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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十八話 それは使命か願望か 2

「しかしいよいよ明日本番かぁ。 明日は一般のお客さんも来るんだよな、妙に緊張するぜ」

 後頭部で両手を組みながら、三郎太が柄にもない事を言っている。


「アホ、裏方のお前が緊張してどないすんねん。 平ちゃんとか優紀の方が緊張しとるに決まっとるやろが」

「アホ言うなって! っていうか何でその頭数にリュウが入ってないんだよ。 お前は緊張してないとでも言うのかよ」


「当たり前やろ。 むしろ楽しみでさえあるわ。 メイド服を着た俺のはち切れんばかりのわがままボディをお客さんに見てもらえるんやからな。 あぁそうか、サブと千佳ちゃんは俺のメイド服姿まだ見てないんやったな。 まあ楽しみにしとったらええわ。 腰抜かしても知らんで」


「その自信はどっから出てくるんだよ……それにお前の身体はわがまま通り越して暴君じゃねーか――って嘘嘘っ! 冗談冗談っ! いたたたたっ!」


 竜之介はぬっと三郎太の肩に太い腕を回したかと思うと、その流れのまま自然に三郎太の首を絞めにかかった。 何だか久々にこの光景を見たような気がした僕の口元は、覚えず緩んでしまっていた。


 それから担任の先生が教室に現れてホームルームが始まった。 先生は明日の一般人参加における諸注意を口頭で説明した後、いよいよ明日は本番だから、お前たちの悔いの残らないように全力でやり切って、お客さんを楽しませるのはもちろんだけれども、お前たち自身も楽しむ事を忘れるんじゃないぞ。 という激励の言葉を生徒全員に送ってくれた。


 ホームルームが終わった後は、明日の出し物に向けての最後の準備が始まった。 と言っても、内装関係や看板などの一番手間の掛かる作業は文化祭本番前に全て終了していて、今日の準備は明日に備えた最終確認のようなものだ。


 ただ、模擬店の営業開始時間が九時からで、接客担当はそれまでに衣装の着衣と化粧を済ませておかないといけないから、僕たち接客担当とメイク担当は時間の関係上、明日は一時間早く登校しなければならない。 僕は普段より一時間も早い電車に乗らないといけないのでかなりの早起きになってしまうけれど、執事役という大役を任されている以上遅刻する訳にもいかない。 今日は念には念を入れて携帯電話のアラームと目覚まし時計の二つをセットして寝ようと心に決めた。


 そうして、体育館の片づけに駆り出されていた文化祭実行委員の山野君と土井さんが十六時過ぎに教室に戻ってきた頃には大方の準備は終わっていた。 それから山野君の指示で今日は早めに帰って明日に備えようという事になって、解散する前に彼は壇上の前に立ち、


「これまで遅くまで準備を手伝ってくれたみんな、本当にお疲れ様でした。 俺の指示の甘いところもあって沢山迷惑掛けちゃったけど、ここまで出し物の完成度を高められたのは間違いなくみんな一人一人の頑張りのお陰です。 明日は一人でも多くのお客さんを楽しませられるように頑張ろうな!」と改まって一年一組のみんなを鼓舞した。


 その後教室内には「おーっ!」という力強いときの声が上がった。 少し恥ずかしかったけれど、勿論僕もみんなと一緒になって声を上げた。 そのやり取りの後、僕達は教室を後にした。



 三郎太と校門で別れた後、僕達四人は駅までの道のりを歩いていた。


「ん~っ。 最近文化祭の準備続きでずっと暗くなったあとに下校してたから、こうして明るいうちに帰ってるとすごい得した気分になるなぁ」と、平塚さんが両手を組んで背伸びしながら言った。


 なるほどここ一週間は準備の大詰めで、僕は通学時間の都合上いつも十八時過ぎに帰らせてもらっていたけれど、みんなは十九時ぎりぎりまで頑張ってくれていたようだから、先の山野君じゃあないけれど、僕からもみんなに『お疲れ様』とねぎらいの言葉を掛けてあげたいぐらいだった。


「でも真衣たち接客担当は明日早出しなきゃならないんだよね。 七時学校集合だっけ。 真衣、起きられそう?」と、古谷さんが心配そうに平塚さんにいている。


「もっちろんっ! って言いたいところだけど、私ほんと朝弱いからなぁ……」

 平塚さんは「はぁ」とため息をつきつつ、肩を落としながら歩く速度を少し遅めた。


「僕は明日五時に起きるつもりだから、良かったら平塚さんの起きたい時間にメッセでも入れようか?」

「え、ほんとに? いやー助かるなぁ。 綾瀬くんのお言葉に甘えてそうしてもらおっかなっ」


 僕がそう伝えて間もなく、見る見るうちに平塚さんの顔に明るさが帯びていくのが見て取れた。 その浮き沈みの激しさがいかにも平塚さんらしくて、僕は思わず失笑をこぼした。


「真衣、だからってユキくんを当てにし過ぎるんじゃなくって、ちゃんと自分でも起きられるようにアラーム掛けとかないと駄目だよ?」

 今度は古谷さんが母親然と平塚さんをたしなめている。


「分かってるってっ。 んじゃあ綾瀬くん、もし私の方が早く起きてたらメッセ入れるから、それまでに連絡が無かったら六時半頃にメッセ入れてくれる?」

「うん、わかった。 竜之介の方は――大丈夫だよね?」


 平塚さんへのモーニングコールをうけたまわった後、平塚さんと同様朝に弱いと言っていた竜之介にもモーニングコールの要否をたずねた。 すると彼はうんうんうなりながら首を何度もかしげていた。


「そうやなぁ、オカンにはいつもより一時間はよう起こしてくれって頼むつもりやけど、オカンもオカンで寝過ごす時あるから、一応俺も六時過ぎぐらいにメッセくれるか? それまでに起きとったら俺からメッセするわ」


 どうやら竜之介も早朝起床に自信が無かったようで、保険として僕にモーニングコールを依頼してきた。 僕は「わかったよ竜之介」とだけ伝えて、彼からの依頼を承った。


 それから道中で平塚さんと別れた。 「寝坊したら駄目だからねっ!」「分かってるってっ!」別れる直前の古谷さんと平塚さんのやり取りが妙に微笑ほほえましく僕の目に映った。

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