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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第二十一話 誤解 8

 浴場へ進入すると、まず目に飛び込んできたのは浴場中央にある丸型の浴槽で、浴槽の中心辺りから絶え間無く泡が吹き出ている事から、恐らくジャグジー風呂だと思われる。 そこには三人の高年男性が居た。 ジャグジー風呂から少し奥に行った辺りには、左右それぞれにおもむきの違った大浴槽が構えてある。 そこにも中年男性と高年男性が都合四人、湯にかっていた。


 浴場に進入した直後の右側には洗い場が広がっている。 ざっと都合しただけでも二十名程度は同時に使用出来るだけの洗い場が設置されており、その洗い場の出入り口に近い所に三郎太と竜之介が並んで座っていたので、僕はひとまず彼らに近寄った。 すると三郎太が僕の存在に気が付いたようで、


「お、ユキちゃん遅かったな。 まぁ俺の隣にでも座れよ」と、彼の左のバスチェアに着席をうながしている。 僕は言われるがままにその場所へ腰を掛けた。 腰を掛けた際、腰にハンドタオルを巻いていたのを思い出したので一旦取り外し、それから下半身を隠す為、タオルを鼠蹊そけい部に橋渡しするように乗せた。


「ユキちゃんってこういう温泉とかに来る事とかあんの?」

 三郎太が自身の頭を洗いながらそうたずねてくる。


「家族で何回か行った事はあるけど、本当数えるほどだね。 僕もお風呂自体は好きなんだけど、銭湯や温泉に行きたいとはあんまり思わないかな」


「まぁ銭湯とか温泉って言っても結局やる事は身体洗って湯船に浸かるぐらいだし、言っちゃえば家の風呂と変わんねーもんな。 何よりこっちは金も掛かるし、仮に温泉が好きでもそう頻繁には行けねーよなー」


 今回は三郎太の無料券で入浴料は発生しなかったけれど、受付で確認した実際の入浴料は大人七五○円だった。 勿論、僕達高校生は大人に分類される。 高校生の七五〇円といえばそれこそ大金だ。 払えなくはないけれども、何度も気軽に払える金額で無い事は確かである。 それを思えば、あの無料券はえらく太っ腹のようにも思えてくる。


 無料という甘美な響きで集客し、リピーターを増やす事によって利益を上げる商法なのかも知れない。 施設の良し悪しなどは、ず対象となる施設自体を知ってもらわなければ評価のし様もないだろうから、施設の知名度を上げる為、無料を餌に客を食い付かせるのは中々にうまいやり方だと思う。 損して得取れとはまさにこういう事を言うのだろう。 無料券の裏に隠された商売の秘訣を垣間見たような心持をいだきながら、僕も洗髪を始めた。


 銭湯や温泉の場合、洗髪剤はシャンプーとリンスの混ざった、いわゆるリンスインシャンプーの形式が多い。 ここの温泉もその仕様のようで、一度の洗髪でシャンプーとリンスが同時にこなせるのだから便利のように思えるけれど、不特定多数の客が多量に使用する消耗品というのは、決まって質が悪い。 それこそ僕の銭湯や温泉の経験数が少ないので必ずとは言い切れないけれども、その数少ない経験の中で僕は、質の良いリンスインシャンプーに出会った事が無い。


 質の悪いリンスインシャンプーには共通点がある。 まず第一に、泡立ちが悪い。 本来、適度に頭皮を素洗いした後であれば、通常の洗髪剤ならワンプッシュで頭全体が泡立つはずなのに、質の悪いものだといくら頭皮を素洗いした後でもワンプッシュではまず満足に泡立たない。 全体どれほど泡立たないかと言うと、頭頂部や後頭部など、頭のブロックごとにワンプッシュが必要なぐらいだと言えば想像にかたくないだろうか。


 泡立ちは悪いものの、一度泡立ってしまえば洗い心地は他の洗髪剤と然程変化は見受けられない。 けれども、こうしたリンスインシャンプーの悪いのはしつだけではなく、たちも悪い。 それは洗髪中でなく、ブローの際に判明する。 それが第二の共通点、ブロー後に髪がごわつく、である。


 リンスインシャンプーとうたっているのだから、洗髪後には髪の毛はさらさらになっていなければ嘘である。 しかし、安かろう悪かろうとは良く言ったもので、第一に提起した泡立ち同様、リンスとしての効能など在って無いようなものだ。


 ブロー中の手櫛てぐしでは指に髪が引っかかるし、髪の水分を飛ばすほどに髪の毛のごわつきがあらわになってくる。 こうした状態では髪型をセットする事すら困難で、毛先が外にカールしてみたり、前髪が不自然に眉間辺りに集まってみたりと、まるで良い経験が無い。 そうした事情もあって、銭湯に設置されているリンスインシャンプーに対する僕の評価はいちじるしく低い。


 だけれど今日は球技大会ですこぶる汗をいた以上頭を洗わない訳にも行かず、僕は素洗いで念入りに頭皮の汚れを落とした後、どうせ今回も泡立ちが悪いのだろうなと諦観しながら、正面に置かれていた洗髪剤用の容器のポンプディスペンサーを一度押して片手に洗髪剤を出し、頭頂部辺りで泡立てようとした。

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