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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第三部 変わる人々、変わらぬ心
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第二十七話 終着駅でさようなら 2

 古谷さんと落ち合う駅には十七時過ぎに着いた。 通学で毎日のように利用している電車道だったから、窓から見える景色は普段と代わり映えしなかったけれど、通学以外でこの景色を見る日が来るとは思ってもいなかったから、僕はここに辿り着くまでの間、妙な新鮮味を感じていた。

 そして電車側の都合か、この駅に五分ほど停車しているらしいので、そろそろ古谷さんも到着する頃だろうと思い、僕は彼女を迎える為に電車から一旦下車していた。


 集合場所の駅は高校の最寄り駅と同様、売店などのない簡素な駅だった。 僕は電車から少し離れた場所でプラットホームに居た人々を眺めていた。


 僕達と同様、例の花火大会へ行くつもりなのか、浴衣を着た女性が数人連れ立って歩いている。 子供連れの家族もいる。 ――手を繋いだ二十代前半のカップルもいる。 さすがに手を繋ぐ度胸は無いけれど、僕も古谷さんと連れ立って歩いていたら、周りからは恋人同士として見られてしまうのだろうかと、そのカップルを見ながら妙な心配をしていた。 ところへ、


「ユキくん?」


 誰かが僕の後方から、僕の名を呼んだ。 僕の呼び方や声色からして、振り返るまでも無く僕を呼んだのは古谷さんだという事はたちまち理解出来た。 僕は動揺する事もなく、古谷さんの方を振り向いた。 しかし、彼女をこの目に映した途端、僕はまったく目を丸くして動揺をていしてしまった。


「ふ、古谷さん、だよね」

「はい、そうですよ」


 僕の目の前に居るのは古谷さんその人に違いないと頭では理解していながらも思わずそう聞いてしまったのは、自身の動揺を少しでも落ち着かせる為だったのだろう。 僕が動揺させられた理由としては二つある。 一つは服装で、僕はこれまで古谷さんの服装は学校の制服か体操服姿しか見た事が無く、そして今日、初めて彼女の私服というものを目にした。


 上衣には比較的明るめなベージュ色をした半袖のシャツワンピース。 下衣にはベージュというよりはカーキに近い膝上のショートパンツ。 上衣のシャツワンピースの着丈は短めで、ショートパンツが完全に隠れてしまうという事も無い。 加えてどちらも明るめの色をしているから重々しい雰囲気も無く、夏に相応ふさわしい清涼感溢れる服装だと言えるだろう。


 肩にはハンドバッグが提げられており、こちらのバッグは服装の白形の明るさとは対照にツヤの有る黒色をしていて、デザインも大人向けのように感じられる。

 靴は深いネイビー色のスニーカーを履いている。 道行く女性の靴を見ていると涼しげなサンダル系の靴を履いている人が多かったけれど、恐らく花火大会会場で歩き回る事を考慮して機能重視でスニーカーにしたのだろう。 さすが、去年も家族で同じ花火大会を見に行った経験者だけはあると感心もした。


 古谷さんの私服は以上の通りだった。 ファッションにうとい僕の目から見ても、彼女の服装は非常におしゃれだと思う。 もっと率直に言うならば、いかにも女の子らしくて可愛らしい。 僕が他人の私服で可愛いと感じたのは、彼女が初めてかも知れない。


 これが、僕が第一に古谷さんに動揺させられた理由である。 実際この理由だけでも僕は彼女を普段の目で見る事が出来ず、どぎまぎしていた。 しかし、第一の理由をまるっと上書きしてしまうほどの彼女の変化があったからこそ僕は、平静を保っていられないほどに動揺してしまっている。 その動揺の大元というのが、二つ目の理由である。


 最早僕の中の古谷さんのトレードマークとなっていた、目をも覆い隠そうとする前髪はすっかり眉下辺りに落ち着いている。 彼女の両の瞳は今、何ものにも遮られる事無く僕の前にはっきりと現れていた。


 僕が入学して初めて古谷さんを見た時から、せんだっての登校日までずっと以前の髪型だったから、あの髪型には彼女なりのこだわりがあるのだろうと勝手に解釈していたけれど、そのこだわりを捨ててまで今の髪型を選んだという事は、何かに対する彼女なりの決意があったのだろう。 つまり彼女は、現状維持という柵を飛び越えて、変化という激流に身を投じたという事。

 彼女は、自らの意思で変わろうとしているらしかった。

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