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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十四話 抜擢 3

「みんなはどうだろ、メイドカフェ。 結構定番って声はあるだろうけど、定番だからこそ安定して良い出し物が出来ると思うんだ」


 山野君がクラスのみんなにそう呼び掛けた。 なるほど人気の出るかも定かではない下手に奇をてらった飲食よりは、昨今さっこんではすっかり市民権を得たメイドカフェの方が知名度もあるだろうし、客も取っつき易いだろう。


 それからしばし教室中がざわざわとした後「いいんじゃね」「メイド服着てみたいかも」「メインとなる衣服の準備が必要ないなら、内装とかに力を入れられる」などの肯定的な意見が多かった事もあり、それらの意見を踏まえた上で山野君が今一度メイドカフェで良いかとクラス全体に呼び掛け、反対意見が出なかった事により、僕達の出し物はメイドカフェという事に決まった。


「まぁ、まだメイド服が借りられるかは分からないし、最悪借りられなかったら自分たちで衣装を用意しなきゃならないから、そうなったら俺もいろいろ当たってみるつもりだけど、みんなにも協力を願う事もあるかもしれないんで、その時はよろしく頼むよ」


 彼の言う通り、まだメイド服を借りられるかどうかは未確定であるから、学校に有るというそれ(・・)をまったく当てにしてしまうのはよろしくない。 ましてや、出し物としてメイドカフェを設営するのが僕達だけのクラスとは限らないから、その辺りの兼ね合いも考慮しておかなければならないだろう。


「でも、メイドカフェって言っても、ただメイド服着てお茶なりお菓子出して接客するだけだとちょっとインパクト薄いから、何かしらの工夫は欲しいよね」と土井さんが述べると山野君は「確かになぁ。 話題性だけを前に出して、肝心の中身がありきたりだったらがっかりされちゃうだろうし」と彼女の意見に賛同した。


「メイド服の数に余裕があるなら、女子にまぎれて男子も着てみるとか」

 山野君と土井さんの意見を踏まえ、一人の女子生徒がぽつりと言った。


「あー、それはありかも。 実際数年前の文化祭の時に男子が女装してメイド服着て接客してたのが結構お客さんにウケてたって先輩が言ってたし」

 先の女子生徒の提案をうけがいつつ、一人の男子生徒が過去の文化祭事情を語った。


「なるほど、確かにじんとかにやらせたらインパクトはでかそうだよな」

 山野君が真面目そうな顔でそう言いつつ、竜之介の方を見た。


「アホ、俺みたいなゴツいヤツが女装してメイド服なんか着とったら子供が泣きわめいてまうやろが」

 教室内にどっと笑いが起こった。


「子供が泣くだけで済んだらいいけどな。 下手したら通報されんじゃねーの?!」

 続けて三郎太がおちゃらけの気味で竜之介をからかっている。 一部のクラスメイトからはまた笑いが起こった。

 

「――サブ」

 極めて低い声調で、竜之介が三郎太の名を呼んだ。


「ん?」

「お前が次の休み時間に泣くのは確実やけどな」

 今日一番の大笑が教室中に響いた。


「まぁ、話題性言うんやったら結構ええ案なんちゃうか? 実際おもろいと思うで。 もしやれ言うんやったら俺もやったるし。 いっその事男子がメイド服着て、女子が執事の格好してまうとか」


「お、じんいいなそれ。 でもメイド服はともかくとして、執事の服装なんてさすがに被服科では作ってないよなぁ……完全男物だし」

 

「いや、あったぞ」さらっと先生が答えた。


「え、あるんですか?」山野君が驚嘆気味に聞き返した。


「ああ、確か十年前ぐらい前の被服科の生徒数人がファッションショー用に作ってたみたいでな。 圧倒的にドレス系が多い中でその数人だけ執事の格好をしてたから、今でもよく覚えてるよ。 ただ十年前の事だから、今もその衣装が残ってるかどうかは分からんがな。 ひょっとすると作った生徒がそのまま持ち帰ったかも知れんし、学校に置いて行ったにしても破棄されてる可能性もある」


