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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十一話 月は東に日は西に 2

「お母さん、ちょっと自転車借りていい?」

「ああ、いいけど、どっか行くの? 鍵そこね」

「うん、ちょっとね。 すぐ戻ってくるよ」


 私は母が通勤で使っている自転車の使用許可を得た後、カーポートの下に止めていた自転車の施錠を解いて自転車に乗り込み、高校最寄の駅へと向かった。 けれど、私は別に電車に乗る為に駅へ向かっている訳ではなく、とある目的(・・・・・)の為に駅へ向かっている。 その目的を作ったのは――彼だった。


[玲さんって今日、家に居ますか?]


 そのメッセージが送られてきたのは午前十時過ぎ。 それまで私は自室の椅子に座り、スマートフォンで調べものをしていた。 そしてそのメッセージを見た途端、私の心臓は鼓動とはまったく別の拍子でどくんと脈打った。 その妙な鼓動をもたらした原因は判明していたけれど、決して認めたくは無かったから、私は一度だけ深呼吸して招かれざる鼓動を抑えた後、彼に返信した。 [いるけど、どうしたの?]と。


 それから話を聞いてみると、何やら彼は私に渡したい物があるとの事。 どうやら昨日の花火大会で私の為に土産みやげを購入していたらしい。 別に私は彼に土産を買わせるような事をした覚えは無かったから、彼に似合わず余計な気を遣わなくて良かったのにとついつい思ってしまったけれど、既に買ってしまったものにああだこうだと難癖を付けて、彼の厚意をないがしろにしてしまうのもさすがに気が引けたから、私は彼からの土産を素直に受け取る事にした。


 当初は彼が私の家へ土産を届けに行くと申し出ていたけれど、いくら駅から私の家が近いからと言っても徒歩では往復で十分以上は掛かってしまうだろうし、昨日の花火大会では色々と大変な目に遭っていたようだから、せめてもの労いとして[君がわざわざ駅から歩いて来なくてもいいよ。私が駅で待っててあげる。]と、彼に足労の必要は無いと伝えた。


 当然彼は、さすがにそれは悪いだの先輩がそこまでする必要は無いだのともっともらしい理由を付けて、私の足を駅へ運ばせる事を渋った。 彼も私に似て変なところで強情だから、こうなってしまうと私でも彼は中々手強てごわい。


 ここで私が北風の如き一方的な態度で彼に接してしまってはいけない。 そうすると彼は意地でも自分の意思を曲げまいと、地に足を踏ん張らせて意固地になる。 だからこういう場合私は、粛然しゅくぜんたる太陽として彼と接する事を心がけている。


[いいっていいって。私が貰う立場なんだから先輩も何も関係ないよ。それに私は駅まで自転車で行くつもりだから、昨日の花火大会で疲れてる君が歩いて来るよりもよっぽど効率的でしょ?だから君は駅で待っててくれればいいよ。]


 私は以上の旨を彼に送信した。 しばらくして返事が返ってくる。

[先輩がそこまで言うなら、お言葉に甘えて]

 ――かくして私は彼の上着いじを取り去る事に成功し、自転車で駅へと向かっている最中だったのだ。


 しかし、暑い。 ニュースでは先週辺りが暑さのピークで、以降は段々と気温が下がってゆくだろうと言っていたけれど、それでも今はまだ夏という季節に変わりはなく、夏の太陽は私を容赦無く頭上からいている。 日焼け止めを塗るほどの距離でも無かったけれど、せめて帽子くらいは被っていた方が良かったかなと今更後悔を胸中に育てつつ、私は自転車を漕ぐ足を速めながら駅へと向かい、ものの数分で駅に辿り着いた。


 彼は駅に到着したら駅出口まで降りてくると言っていたから、私は駅出口から道路を隔てた真向かいにあるアパートの作り出している日陰で直射日光を避けつつ、自転車から降りて彼を待った。

 しばらくして[もうすぐ着きます]という彼からの連絡があった。 私も[駅出口前にいるよ。]と返信し、それから東方面から一本の電車が走行してくるのが見えた。 彼はあの電車に乗っているらしい。


 そうして電車が完全に停止したのち、間もなく電車は西方面へと動き始めた。 すると駅出口から数名の乗客が降りて来て、その中に、彼の姿を発見した。 彼を見つけるや否や私は「おーい」と彼を呼びながら大きく手を振った。 私の声に反応したのか、彼はしばしきょろきょろと辺りを見回した後、私を見つけてこちらに歩いてきた。 ほぼ一ヶ月振りの彼との対面であった。

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