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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十三話 大切な人 2

『――ただいまの結果、一位、赤組Bチーム。 二位、白組Aチーム。 三位、赤組Aチーム。 四位、白組Bチームでした。 次はプログラム第二番、障害物リレーです。 出場選手並びに実行委員は準備に入ってください』


 学年混合リレーの結果は先の通りとなった。 出だしから三郎太が先頭に踊り出て、その後も彼の作った差を埋める事が出来ず、何とか白組Aチームが二位に食らい込んだものの、結果的に赤組には一位と三位を奪われてしまったので緒戦から大きく点差をつけられる苦い結果となった。


「いやー、相変わらずサブくんは速いね。 とてもじゃないけど女の私じゃ付いていけなかったよ」

「さすがに相手が悪かったね。 けど男子でも短距離で三郎太に勝てる人は少ないと思うから十分善戦した方だと思うよ」


 結果発表が終わった後、僕と平塚さんはトラックを退場しながら先のリレーの手応えを語り合っていた。 すると「うっす」という声が後方から聞こえてきたのと同時に三郎太が僕のそばに現れた。


「お、出たなサブくん。 第一走者で男子はサブくんだけだったんだから、ちょっとは手加減してくれても良かったんじゃない?」


「ハハハ、悪ぃけど俺、運動で手加減出来ねーんだわ。 それに手ぇなんて抜いたら姉貴にぶっ殺されるかもしれねーからな。 体育大会の同じチームに姉弟きょうだいが居るとかマジでやりづれーわ……」


「相変わらず双葉さんには弱いんだね三郎太」

「まぁな。 生まれた時から目の上のたんこぶよ。 にしてもユキちゃんも結構足速かったじゃん。 ユキちゃんのせいで俺が開いた差を詰められたから焦ったぜ」


「ほんとは長距離の方が得意なんだけどね。 短距離では三郎太には敵いそうにないけど、四〇〇メートルリレーだったら勝てるんじゃないかな」


「言ってくれるじゃねーかユキちゃん。 俺は短距離専門だから長距離の方には出ねーけど、その大口が本物かどうか、他の競技で見極めさせてもらうぜ。 俺も負けねーからなユキちゃん。 んじゃそろそろ赤組に戻るわ。 千佳ちゃんも待ってるしな」


 三郎太はそう言い残した後、赤組陣営の方へと一人歩き出した。 すると「あ、サブくん」と平塚さんが彼を呼び止めた。


「ん? どしたの真衣ちゃん」

 彼女の声を聞いた三郎太はきびすを返してこちらへ戻ってきた。


「千佳の様子、どんなだった?」

「様子かぁ、普段通りっちゃあ普段通りだったけど、強いて言うならちょっと暗いっつーか、元気が無かったようにも見えたな」

「そっか、わかった」

「おう、早く仲直り出来るといいな真衣ちゃん」

「うん、ありがとねサブくん」


 そうして三郎太は再び赤組陣地の方へと歩き始めた。 それにしても、体育大会の練習が始まってから僕達白組三人に必要以上に接する事の無かった三郎太だったけれど、今こうして彼の方から僕達に声を掛けてきたところを見るに、学校の行事とはいえ敵対した以上、本気で僕達と競い合いたかったからこそ、ああした三郎太らしからぬ素っ気無い態度を取っていたのかもしれない。


 勉学の方はちょっと残念だけれど、こと運動分野においては彼は歴としたスポーツマンだ。 なればこそ僕達も全力を以って彼が所属する赤組に対抗してあげなければならない。

 ひょっとすると、これがいわゆる『男なら拳で語り合え』という男の美学なのだろうか。 (さすがに誰かと殴り合う勇気は無いけれど)だとすると三郎太は僕を男と見込んだ上でそうした言葉を掛けてくれたのだろう。 だったら尚更僕は三郎太に、赤組に勝ちたくなってきた。


 球技大会の時とは違って、僕一人の力ではどうにもならないけれど、僕のちっぽけな力が少しでも白組に貢献出来るのであれば、僕は全身全霊でこの体育大会に取り組もう。

 もう三郎太の姿は見えなかったけれど、僕も改めて心の中で彼に向けて呟いた。 ”僕も負けないからね、三郎太” と。



 ――それから各プログラムはおおむね時間通りに進行していた。 日中に差しかかって、朝より気温の高くなり始めた午前十一時半現在の途中結果は赤組が白組より若干多く点数を獲得し、第一プログラムからリードを保っている。 さすがに昼休みの時間を潰してまで練習していた事もあって、赤組の方が全体の練度が高いように思われる。 しかしプログラムはまだ半分以上残っており、挽回の機会はまだまだ残っているから、それほど悲観する事もないだろう。


『次は、午前最後の競技、プログラム十番、三輪車リレーです。 出場選手の方は集合してください』


 そして次の競技は三輪車リレー。 僕達白組三人の中でこの競技に出る者はいないけれど、赤組では古谷さんがアンカーを務めるらしい。 同じチームならば声が枯れるぐらい応援してあげたいけれど、如何いかんせん今は敵同士だから、白組という看板を背負っている以上、敵チームの選手を応援する訳にはいかない。 ちょっと薄情な気がしてもどかしいものの、よし白組陣地のど真ん中で赤組のアンカーを応援なんてした日には、白組全員に白い目で見られる事請け合いだ。 だからここは心を鬼にして、ちゃんと白組を応援しなければならない。


「お、そろそろ始まるみたいやで」

 隣に座っていた竜之介が椅子から立ち上がって、三輪車リレーのスタートの瞬間を見守っている。


「優紀はどっち応援するんや? やっぱり千佳ちゃんか?」

「うん、って言いたいところだけど、僕は今白組だし、ちゃんと白組を応援するよ」

「そうか。 まぁそれが無難やろな。 こんなトコで敵チームの応援なんかしよったら上のモンに何言われるか分かったもんじゃないしな」


 竜之介も僕と同様の事を想像していたらしい。 同級生ならばともかくとして、上級生に目を付けられてしまうのは避けたいところだ。


「でもほんとに千佳にアンカーなんて務まるのかなぁ。 緊張して転ばなかったらいいけど……」


 平塚さんは平塚さんで、子供の運動会を見に来た保護者みたような懸念事を呟いている。 未だ仲直りは出来ていないみたいだけれど、やはり古谷さんの事が気に掛かってしまうらしい。


「そこまで心配しとるんやったら、はよ仲直りしてまえばええのに」

「べ、別に心配なんてしてないよっ! ただ、前の球技大会の時みたいに怪我しなかったらいいなって思ってただけで――」

「それを『心配する』って言うんじゃないかな、平塚さん」

「もぉっ、二人していじわるなんだからっ! そうだよ! 私は千佳の友達なんだから敵味方関係無しにあの子にアンカーが務まるかどうかの心配くらいして当然でしょ!」


 僕達に軽くからかわれて、平塚さんが柄にも無くぷんぷんしている。 彼女も意外と素直じゃないなと僕は口元を緩めつつ、これほどムキになるという事は、平塚さんにとって古谷さんはよっぽど大事な友達なのだろうという事を大いに理解した。


 僕にも何か二人の仲直りのきっかけを作ってやれればいいけれど、このいさかいはあくまで二人の問題であるし、僕や第三者が下手に介入するよりは、事の成り行きを二人に任せておいた方が今後の二人の為になるだろうから、ここは首を突っ込まずに見守るのが吉だろう。


 それから僕と竜之介はぷんぷんしている平塚さんをなだめつつ、間もなくスタートを切った三輪車リレーを応援がてらに観戦した――

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