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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第四十話 努力の果てに 1

 模擬店が閉店した後、一年一組の教室ではそれぞれの生徒が達成感に満ちた顔付きで思い思いの事を語り合っていた。

 来店したお客さんの事、変身にあたって人気のあった服装の事、一番指名の多かった接客担当の事、執事役の女子二人に執拗に手を出そうとしていた不遜な輩を竜之介が撃退していた事。 中には感極まったのか、涙を流している女子も居た。 それだけ今回の文化祭に思い入れがあったのだろう。 その姿を見た僕の胸も自然、熱くなった。


 それから僕たち接客担当は制服に着替えてからメイクを落とし、皆より少々遅れて昼食を摂る事となった。 僕、竜之介、平塚さんの三人は、先に食堂で昼食を食べていた三郎太、古谷さんと合流し、そこでまた僕たちのクラスの出し物についての話題で大いに盛り上がった。


 僕は客引きとして模擬店が終了するまでほとんどの時間を教室前で過ごしていたから、店内の様子、とりわけ変身にたずさわる役割の人の行動はまったくと言っていいほど把握しておらず、変身を要望するお客様への対応――アパレルショップさながらの衣服の詳しい説明――残存衣装の把握――変身後に返却された衣服類のアイロン掛け――ウィッグや帽子などの被り物の消臭――一部の衣服類の着付けの手伝い――忙しさのピーク時にはそれこそ猫の手も借りたいくらい、今ここで三郎太と古谷さんの話を聞いて初めて彼らの極めてせわしなかったのを思い知った。

 けれども彼らはそうしたいそがしさに対し疲労の色は見せていたものの、不満や不平などをこぼす気色も無く、そればかりかどこか満足げな顔つきで自分の役割を果たす事が出来たと語っていた。


 昼食を終えた後は、十三時ちょうどから体育館で文化祭の閉会式が執り行われた。 閉会式といっても粛々と行われるものでもなくフィナーレ的なもので、吹奏楽部の派手な演奏から式は始まり、その後は教職員による生徒へ向けての出し物が行われ、ある先生たちは趣味でたしなんでいるという華麗なダンスを披露したり、先の吹奏楽部に負けず劣らずのバンド演奏をしたり(ボーカルは普段落ち着きを払っている女性の先生で、そのギャップの激しさには大半の生徒が度肝を抜かれたようだ)、トリを飾った最後の出し物は、テレビのCMなどでよく耳にする洋楽の小気味良いリズムに合わせたパフォーマンスで、曲の歌い出しの部分からマイクを片手に颯爽と幕間から舞台へと現れたのは、我らが一年一組の担任の先生だった。


 先生がこうした出し物をするなどとは本人の口から一言も聞いておらず、先生が舞台に現れた時には一年一組の皆も驚きを隠せなかったようで、僕も隣に居た三郎太と一緒になってただただ驚いたけれど、そのどよめきが歓声に変化するのには然程さほど時間をようさなかった。 普段の堅物な態度に似合わず、非常に荒々しく、そして流暢りゅうちょうな発音で先生は見事洋楽を歌い上げた。 今日の終わりのホームルーム時の先生の反応が楽しみだ。


「――以上で、教職員による出し物は終了となります。 出演して下さった先生方、ありがとうございました! 皆さんも普段は見られない先生たちのあんな姿やこんな姿はたっぷり堪能出来たでしょうか? それではいよいよ、表彰式の方に移りたいと思います。 まずは、昨日行われた舞台出し物の部から発表しちゃいましょう!」


 教職員の出し物が終わった後は、文化祭の出し物の中で特に秀でていた出し物を称える為の表彰式の時間となった。 余談ではあるけれど、今舞台の上で進行を務めている女生徒は、今年の七月に執り行われた球技大会の閉会式の司会を任されていたあの(・・)女生徒だった。


「えとですね、昨日行われた舞台出し物の総数は八演目。 そのうちクラスとしての出し物が三演目、残りの五演目は個人グループとしての出し物でした。 去年よりちょっと増えましたね。 去年は確か六演目くらいしかなかったはずなので。 正直私個人としては全ての出し物に賞をあげたいくらい楽しませてもらいました。 でも、お偉い方々から順位を決めろというお達しがあって、泣く泣く上位三演目のみ表彰する事となってしまいました。 あ、でも勘違いしないでくださいね? 私が順位決めた訳じゃないですから。 仮に入賞してなくて『何で俺たちの出し物を選んでくれなかったんだ』なんて言われても困りますからね? 皆様と先生方の投票の結果を私が読み上げるだけですからね? そこは勘違いしないようにっ!」


 球技大会の時から一目置いていた饒舌じょうぜつっぷりは変わらず健在のようで、舞台の上でたったひとり全校生徒及び先生たちを前に、本来の司会進行に全く関係ないであろう台詞を即興アドリブよどみなく滔々(とうとう)まくし立てられる胆力はもはや敬服の一言に尽きる。 咄嗟とっさの機転の利かない僕に、彼女の爪のあかせんじて飲ませて欲しいくらいだ。

 それから司会進行の女生徒は時折冗談を交えつつ、先日行われた演目の順位発表を第三位から発表し始めた。

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