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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第二十話 球技大会 6

 お風呂を済ませて自室に戻った私は、机の上に置いていたスマートフォンの通知ランプが点滅している事に気が付いた。 時刻は二十一時を過ぎた頃、ひょっとするとユキくんからかも知れないと、通知を確認してみる――当ては外れて、三郎太くんからのメッセージが届いていた。


[球技大会一日目おつかれ!今日は千佳ちゃんの応援のお陰で三年に逆転勝ち出来たからお礼言っとくよ、サンキュな!]


 あの時、勢いで叫んでしまった「頑張れ」という私の声援は、どうやら三郎太くんの耳に届いていたらしい。 しかし私も柄にも無くあんな事をしてしまったものだから、改めてあの場面を思い出すやいなや何だか今になって急に恥ずかしさが込み上げてきて一人顔を熱くした。

 しばらく顔の火照ほてりを手うちわで誤魔化しつつ、そうしてほどほどに顔の熱も冷めた頃、私は先ほどの三郎太くんからのメッセージの返信をした。


[大袈裟だよ。私の声援なんて無くったって三郎太くんはきっと勝ってたよ]


 私の声援一つで周囲を沸かせるような逆転劇が出来るのであれば、私は声が枯れるまで彼を応援してやろう。 しかし、そのような都合の良い事は在り得る筈も無く、あの試合で三郎太くんが逆転出来たのは、他ならぬ彼自身の実力があってこそのものだったと謙遜気味に返していた。 すると間もなく三郎太くんからの返信が返って来て、


[いやいや!あの声援が無かったら俺は多分負けてたぜ?]

 きっぱりそう言い切ってくる。 一体何の根拠があるのだろうか。


[三郎太くん、また私をからかおうとしてるでしょ]

 彼がやけに自信満々なものだから、彼の普段のおちゃらけ具合から察するにこれはからかいのそれに違いないと私は疑った。 しかし彼は、


[こればっかりは本当だって。女の子からの声援ってのは男が一番力をもらえる行為だからな]と、またもや自信たっぷりにそう言った。


[そうなの?]


[おう!それほど男ってのは単純だし、俺みたいなヤツには尚更効果抜群ってワケよ!]


 三郎太くん以外の男性が本当にそうなのかは私には分からないけれど、彼のこれまでの言い分からして、少なくとも彼にとっては絶大な効果があるようだった。 続けて彼は[あの声援さえあったら俺は一人でも優勝出来そうだぜ!]と、また大袈裟な事を言ってくる。 いよいよどこまでが本当なのかははっきりしないけれど、三郎太くんがそこまで言うのであれば本当にそうなのだろうと、妙な説得力が私を納得させようとしていた。


 男は単純――ユキくんも、そうなのだろうか。 私の声援で普段以上の力が出たりするのだろうか。 三郎太くんの発言を真に受けてそうした思考を巡らせてみたけれど、生憎ユキくんと私はバドミントンのペアで、彼のパートナーである私が彼に声援を掛けるのはちょっと違うような気もする。 だから彼に声援らしい声援を掛けてあげられないのは少々残念に思った。 けれど、せっかくユキくんが誘ってくれて結成したペアだ。 私としてはこの上ない幸運だ。 にもかかわらず更なる欲をかいていてはばちが当たってしまう。 だから私は欲望むき出しの思考を振り払うよう、ぶんぶんと首を横に何度か振り、浮ついた自身を律した。 その上でまた三郎太くんへ返事を返した。


[じゃあ明日また私達の待ち時間に三郎太くん達が試合中だったら目一杯応援するから頑張ってね!]


 真衣の話によると、ドッジボールの試合は十分も掛からずに終わってしまう事が多いから、余程タイミングが合わない限りは私達の待機時間と彼らの試合が重なる事は無さそうだ。 でも、もしタイミングさえ合えば、出来る限りの声を張り上げて彼ら彼女らを応援してあげよう。


[おう!でも俺らの事もいいけど、せっかくユキちゃんとペアになれたんだからそっちもしっかりな]


 次の返信で三郎太くんが意表を突いた事を言ってきたものだから、私は再度顔を熱くした。


[出来る限り頑張るつもり]と私が自身無さげに返信すると、三郎太くんはチャットのスタンプ機能で[がんばれ!]と表現してきた。

 それからしばらく彼と雑談を交わし、二十二時前に彼とのやり取りは終わった。


 もう少し時間が早ければユキくんともやり取りしようかと思っていたけれど、さすがにこの時間からチャットに誘うのは少し気が引けるし、球技大会の疲れも相まって眠気が襲ってきた事もあって、今日は早めの床に就いて、明日の決勝リーグに備えようと思い立った私は、座っていたベッドの上で大きな背伸びをした後、就寝の段取りに入った。 それから諸々の寝支度を済ませ、部屋を暗くして布団に潜り込んだ私は、まぶたの重さを感じつつ物思いにふけっていた。


 ――今思い返すと、ユキくんほどではないけれど、私は結構三郎太くんとSNSを通してやり取りをしている。 大体三郎太くんからの誘いが多く、話の終わりには大抵、ユキくんと私がうまくいくようにと言ってくれるから、本当に私の事を応援してくれているのだろう。

 普段は馬鹿をやって神くんや真衣に度々(たびたび)いじられているけれど、根の三郎太くんは、とても気の利く人当たりの良い人間性を持っていると私は知っている。 あくまで私の一番はユキくんだ。 でも、もし彼と出会う前に三郎太くんと知り合っていたら、私は彼に惹かれていたかも――


 私は布団の中でそうした益体もない思想を繰り広げては、つまらない事を考えていないで明日の為に早く寝ろと己を叱り飛ばした。 明日はもっと、ユキくんに踏み込んでみよう。 そう決め込んでから深く深呼吸をした後、いつの間にか私の意識は暗闇の中へと溶け込んでいた。

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