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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第二十話 球技大会 9

 ここから先の僕達は、まるで見違えるようだった。

 三試合目の相手には十点以上の点差を付けて快勝を果たし、反撃の狼煙のろしを上げるきっかけとなった。 それからも僕達の快進撃は継続し、怒涛の五連勝を決め込んだ。 これで僕達は五つの勝ち星を手に入れ、残る試合は一試合のみとなった。


 そして最後の相手は何の因果か、しくも僕達と同様五勝中の相手で、リーグの中で五勝しているのは僕達とその相手のみだったから、次の試合に勝利した方が二位、負けた方が三位となる。 ちなみに一位は勿論例の全国ペアで、七戦中七勝の圧倒的な実力差を見せ付けて、残る一試合を残したまま優勝が決まっていた。


 ここまで来ると、彼らのいわゆる消化試合に付き合わされる最後のペアには同情すら覚えてしまいそうになるけれど、悠長に余所見よそみをしている暇は無い。 優勝は逃したけれど、あの絶望的な始まりから二人でここまで立て直せたのだ。 最後の試合にも勝利して二位を飾り、クラスに貢献したい。 負けても三位などという弱気は、僕はもちろん古谷さんの口からも漏れる事は無かった。


 数々の勝利をて、僕達の士気は依然として高まりつつある。 今すぐ二位決定戦の試合を行いたいとさえ気持ちがたかぶっていた。 しかし時間の都合上、残りの試合は昼休み後となってしまった。 いささか水差され感はいなめなかったけれど、あまり感情の任せるままに行動していては気持ちばかりが先走っていた朝の僕のてつを踏む事になってしまう事は火を見るより明らかである。


 それなればこそ、昼前に決着を付けたかったなどというくだらない不満を述べるより、この昼休憩は感情のたかぶりをある程度静める事の出来るクールタイムだと割り切った方が僕の精神にも優しいだろう。 だから僕は昼休憩をこころよく受け入れた。 かくして体育館を後にした僕と古谷さんは昨日と同様食堂でドッジボール組と合流し、各自昼食を摂りながら互いの競技の近況を報告し合った。


 聞くところによると、どうやらドッジボールの方は昼までに全試合が終了したらしく、優勝は逃したものの、一年生にして三位という番狂わせな順位を獲得したようだった。 古谷さんに武勇伝を語っている三郎太をよそに平塚さんから詳しい話を聞いていると、やはり三郎太の功績が大きかったようで、三位決定戦の決勝点を挙げたのも彼だったらしい。


 竜之介も「これで調子に乗って更にやかましくならんかったらええけど」と妙な懸念をいだきつつ、それでもやはり三郎太が居なければここまでの順位には辿り着けなかっただろうとひそかに彼の実力は認めていたようだけれど、 素直にそれを本人に伝えないところが何とも負けず嫌いの竜之介らしく、つい口元が緩んだ。


 それから平塚さんの情報網によって、卓球が残り一試合を残して暫定三位、バレーボールが残り二試合を残して暫定四位という経過が判明した。 どの競技も一年生にしては奮戦している方だろう。 既に順位が決定したドッジボールはさておき、僕達のバドミントンが昼からの試合に勝てば二位を獲得でき、卓球が一勝で現状維持、バレーボールも二勝すれば三位に上がるらしい。


 一時は諦めていた上位入賞も、ここに来て僕達の目先に浮上してきた事もあって、自分が思っている以上に僕の心は高鳴っている。 その高鳴りは期待と興奮由来であり、また、不安と緊張由来でもある。 僕達の最後の一戦がクラスの総合順位を左右するやも知れないのだから、当然の心持だった。


 弱気は行動力を殺す。 まだ試合すらも始まって居ない休憩中に、人知れず出鼻をくじかれていては朝の試合の二の舞だ。 気を強く持てと僕は僕を律すると共に心に誓った。 昼からの最終試合、必ず二人(・・)で勝利を収めてやると。 そう決意して間もなく僕の胸中に沸々ふつふつと闘志が煮えたぎってくるのが分かった。 第一にクラスの為、第二に僕を励ましてくれた古谷さんの為、僕は全身全霊をして最終試合にのぞもう。

 弱気を噛み殺すよう口一杯に頬張った昼食用のパンを、僕は力強く噛み締めた。


 そうして昼休憩も終わり、僕達は体育館へと戻った。 僕達の試合は昼一番からだった。 昼までに全試合が終了したドッジボール組が見学に来ているのか、昼前より体育館内の人口密度が増しているように思われる。 その中には三郎太や竜之介、平塚さんも含まれている。


「勝てよユキちゃーん!」

「千佳ーっ、ファイトーっ!」

「言わしてもたれや優紀ー!」


 各々(おのおの)が僕達に掛声エールを送ってくれている。 横合いから聞こえて来るそれらの言葉を耳にしているだけで、心の底から力が沸いてくるような気がした。 それにしても、言わしてもたれ(・・・・・・・)、とは何だろう。 試合後に覚えていたら竜之介に聞いてみなければならない。


「頑張ろうね、古谷さん」試合開始直前、僕は彼女にそう言うと「はいっ」という快活な声が横から返って来る。 頼もしい声だ。 そして間もなく鳴らされた笛を合図に、二位決定戦の火蓋が切って落とされた。

※言わしてもたれ = 言わす。 関西圏で「やっつける」の意。

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