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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第二十話 球技大会 5

 本日の球技大会はとどこおりなく終了した。 僕は竜之介の下車駅で彼と別れた後、ラケットを振るっていた右腕の筋肉痛になっている部分を軽く手で揉みほぐしながら、今日一日の出来事を振り返っていた。


 先に結果だけを述べると、僕と古谷さんペアは組の中で全勝を成し遂げ、明日行われる優勝決定リーグへの挑戦権を得ていた。 昼一から行われた僕達の第四試合では接戦に続く接戦で二〇対二〇からの延長戦にもつれ込んだものの、古谷さんが粘りを見せてくれたお陰で辛くも勝利し、それから三十分後に行われた第五試合の相手は、僕達と同じくして全勝中の二年生だった。


 試合は当初相手ペースで、一時は五点以上差をつけられた危うい場面もあったけれど、ここでも古谷さんが脅威の粘り強さを発揮してくれて、徐々に勢いを取り戻してきた後半で僕達がリードし、その後一度もリードを許さずに迎えたマッチポイント時の相手のミスショットからの僕のスマッシュが決勝点となり、決勝リーグへの切符を手に入れる事が出来た。 別の組で戦っていた同じクラスの二ペアも善戦はしていたけれども首位には届かず、悲しいかな決勝リーグへは僕たちのペアしか参加出来ない結果となった。


 他の競技では、卓球も一ペアのみ決勝リーグへの進出が決まったらしい。 バレーボールとドッジボールは試合数の関係から七割程度の試合消化率で一日目を終え、バレーボールは九戦中六勝、ドッジボールは十戦中七勝していると平塚さんから聞き及んだ。 どちらのチームも未だ勝率は七割を保持しているので、僕達バドミントン方面と卓球方面が決勝リーグで上位に食い込めば、昼に僕が希望的観測として語っていた、一年生にして上位入賞という大それた妄想も、現実のものとして僕達の前に現れるかも知れない。


 しかし、明日のバドミントン及び卓球決勝リーグは今日のようにうまく事が進まないと思っていた方が良いだろう。 無作為に選ばれた不規則な組分けの予選リーグとは違って、明日の決勝リーグは各組の首位ペアが揃い踏みなのだから、一瞬でも隙を見せれば寝首をかかれる事はけ合いだ。 とてもじゃないけれど一筋縄で通してくれる相手達では無いだろう。


 そうした群雄ぐんゆう割拠かっきょなる戦場を、僕は古谷さんと共に戦い抜かなければならない。 だけれど、不思議と負ける気はしなかった。 その自信は、今日の成績が佳良だった事を踏まえたうそぶきだったのかも知れないし、古谷さんに良い場面を見せたいが為の虚勢に過ぎなかったのかも知れない。 それでも彼女となら、土壇場で粘り強さを見せてくれる彼女と一緒ならば、優勝には届かなくとも上位入賞には食い込めるような気がしていた。


 ただ、今日の試合で思った以上に体力を消耗してしまったから、明日の試合に万全の調子でのぞむ為、今日はたけ早く就寝しなければならない。 古谷さんとの夜の交流も今日はおあずけになりそうだ。 ――それにしても、自分が思っている以上に疲れているのか、少しまぶたが重くなってうつらうつらし始めてしまった。


 電車はたった今発車したばかりで、僕の地元に着くまでは一時間ほど掛かる。 仮眠にはうってつけの時間だとあっさり睡魔を受け入れた僕は、念の為にスマートフォンでバイブレーションのみのアラームを目的地到着時刻五分前に設定した後、電車の窓枠にもたせ掛けた腕で軽く頭を支えつつ、眠気にうながされるようおもむろにまぶたを閉じた――


 ――『僕』がバドミントンをしている夢を見た。 ラリーの相手は古谷さんだった。 二人とも笑みを浮かべて楽しそうだった。でも、『僕』の体を動かしているのは、私じゃない。 私は少し離れた所から、その様子を見ていた。


 ならば、その二人を見ている私は、一体誰なのだろう。 ぼくだろうか、それともぼくだろうか。 分からない。 けれど、夢の中の彼女の笑みも、変わらず私の好きな笑顔で、その顔を見ている内に、そんな些細ささいな詮索は次第にどうでもよくなった。


 彼女の笑顔が見られるのなら、ぼくでもぼくでも構わない。 ついには意識も溶け出して、私は古谷さんとラリーをしている『僕』らしき人物の頼もしい背中をじっと眺めていた。 あんな風になれたらいいなと、私はその背中に男らしさを見ていた。


 電車が僕を揺らしている。 私の意識を揺らしている。 揺れが落ち着く頃には、私は僕に落ち着いているだろう。 だから今は、今だけは、その背中を眺めさせていて欲しい。

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