表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
228/470

第三十三話 大切な人 10

「これで、おあいこだね」

 私にでこピンされた額を指でさすりながら、真衣は妙な事を口走った。


「おあいこ?」

「うん。 ――あの時千佳を怒らせちゃったのは完全に私のせいだったよ。 でもっ、千佳もいきなり怒鳴る事ないじゃないっ! びっくりしたんだからねっ!」


「あ、あれは、その――うん、正直に言うよ。 私ね、真衣がユキくんの後ろの席になった事、嫉妬してた。 その席で真衣がユキくんとおしゃべりしてるところを見て、嫉妬してた。 だからあの時、その嫉妬が爆発しちゃったんだ」


「……なるほどね」


 私の真衣に抱いていた嫉妬の事を余すことなく彼女へ伝えると、真衣は少しばつの悪そうな顔を覗かせて、小さくうなずいた。


「まぁ、実際私も、あの席で綾瀬くんと会話するたびに千佳には悪い事してるなぁとは思ってたよ。 出来る事なら千佳に席を代わってあげたいくらいだけど、勝手に席替えなんて出来ないし」


 真衣はつぶやくようにそう言った。 真衣とユキくんのやり取りの背景にそうした私への配慮があったとは露知らず、改めて私は真衣に嫉妬の念を向けてしまっていた事を深く反省した。


「でもっ、私も綾瀬くんを千佳の方へ向かわせる為に結構頑張ってたんだよ? 『私とばっかりしゃべってて、千佳はほったらかしといていいの?』とか『私なんかとしゃべってるより千佳の方に行ってあげた方が喜ぶんじゃない?』とか、色々あおってあげたんだけど、どうも綾瀬くんはあんまり乗り気じゃなかったみたいでね。 千佳とそういう関係じゃないのに休み時間ごとに千佳の席へ立ち寄るのはどうなのか、って腰が重かったみたい」


 どうやらユキくんも私と同等の気遣いをしてくれていたらしい。 嬉しいと言えば嬉しいけれど、でもどこか、寂しさも感じてしまう。


「そっか。 私が真衣を変に嫉妬しちゃってただけで、真衣は私とユキくんの仲を思ってくれてたんだね。 ありがとう、それと、ごめん」


「ううん、謝る事なんてないよ。 私だって千佳がそういう気持ちになってるのを薄々感じながら、千佳を怒らせるような事言っちゃったんだから。 でも、私はこれ以上は謝らないよ。 だから千佳の方もそれ以上謝るのは無しね」


 なるほど、だから『おあいこ』だったのだ。 私はようやく先ほどの真衣の不可解な言動の真意を理解し「うん、わかった」と真衣に頷いた。


「それにしても、千佳もあのお題だったら綾瀬くん連れてきたらよかったのに」

「へっ?!」真衣の唐突な物言いに、思わず変な声が出た。


「だって『大切な人』でしょ? 私を選んでくれたのはもちろん嬉しかったけど、私より綾瀬くんを選んでた方が絶対盛り上がったと思うけどなぁ」


「そ、そんなこと出来るわけないでしょ?! 第一、ユキくんが私の事を大切な人だって言ってくれる保障も無いし……」

「んー、そうでもないんじゃない?」


 何の根拠があったのか、断定とは行かないまでも、真衣は私の弱気を否定してくる。

「どうしてそう思うの?」たまらず私は真衣に問い掛けた。


「この学校の噂でさ、体育大会のチーム分けで仲の良い友達と分かれ分かれになったら仲が悪くなるっていうジンクスがあるらしいんだけど、千佳も聞いた事あるんじゃない?」


「そういえば、先輩が話してたかも」

 その先輩とは玲先輩と双葉さんの事で、赤組の予行練習の休憩中に、二人がその話題について話していたのを覚えている。 確か名前も付いていて、仲違育なかたがいく大会、だとかの不穏な名前だった筈だ。


