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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十五話 思いはすれ違い 2

「――へぇ、男子がメイド役で、女子が執事役かぁ。 キミのクラスもなかなか斬新な事を考えたね。 面白そうじゃん」


 僕のクラスの出し物の全貌を玲さんに話し終えた後、彼女はふんふんとうなずきつつ、僕達が取り決めた文化祭の出し物の内容に感心しているような素振りを見せた。


「当初はメイドの女子にまぎれて男子が一人だけウケ狙いでメイドの格好をするっていう話だったんですけど、それだったらいっその事メイド役を男子が、執事役を女子が担当した方が面白いんじゃないかって話になって、その方向性で行く事に決まったんです」


「なるほどねぇ。 たしかに私が一年の時に先輩たちがやってた出し物の中にメイドカフェがあって、そのメイドの中に男が一人混じってたのが結構ウケてたし、今回は今回で女子の執事が増えてるから、話題性としては抜群だね」


 玲さんは僕達の出し物にえらく好感触をいだいているようだ。 この出し物の案を僕が出した訳でもないし、どちらかと言うと僕も玲さんのクラスで言うところの静観派に違いなかったのだろうけれど、それでも自分のクラスが時間を掛けて話し合って取り決めた出し物が他の誰かに好印象を与えているという事実は、僕にとってはたまらなく嬉しかった。


「ところで、メイド役の男子って誰がやるの?」


「先輩は多分知らない人ばかりだと思いますけど、唯一先輩でも分かるとすれば、僕や三郎太とよく一緒にいるじんっていう背の高い男子がメイド役をやる予定です」


「あー、あのめちゃくちゃ身体大きくて背の高い子ね。 うちのクラスのちょっと柄悪い男子も、あの子とは絶対喧嘩したくないなって言ってたよ」


 竜之介が玲さんのクラスの男子にそうした目で見られていたとは露知らず、僕は久しく忘れていた竜之介の底知れぬ威圧感というものを改めて思い出した。 僕らは普段から竜之介と近しい距離で接しているから何とも思わないけれど、遠目から見た竜之介は上級生ですら畏怖いふを覚えてしまうらしい。 生まれた時代が違えば、竜之介はいわゆる『番長』の座をほしいままにしていたのかもしれない。


「でもその子がメイド役なんてやったら間違いなく目立つだろうから、人選としては最高だね。 それで、執事の女子役の方も決まってるの?」

「はい、一人は古谷さんの友達で、平塚って子ですね」

「その子はあんまり覚えてないなぁ。 何となーく顔は思い浮かぶけど」

「次の人も土井っていう子なんですけど、多分分かりませんよね」

「うん、そっちの方は名前も顔も全然分かんないや」

「ですよね」

「あと一人は?」

「僕です」

「――えっ、キミが執事役?!」


 僕が執事役だという事を告げた瞬間、玲さんは急に目を見開いて、そんな事はあろう筈がないといった気味で僕の役柄を疑い始めた。


「え、ちょっと待って。 キミのさっきの話では、男子がメイド役で、女子が執事役をするんだよね?」

「そうです」

「で、何で男のキミが執事役なんて任されちゃってるのさ」

「それは、話すと少し長くなるんですけど」


 僕は玲さんに、僕が執事役に選ばれた――いいえ、選ばれてしまった(・・・・・・・・)理由をなるだけ簡潔に説明した。


「……なるほど。 理由は分かったけど、キミもよく承諾したよね」

 どこか腑に落ちないような態度で玲さんがそう言った


「出来る事なら僕もあんまりやりたくはなかったですけど、もしそこで僕が断ったら実行委員がまた別の人を探さなきゃならなくなるし、下手に実行委員の仕事を増やすよりは僕が我慢して役を引き受けた方が手っ取り早いかなと思って」


「そりゃあそうだろうけど、キミって目立つのとか苦手なほうでしょ? 大勢のお客さんの前で執事役なんて出来るの?」


「正直、あんまり自信は無いです。 でも実行委員もその事は把握してくれてて、基本的に僕は教室の前で客を呼び込む役だけで、接客の方には極力回さないって言ってくれましたから、多分何とかなります」


「そっか。 でも、男子はともかく、女子はよくオッケーしたよね、キミが執事役になる事。 キミらの出し物のコンセプトとして、男がメイドで女が執事って話らしいけど『男子にさせるくらいなら私が執事役をやる!』なんて子は一人もいなかった訳?」


「そうですね。 僕以外の二人の女子の人選も、一人はクラスの推薦、もう一人のほうも、他に中々立候補がいなくて時間がもったいないからと言って仕方なしに自分が立候補したって感じでしたから、クラスの推薦で決まった子以外は執事役に対してあまり乗り気でなかったみたいですね。 それに――」


「それに?」玲さんは首をかしげながらそう反復してくる。


「……それに、僕だったら本来女子がやるべき執事役も任せられるってクラスのみんなに言われたぐらいなんです。 そう言われた時はさすがに困りましたけどね。 化粧したら絶対かわいくなるとか言われたりもして。 いったい僕に何を期待してるんだって話ですよね」


「――そう言う割りには、ずいぶんと嬉しそうな顔してるじゃないのさ」


 玲さんの冷然たる声音が耳の底に響いたと同時に、僕ははっと我に返ったような心持を得た。 どうやら僕の口元は知らずの内にいささか緩んでしまっていたらしい。


「う、嬉しくなんかないですよ! 第一、僕が執事役の何に対して喜ぶ要素があるって言うんですかっ」


 自身の気の緩みを指摘されて動揺していたからなのか、僕は声調を乱しつつ反発気味に玲さんに突っかかってしまった。


「あるでしょ。 キミの女としての心が、大勢の前で女装する事を無意識の内に願ってたっていう可能性が」


「そんな事」あり得るはずが無い。


 ――そこで言葉を詰まらせてしまったのは、玲さんの言う通り僕の女のかたちであるぼくが、僕自身でさえ気が付かない内にそうした願望をいだいてしまっていたと不本意ながら認めてしまったからに違いない。

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