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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第二十一話 誤解 2

「そう言えばさ」先輩が何かを言おうとしている。 私は「はい」とだけ返した。

「あれから君と彼との仲はどんな感じ?」

「へっ?」


 あまりの意想外な質問に、喉の奥から変な声が出た。 そう言えば、そうだった。 この人は、この先輩は、私とユキくんの関係(・・)を一から十まで知り尽くしているのだった。


「いや、私はあの、その、確かに、先輩も知ってる通り、私はユキくんの事が好きなんですけど、それは私の一方的な想いで、ユキくんが私の事をどう思ってくれているかなんて分かりませんし、どんな感じって言われても、普通、としか言えませんけど」


 そう語っている間に、私自身もユキくんとの関係はその程度のものなんだなと再認識させられて、少し弱気になる。 今改めて自分で思い返してみても、確かにそうなのだ。


 彼に告白を果たした『あの日』から私は、出来る限りユキくんの傍に居ようとしていて、食堂に初めて誘われた日からは毎回のように彼らに付いていくし、SNSの連絡先を教えてもらった日には、図々しくもその日の夜から彼にメッセージを送り、それからも余程の事情が無い限り、私は夜の決まった時間になると彼を誘い、今日こんにちまで他愛ないやり取りを繰り返し繰り返し、飽きもせずに行っていた。


 私は勿論、彼に好意を持ってそれらの行動を起こしている。 それは恐らく私以外にも、三郎太くんや神くんや真衣、そしてユキくん本人にすら知られている、最早何処(どこ)にも隠しようの無い、まさしく周知の事実だ。 そう考えると私は私の思う以上に結構大胆不敵なのかもと認めてしまいそうにもなる。


 けれど、彼の私に対する行動の根源は、果たして好意だろうか、それとも、ただの行為として、私と接しているのだろうか。 彼とそういう事が出来て幸せを感じる一方で、本当は彼に迷惑を掛けているんじゃないかという思考は、一度二度ではなく度々(たびたび)私の脳裏をよぎり、私を夢の世界から現実へと引きり下ろそうとしてくる。


 ひょっとすると、私がいつも食堂に付いていったり、私が夜にメッセージを送ったりする事に対し、私を迷惑に思いながらも、優しいユキくんの事だから、嫌な顔一つせず私に対応してくれているだけなのかも知れない。 もしそうであるとすればと考えるだけで、私は何て愚かで鈍い女なのだろうと、これまでの自分の行為行動すべてを否定されたかのような最低最悪の気分におちいってしまう。


 私の心は、先輩を前にしてひどく落ち込んでいた。 それは先輩のせいでも何でもなく、私の空回って行き過ぎた不安定な思考がもたらした自爆に近い。 今回ばかりは先輩は悪くない――いや、今回も何も、食堂で初めて先輩と会った時だって私が勝手に色々と悪い方向に思い込んでいただけであって(その日のユキくんとのSNSのやり取りで、彼は先輩とそういう関係でないとはっきり伝えてくれた)、それこそ、あの時の先輩は少し無神経だったとは思ってしまったけど、結果的に先輩は何も悪くなかった。 だから言い直そう――今回()私が勝手に自爆した。 これで先輩は悪くならない。


「そっか、普通か。 まぁ、君達の関係って結構特殊だからね。 片や大胆に告白しておきながら自分の事は好きにならなくていいって言うし、片や異性から好きだと言われて日々相手からの想いを受け取りながらも未だその想いに応える様子は無い。 でも、そんな奇妙な関係が少なくとも数ヶ月は続いてるし、本当に嫌だったらとっくに愛想尽かされてるだろうから、知らぬ素振りを見せながらも内心は結構脈アリなのかもよ? あの子、結構奥手なとこあるっぽいし」


 先輩は、これ見よがしに落ち込んでいる私を励まそうとしてくれているのか、優しい口調で私とユキくんの現在の関係をポジティブに解釈しながらそう伝えてくる。 でも、ユキくんが奥手だなんて事は、私は知らなかった。


 私の知っているユキくんは、いつも優しくて、男女へだてなく会話出来て、けれど少しおっちょこちょいなところもある人物だ。 そして、私の知っているユキくんの人となりの中に『奥手』という言葉は存在していなかった。 あのユキくんが奥手だなんて、私にはにわかに信じ難い事実だ。 だから、


「先輩って、結構ユキくんの事知ってるんですね」


 やはり、そんな事を言ってしまう。 自分で言っておいて、今更先輩を疑うような事を言い出すのは少し卑怯だと思った。 先輩とユキくんはそういう関係で無い事は知っている筈なのに、私は私の知らないユキくんを知っている先輩が、ただただ羨ましくて、それがみにくい感情だとは分かっていながら、嫉妬してしまう。


 だから先の私の言葉も、羨望せんぼう混じりの嫉妬そのものだ。 先輩にこんな感情をぶつけたって何の解決にもならないのに、そうせずにいられなかったのは、私がまだ心の奥底のどこかで、先輩にユキくんを取られるんじゃないかと思ってしまっているからだろう。

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