プロローグ
この世の中には、コインの裏表のように対になるものが多く存在している。
対とは物体に限らず、光と影といった事象にも扱われ、様々な有相無相の対に囲まれながら僕はこれまでの人生を歩んできた。
ただ、枚挙に暇が無い対の中に僕は、どうしても対として認められないものがある。 それは『男女』だ。
一つ断っておくと、男女が交わらなければ子供が生まれない事も知っているし、その行為を否定するつもりも無い。 現に僕の生命は、父と母によって齎されたものなのだから。
けれども、そうした建前の上であっても、僕はそれを対と認めない。
それでもなお『男女』が対と宣うのであれば、どうして神様は人間のこころとからだの性別が一致しないという重大な欠陥を残したまま、今もなお静観を決め込んでいるのだろうか。
表だけのコインは存在し得ないし、生まれなければ死ぬ事も無い。 絶対的で在らねばならない筈の対の世界で『男女』という対は自由気ままに姿を変え、僕を翻弄しようとする。
だから僕は認めない。 神様に頼まれたって認めてやるものか。
未だ真実の面を見せようとしない『男女』という欺瞞に満ちた、曖昧な対を。