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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十四話 抜擢 7

「今日で色々決まったし、いよいよ文化祭言う雰囲気が漂ってきたなぁ」

 食堂で昼食を摂っていた最中、竜之介がしみじみと呟いた。


「文化祭までまだ丸々三週間ほどはあるけど、色々準備とかしてたらあっという間に当日になりそうだよねー」


 続けて平塚さんがそう語った。 先週まではあと一か月も準備期間があるのかと胡坐あぐらをかいてのんびりしていたけれど、今日の文化祭会議で当日までに準備しなければならないものを挙げていく度にその余裕はことごとく消え去って、今では『あと三週間しかない』とさえ思うようになってしまった。


「しかしまさかユキちゃんが執事役なんてやるとは思わなかったからビックリしたぜ」

「だよね。 でもユキくんならメイド服より執事服のほうが良く似合いそうだから、衣装着て化粧したらどんな風になるのかなぁ。 今から楽しみ」


 三郎太が僕の執事役の話題を話し出すと、すぐさま古谷さんが乗っかってきて、箸の上にご飯を乗せたまま手を止め、遠くを眺めて何やら物思いにふけっていた。


「でもユキちゃんもよく引き受けたよな、執事役。 ユキちゃんって目立つのとか嫌いだと思ってたから、案外そういうのに興味あったの?」


「そうだなぁ、興味が無かったと言えば嘘になるけど、出来る事なら僕もあんまりやりたくは無かったよ。 でも、山野君の話を聞く限りではその役をこなせるのは僕らのクラスで僕だけみたいだったし、下手に断って山野君の負担を増やしちゃうのも悪い気がしたから思い切って引き受けたんだ」


 僕がそう述べると、三郎太は「ほー、ユキちゃんらしい理由だなぁ」と言った後、コップの水を飲み干した。


「まぁ山野の見立て通り、最後の執事はユキちゃんで間違いないと思うわ。 下手したら同じ執事役の真衣ちゃん達より可愛くなったりしてな!」


「さすがにそれはないでしょ――って言い切れないのが綾瀬くんの怖いところだよね。 何のおめかしもしてない状態でそれ(・・)なんだから。 実際肌だけなら私よりキレイかも……」


 平塚さんはそう言った後、僕の顔をまじまじと見つめてきた。 しばらくは彼女の視線に対応していたけれど、一向に視線を逸らしてくれなくて、さすがに恥ずかしくなってしまった僕はついに彼女の熱い視線から露骨に目を逸らしてしまった。 そうしてもう一度平塚さんの方を見てみると、半眼の気味でにやにやと笑っていた。 やはり彼女の性質はどことなく玲さんに似ているような気がする。


 それから、つい先ほど三郎太が言った通り、僕以外の執事役は平塚さんと、文化祭実行委員の土井さんに決まっていた。 平塚さんが執事役に選ばれた理由としては、僕らのクラスの女子の中では平塚さんは二番目に背が高く、それでいてたぐまれなるコミュニケーション能力を持ち合わせている事も相まってクラスの満場一致でその役に抜擢された。


 なかば強制的に執事役を決められた当の平塚さんもその役をあてがわれた事に対し満更でも無かったようで、むしろ「この機会を逃したら女の私が執事服を着れる機会なんて無いだろうからラッキー!」と、すっかり執事役を気に入っている様子だった。


 そしてもう一人の執事役である土井さんだけれど、彼女がこの役に決まった理由は平塚さんの真逆だと言ってもいい。 平塚さんが一人目の執事役として選ばれた後、残る二席の執事役は誰が担当するかという議論は何時いつまで経っても平行線のままだった。


 どうも女子全員が全員、平塚さん見たく執事役をやりたかったという訳では無かったようで、平塚さんを執事役に推薦していた時の賑わいは何処へやらと言った気味ですっかり静まり返った教室内の空気を見かねたらしい土井さんが「これ以上時間取るのも勿体ないし、立候補が無いなら私がやるよ」と、自ら執事役に立候補した――ここまでが、今週の文化祭会議の執事役に関する顛末てんまつだ。


 土井さんは平塚さんほど身長は高くないけれど、僕の見立てだと一六〇センチは超えていると思うので、執事服を着こなせるだけの体格は持ち合わせているだろう。 それに彼女は中々の凛々(りり)しい顔立ちをしているから、ことによるとメイド役の竜之介とはまた違った意味で一部の客層に受け(・・)が良くなるかもしれない。


 そうして僕達は、昼食を終えてからもしばらく食堂で文化祭の話題で盛り上がっていた。 すると、僕のスマートフォンが振動をきたした。 時刻はちょうど一三時。 こんな時間に誰からだろうと通知を確認してみると、


[時間あったらちょっと話せない?相談したい事があるんだけど。]という、玲さんからの呼び出しだった。 これまでに僕が学校で玲さんに呼び出されたのは、初めて玲さんと対面した次の日、帰宅報告を忘れていた僕を見かねた玲さんに呼び出された時以来だったから、いささかいぶかしみを覚えてしまった。


 一体何の用があって僕を呼び出そうとしているのだろうか。 近頃玲さんの機嫌を損ねてしまったような覚えも無いし、『相談』という言葉から推察するに、例の時みたく僕をとがめる為に呼び出していない事は確かだ。 ことに、わざわざ僕を呼び出したという事は、玲さんは今メッセージのやり取りでは解決しない問題をかかえている可能性がある。 もしそうであった場合、果たして僕に彼女への対応が出来るだろうかと、ちょっと心配になってくる。


 けれど、あの(・・)玲さんが僕を頼ってきているのだから、ここで断ってしまったら僕はとんだ薄情者だ。 だから僕は、


[わかりました。どこへ行けばいいですか]と返信した。 たちまち既読が付いて、

[ありがと、いつもの場所にいるから。]という返信を確認した僕は「ちょっと文化祭関連で調べたい事があるから先に食堂出てるよ」とみんなに断って、玲さんが居るであろう、例の『いこいの場』へ向かった。

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