 先生がそう語った後、山野君は「なるほど」とうなずいた。


「もしお前らが今の案で行くつもりなら、被服科にたずさわってた先生に俺が聞いといてやるが」


「そうですね、まだ確定とまでは行かないですけど、それが有る無いでまた話が変わってくるかもしれないんで、お願いできますか?」


「わかった。 ついでにメイド服の方も一通り話を通しておこう」

「ありがとうございます!」山野君が先生に一礼した。


「それじゃあ、メイド服とかの衣装の件はとりあえず先生に任せておくとして、あと他に何かアイデアとか無いかな」

 山野君がクラスメイトにそう訊ねると、教室中がざわざわとし始めた。 そうしたざわつきが数分続いた後、一人の男子生徒が「はいはい」と言いながら挙手をした。 山野君がその男子に発言を促すと、


「俺らがメイドと執事を男女で入れ替えるんだったら、どうせなら他の生徒とかお客さんとかも巻き込んでやったら面白いんじゃね?」と意見した。 すると土井さんがすかさず「巻き込む、っていうのは?」と、男子の言葉足らずな部分について聞きただした。


「まぁ、例えばだけど、客として来た生徒とか一般の人に、自分の性別とは違う異性の格好をしてもらうって事だよ。 男子が女子に軽く化粧してもらって女子の制服を着てみたり、女子が男子の学生服を着てみたりして、それでその格好で校内とか歩き回ったら結構人の目について俺らの出し物の宣伝にもなるだろうし、話題にもなるかなと思ったんだけど。 あ、もちろん相手の了承を得た上での話な」


「なるほどね。 そのお客さんが着替える服装ってのは、私たちが用意するって事でいいの?」

 土井さんがまた男子にたずねた。


「そうだな。 別に着替えるのは制服とかじゃなくても、クラスの中で持ち寄った男っぽい、女っぽい私服とかでもいいだろうし。 まぁ普段着で着てる服を見ず知らずの誰かに着せるのは嫌っていう人もいるだろうから、もう着なくなった古着とかでもいいかもな」


「確かにそれなら私たちが当日無理に宣伝しなくても、お客さんがその姿で校内を歩き回ってくれたらそれだけでアピールになるだろうし、出し物の宣伝とお客さんの娯楽の両方を同時にこなせるからいい考えかもね。 もちろん、着替えの場所とか何分くらいで戻ってきてもらうとかの問題は出てくるだろうけど」

 男子の意見に賛同しつつ、土井さんがその提案に対する問題になるであろう部分に焦点を当てた。


「まぁ、今日はまだ初日だし、その辺はこれから煮詰めていけばいいんじゃないかな」と山野君が話をまとめたのとほぼ同時に、一時間目終了のチャイムが鳴り響いた。


「今日はこんなところかな。 学校が用意してくれる文化祭準備の時間は文化祭開催まで週に一回、月曜日の一時間目の時間しかなくて時間が足りないと思うから、その時間以外に定期的に放課後集まれる人で集まって話を煮詰めていきたいと思うんで、もし放課後参加出来る人はぜひ協力お願いします!」


 かくして、僕達のクラスの第一回文化祭出し物会議は終了した。 まだまだ決めなければならない事はたくさんあるけれど、クラスメイトみんなで意見を出し合って一つのものに取り掛かるという一体感はとても心持が良い。


 普段の授業で過ごす一時間とはまるで別物かと見紛みまごうほどのあっという間の一時間で、それでいて充実もしていたから、次回の会議はきっちり一週間先だけれども、今から会議の時間が待ち遠しくなってしまった。 ただ、僕は今回あまり意見という意見を言えなかったから、次回の時は思った事を何でもいいから発言してみようと思う。


 それにしても――男子がメイド服を着る事になるとは思いもしなかった。 恐らく僕などが選ばれる事は無いだろうけれども、ちょっと着てみたいという願望が僕の中に生まれていた事も素直に認めた。 その願望がぼく由来である事も知っている。 知っているからこそ僕は、決してその願望を実現させはしまいと心に誓った。

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