも今日中に使えるようになって良かったね。]と言ってくれた。


  あのような言い訳の効かない出来事を経つつも、こうしてまた玲さんとメッセージのやり取りが出来る日が来るとは思ってもいなかったから、その時の僕はまるで奇跡と顔合わせでもしているかのような気分だった。 それから一時間程度玲さんとメッセージで会話していると、彼女は思い出したかのよう突然[そうだ、明日のお昼、私と一緒に食べない?]と、僕に昼食の誘いを持ち掛けてきた。


 一体何の意図があってそうした誘いを僕に持ち掛けてきたのだろうと少し疑問には思ったけれど、せっかく玲さんが僕を誘ってくれたのだから、僕がそれを断る道理もなく、そればかりか僕自身彼女から昼食の誘いを受けた事をとても嬉しく思ってしまっていて、そうして僕は[いいですよ]と彼女からの誘いを承諾した。


 しかし承諾のメッセージを送信して間もなく、ある懸念が僕の頭をよぎった。 今の季節は冬で、その日も先週の温暖さとは裏腹にすこぶる寒かった。 だから月曜日もいこいの場所は使用出来ないと考えていた。 となれば、僕たちの昼食を食べる場所は必然的に食堂となる。 そしてその食堂には一堂に会していなくとも、間違いなく三郎太、古谷さん、竜之介、平塚さんの四人が居るだろう。


 彼らとの不和が解消されていない今、何の算段も無く彼らが居るであろう場所へはあまり近づきたくはないという怯懦きょうだの念が僕の心の中にはある。 だから僕は先のメッセージを送って間もなく追加で[食堂で食べるんですよね?だったら十三時ぐらいからでもいいですか]と玲さんに送った。 彼女はすかさず[何で?]と返信してきた。


 僕は正直に[あまり早い時間帯から食堂に行ったら、多分古谷さんとか他の友達が居ると思うので]と答えた。 すると玲さんは[そっか。 なら十三時からにしよっか。]と、僕の懸念に対する言及もしてこず、あっさりと僕の指定した時間にしようとうけがってくれた。


 彼女にしてはえらく素直な態度だったから驚かされたけれど、昨日以前の僕の精神状態を知っていたからこその、玲さんなりの僕への気遣いだったのだろうという推断を下した僕は、それ以上の玲さんらしからぬ態度の真相に関する推察をきっぱり取り止め、[わかりました、じゃあ明日その時間でお願いします]と、改めて玲さんとの昼食の約束を交わした――のが、昨日までの出来事だ。


 薄寒うそさむげなぞらを窓から眺めつつ、僕の胸中には今、二つの感情が螺旋のように渦を巻き続けている。 それは、玲さんと昼食が摂れるという妙な喜びと、古谷さん達とうまく折り合いを付けられるだろうかという不安だ。


 前者の感情の方は何の問題も無かったけれど、後者の感情については今もその事についての思考が僕の脳裏をよぎる度、お腹の辺りに液体らしきものが走るような感覚を覚えると共にお腹がキリキリと痛みだす。

 僕の携帯電話が一新されてからも、古谷さんを始めとした彼ら彼女らから連絡が来る気色は無かったから、ひょっとすると僕はもう既に彼ら彼女らから愛想を尽かされているんじゃないかしらと勘繰ってしまっていたからだ。


 けれど、そうなってしまっていたとしても、僕は文句の一つすら口にしてはいけない。 何故ならこの事態はまったく僕の自業自得なのだから。 むしろあの状況から玲さんと折り合いが付いただけでも僕にとってはまぎれも無く奇跡のたぐいに相違ないのだ。


 故に、今後彼ら彼女らと折り合いが付かなくとも、僕はその事実を自身の愚かさが招いた結果として素直に受け入れるつもりでいた――はずなのに、僕の心のどこかには、彼ら彼女らと離れたくないという甘えた気持ちが残っているらしく、やはり僕は一貫した意思を持てない浮付いた人間なのだなと改めて認識してしまった。


 しかし、もしもこの世に神様がいて、人生で一度だけ願いを叶えてくれるというのならば、僕はその一生の願いをまさに今、惜しげも無く使用するだろう。

"どうか神様、僕がまた彼ら彼女らと元の仲に戻れますように" と。

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