「それで、千佳が私に赤組の昼練習の事をなんにも言わなかったから、もしかしたらジンクス通り私が敵チームだから黙ってたのかなって神くんと喋ってたら、急に綾瀬くんが『千佳は絶対そんな事しない!』って怒り出してね。 私も綾瀬くんが怒ったところをその時に初めて見たから、普段は結構弱気なトコあるけど言う時は言うものなんだなって見直したよ」


「ユキくんが、私の為にそんな事を――」


 やっぱり、私は馬鹿だった。 ユキくんは私の知らない所で私が悪く言われている事に対して、彼には似つかわしくない怒りの感情を以って私をかばってくれていた。 だというのに私の方はと来たら、一方的に真衣に嫉妬していただけでなく、ユキくんを嫉妬させようだなんて幼稚で浅はかな思惑をくわだてて、いつの間にか彼への対応すらもおろそかになってしまっていた。


 幸い、ユキくんは私と三郎太くんの企てには気が付いていなかったみたいだし、真衣とのいさかいも喧嘩両成敗的に解決へと向かってくれたけれど、それはたまたま一つ一つの歯車が偶然にも噛み合ってくれただけで、今回の騒動で何か一つでも歯車が噛み合っていなかったら、こうもうまくはまとまらなかっただろう。 そればかりか、下手をすれば私がこれまで大切にはぐくんできたユキくんとの関係や、真衣との友情まで砕け散ってしまうところだったのかも知れないと思うと、背中に悪寒が走る。 要するに、運が良かったのだ、私は。


「あの時はほんとびっくりしたなぁ。 でも正直、そういう風に想ってくれてる人のいる千佳の事がうらやましかったね」


 ユキくんは今もちゃんと、私の事を見てくれている。

 真衣は私の事を嫌ってなんていなかった。

 その事実は、たったいま借りものリレーで一位を取った事よりもずっと、ずっと、嬉しかった。 その嬉しさを噛みしめている内に、気が付くと私は頬に涙を伝わせていた。


「いやーでも、赤組に一位取らせちゃったのは痛かったけど、このタイミングで千佳と仲直り出来て良かっ――て、千佳っ?! なに泣いてるのっ?」


「えっ、あっ、ごめんっ。 自分でもよくわからなくて……」


 真衣に私の泣いている事を指摘されて、私は慌てて涙を手でぬぐった。


「こんなタイミングで泣かないでよ千佳、みんな見てるんだよ? もぉ……私だって、ずっと心配だったんだからぁ!」


 真衣は私の泣き顔を見るや否や、自身の瞳を滲ませた後、声を震わせながら私をぎゅっと抱きしめてきた。 それから真衣は私の胸の中で、わんわんと泣きわめいた。


「ちょっ、ま、真衣っ?」


 全校生徒の見ている前で急に真衣に抱きつかれた恥ずかしさと、普段は気丈に振舞っている彼女が周囲にはばかる事もなく泣き崩れたという驚きが相まって、私は自身の涙も止まらない内にすっかり困惑してしまった。


 でも、この真衣の態度から察するに、きっと真衣も私とうまく仲直り出来るのか不安だったのだろう。 別に、その推察が思い上がりだと笑ってくれてもいい。 ただ、一つだけ言っておきたい事がある。 それは、こんな思い上がりをのたまえるほどに私は真衣を誰よりも理解しているつもりだし、真衣も私を信頼してくれているからこそ、ここまで弱い姿を私にさらけ出してくれたのだ。


「真衣、心配かけて、ごめんね」

「……千佳、無しって言ったでしょ、謝るの」泣きじゃくりながら真衣が言った。

「――そうだね。 じゃあ代わりに、私と友達でいてくれてありがとう」

「うん……うん」私の言葉を噛みしめるよう、真衣は私の胸の中で何度も頷いた。


 雨降って、地、固まる。

 今日、私達が流した涙はきっと、以前よりもっと、これからもずっと、私達の関係を強固のものにしてくれるだろう。 仲違育大会だなんて誰が広めた噂なのかは知らないけれど、もし今私の目の前にこんなくだらない噂を流した人が居たなら、私は声を大にしてこう言ってやろう。


"本当の友達は、仲違いくらいじゃあ壊れないよ" と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