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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第三十話 おやすみは言えなくて 5

 そのメッセージを確認した途端に、僕の眠気はまったく消え去ったように思われた。 そして何よりも気に掛かったのは、こんな夜更けに僕に連絡を寄越してきたという玲さんの行動の意想外さである。


 僕が覚えている限り、日が回る数十分前に玲さんからSNS宛のメッセージを送られて来た事は何度かあるけれど、零時を越えて連絡を寄越された試しは無かったから、その辺りは僕の早い就寝時間に気を遣ってくれていたのだろうと勝手に解釈していた。 そもそもその時間帯になれば玲さんも寝ているだろうから(玲さんは普段零時前後に寝る事が多いと以前に聞き及んでいた)、僕への気遣い云々(うんぬん)の前に僕へメッセージを送れる状態で無かっただけの話に違いない。


 けれど玲さんが今こうしたメッセージを僕に送って来たという事は、今日彼女は珍しく夜更かししていたのだろう。 まだ夏休み中なのだから、多少夜更かししようとも何らおかしくはない。 むしろ、夜更かししてこその夏休みという思考さえある。 ただ、その夜更かしの最中に、寝ている可能性が極めて高い僕へメッセージを寄越してきたという突拍子の無さは一向に解せなかったのだけれど。


[起きてたので大丈夫ですよ]

 ひとまず僕は差し当たりの返答として、僕が起きている旨を報告した。 するとたちまち返事が来て、


[珍しいね。君がこんな時間まで起きてるなんて。]と返ってきた。 やはり玲さんは僕がもう就寝してしまっていると思っていたらしい。 しかし僕が既に寝てしまっているかも知れないにもかかわらずメッセージを送ってくるのは何とも玲さんらしくて、つい失笑をこぼしてしまった。


[ちょっと色々やってまして。先輩こそこんな時間まで起きてて珍しいですね。何かしてたんですか?]

 僕も玲さんの夜更けまで起きていた理由が知りたくなって、彼女の夜更かしの稀有けうさまを暗に匂わせつつ率直にそうたずねた。


[ちょっと双葉と電話しててね。私の方はほどほどに終わるつもりだったんだけど双葉が次から次にああだこうだ言ってくる内にこんな時間になっちゃって。]

[双葉さんって結構おしゃべりそうですもんね]

[そうなんだよね、喋り出したら止まんないんだよあの子。]

[確かに、例のDVDの件で話してた時もほとんど一人で喋ってました]

[でしょ?あの子は多分口から先に生まれたんだと思うよ。]

 双葉さんもこうした夜更けに自分の噂を立てられているとは夢にも思うまい。


[ところで最初の話に戻るけど、今日のデートどうだったの?]

[ちょっと話すと長くなりそうです]


 僕がそう返信して間もなく、僕のスマートフォンの画面が通話画面に切り替わった。 どうやら玲さんが僕に通話を求めてきたらしい。 僕は数手操作して彼女からの通話に応じた。


「もしもし、どうしたんですか電話なんて掛けてきて」

『話すと長くなるんだったら電話の方が便利いいかと思ってね』


 なるほど玲さんの言う事も一理ある。 今日花火大会で起こった事を文章にして書き出すにはあまりにも内容が濃すぎて、とても僕の文章力では表現し切れない。 しかし口頭でなら何の苦労も無く委細を相手に話す事が出来るから、下手に長文を送られるよりはそちらの方が効率が良いと彼女は判断したのだろう。


 しかし話すとなれば、現状の僕の立ち位置から伝えなければならないだろう。 僕の立ち位置――それは、訳あって今日古谷さんの家に泊めてもらう事になったという事である。 その事は明日以降に玲さんに白状するつもりではいたけれど、こうも早急にその時が来るとは予覚すらもしていなかっただけに、僕は途端に臆病になった。


 けれど、話すと長くなるなどと思わせ振りな事をのたまって彼女の好奇心をあおってしまった上、電話まで掛けてこられた以上、真実を話さない訳にも行かない。

 ――なに、叱られるのが今日になるか明日以降になるかだけの違いだ。 だったら、たけ早く済ませた方が精神的にも気楽になるだろう。 そうと決まれば善は急げ。 僕は「実は――」と切り出して、いの一番に僕が今古谷さんの家に居るという事実を玲さんへ告げた。

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