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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十九話 変身 7

 それから一時間ほど経過した頃、客足は少し落ち着いていた。 一時は変身担当の手が回らなくなるほどに店内はてんてこ舞いだったようだけれど、これで多少の余裕は出来た事だろう。 僕の方も先程まで客引きだったり写真撮影の対応だったりで忙殺されていたから、しばしの休息は見込めるはずだと安堵のため息をついた。


「お疲れさん優紀、中々うまいことさばいとるみたいやないか」

 僕が廊下の窓から校門の方を眺めていると、不意に僕の傍に現れたのは竜之介だった。


「うん、最初の頃はぎこちなかったけど、今じゃ結構対応の方にも慣れてきたよ」


「そうか。 店内の方でもお客さんから優紀の話題が出とってな、俺も何回も聞かれたわ。 あの子ほんまに男の子なんですか? ってな」


 店内でもそうした話題が出ていたとはつゆ知らず、少し照れ臭さもあったけれど、それと同じくらい嬉しさもあった。


「はは、何か照れるね。 店の方はもう大丈夫なの?」

「おう、さっきまではやばかったけど、今やっと落ち着いたところでな、ちょっと休憩がてらに優紀の様子でも見に行こ思てな」


 やはり変身担当だけでなく、接客の方も相当忙しかったようだ。 そして竜之介はどこから出してきたのか、一本の真新しいペットボトルのお茶を手に取って『優紀もほぼ休憩無しやったんやろ? まぁ飲んどけや』とねぎらいを込めてそれを僕に差し出してきた。 普段以上に人と喋っているゆえか喉の方も乾いていたところだったから、僕はありがたくそのペットボトルを受け取り「ありがとう竜之介」と感謝を述べた。


 それからしばらく竜之介と閑談を繰り広げていると、店の前に二人の客が現れた。 一人は高校生くらいの女の子で、当高校の女子の制服とは異なる制服を着こなしていた。 今日は平日だから他の学校は授業がある筈だけれど、ここの文化祭の為に授業を抜け出してきたのか、はたまた、はなから学校を休んで文化祭に訪れたのか――いずれにせよ、彼女がお客様である事に変わりはなく、もし僕たちの模擬店に興味を示してくれるなら、僕は客引きの役割をまっとうするだけだ。


 そしてもう一人の女性は四十を超えているであろう壮年の女性で、体型はやや丸みを帯びていて随分と恰幅かっぷくが良い。 そして先程から先の制服姿の女の子と仲良さげに会話しているところを見るに、二人は親子関係なのかも知れない。 それにしても、壮年の女性の方はどこかで顔を見かけた事があったような気がする。 はっきりとは思い出せないけれど、恐らく他人の空似だろうという事で、そこまで深く考えない事にした。


 そうして粗方の客層の把握を済ませたところで、僕は「お客さんが来たみたいだから行ってくるよ」と竜之介に断って、店の前に居た二人の元へと歩き始めた――


「あ、オカン。 と、美咲っ?!」


 ――矢先、僕の後方から竜之介の驚倒とも取れる声調で二人の女性の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あら~竜之介ぇ。 えらいべっぴんさんになってもてぇ」


 恰幅の良い女性は竜之介のもとへ歩み寄りながら、彼の名を親しく呼んだ。 その光景を見ている内に、僕は彼女の正体を思い出した。 先ほど竜之介が口にした通り、この女性は彼の母親だ。 それは僕もかすかに彼女の事を覚えている筈だ。 何せ試験勉強で竜之介の家を訪れた時に、何度か彼女と対面を果たしていたのだから。


 それから竜之介はもう一人の女の子の名を『美咲』と呼んでいた。 美咲――どこかで聞いた事のある名前だと思考を巡らせていたところ、僕は竜之介の母親と同じくして、この女の子の正体にも気が付いた。 この女の子は白井美咲という名の僕らと同い年の高校一年生で、中学時代の竜之介の同級生であり――現在の竜之介の彼女でもある。


 どういった経緯で竜之介の母親と白井さんが行動を共にしていたのかは分からないけれど、先の二人の態度から察するに昨日今日の間柄でない事は確かだったから、恐らく二人は既に顔見知り以上の関係で、今日も連れ立ってこの学校に訪れたのだろうと推察した。


「そうやろ? これで街中出たらその辺の男なんかメロメロやで」

「ほんまになぁ。 それやったらいつお嫁に出しても恥ずかしぃないわ」


 ――しかし、先ほどから竜之介と彼の母との会話を横から聞いていたけれど、関西人特有のノリ(・・)なのか、それともただの二人の性質なのか、一体どこまでが本気なのか分からず、僕はちょっと話に付いていけなくなって困惑してしまった。


「それにしても美咲、自分が今日来るなんて事一切聞いてなかったぞ? びっくりするやんけ」


 母親との会話をほどほどに終わらせた後、竜之介は真面目な顔をしながら白井さんの方を向いてそう問いただした。

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