第八話 一日目の目覚め
<そして、夜が明け>
「チュン、チュン」
「……んっ?」
外から雀の声が聞こえる。
知らない間に眠り込んで、それから朝になったみたいだ。
(なで……、なで……)
あれ? 誰かに頭を撫でられている。
(なで……、なで……)
細くて柔らかな手が、僕の頭を滑ってゆく。
その感触は優しくて、とても気持ち良い・・・。
頭を滑る、優しい感触を感じていると、何だか物凄く安心する。
「なおくん、起きた?」
頭の上から、声が聞こえた。
普段とは違う目覚めに。
一瞬、誰か分からなくて、顔を上げて見たら。
「おはよう、なおくん」
慈愛溢れる笑顔を見せながら。
千早ちゃんが、甘い声で挨拶する。
ああ、そうか。
昨夜、精霊を召喚して、彼女の所に来たんだっけ・・・。
起きたばかりで眠気が残る中、昨日の事を思い起こす。
「うふふ、まだ眠そうだね♪」
寝起きの僕の顔を見て、可笑しそうにしている千早ちゃん。
彼女の、その優しい笑顔を見ているだけで。
僕の心は、穏やかで暖かい物に包まれ、安心してしまう。
「千早ちゃん、おはよう」
僕は思わず、そんな気分を気付かれるのが恥ずかしくなり。
彼女に、笑いかけながら挨拶を返す。
「なおくん、ごめんね、私の側にずっと居てくれて。
本当なら、客間で寝て貰うつもりだったんだけど・・・」
そうすると千早ちゃんは、済まなそうに言った。
「良いよ、そんなの。
それより、千早ちゃんの方が心配だから」
「……そんな……。
でも、ありがとう……」
僕は男だから、多少の無理は利くけど。
彼女は女の子だし、それに体が弱いから、無理をさせてはイケナイ。
僕の言葉を聞き、千早ちゃんは済まなそうながらも、感謝のお礼を言う。
「ねえ、なおくん、お腹空かない?」
「うん、空いてる」
「じゃあ、私が軽く朝食を作るから
一緒に台所に行こう」
彼女の言葉に、空腹なのに気付く。
引き篭もってから、不摂生な生活を送っていたが。
久しぶりに早起きをしてみて、意外にも食欲があるのに、軽くビックリする。
「台所はコッチだから」
千早ちゃんは、ベッドから起きて、台所の方へと向おうとする。
「体の方は大丈夫?」
「ふふっ、一晩寝たら、大分楽になっちゃった♪」
昨日の今日なので、僕が具合を聞くと。
彼女が、少し恥ずかしそうに答える。
あの様子だと、大体快復したみたいだ。
そんな訳で、僕は千早ちゃんの案内で、台所へと向かった。
**********
「(……あれ?)」
徐々に、眠りの海から意識が浮上すると。
自分のすぐ側に、誰かが居るのに気付く。
「(だ、だれ……?)」
起きたばかりで、まだ回らない頭のまま体を起こしてみたら。
ベッドに上体を乗せる形で、男の子が眠っているのが見えた。
「あ、そうだった……」
一瞬、警戒心から身を硬直されるが。
昨夜の事を思い出したら、安心して息を吐いた。
そして、その眠っている男の子をジックリ眺めてみた。
同じ年頃の男子とは違う長い髪に、男の子とは思えないサラサラの髪の毛。
そして、女の子としか思えない様な、つるつるツヤツヤな肌。
見ている内に、何だかくやしくなってしまう。
(※その当時は、男がヘアケアやスキンケアどころか。
身だしなみに気を付けただけで、軟弱者扱いされる時代だった様です)
その、まるでマンガから出て来た様な、存在を見ている内に。
触れて見たい欲求が、湧き起こってきた。
恐る恐る、この男の子の頭に手を伸ばし、軽く撫でてみる。
(サラっ)
え! これが男の子の髪なの!
撫でると、とても良い触り心地がする。
その感触の良さを、もっと味わいたくて。
しばらく頭を撫でていたら。
「んっ……」
男の子が目を覚ました様だ。
しかし私は、撫でることを止めなかった。
彼が顔を上げた所で、撫でられなくなったので。
惜しいが、強制的に終了となった。
「なおくん、起きた?」
寝ぼけ眼で顔を上げる、なおくんの様子が。
まるで、ちっちゃい子みたいだったので、思わず頬が緩んだ。
「おはよう、なおくん」
そんな、なおくんに、声を掛けるけど。
寝ぼけて、きょとんとした様子の彼を見ると、ますます頬が緩んでいく。
「うふふ、まだ眠そうだね♪」
余りにも彼の様子が可愛かったので、思わず笑ってしまう。
「千早ちゃん、おはよう」
私が、つい笑ったのが恥ずかしかったらしく。
照れたような笑みを見せながら、なおくんが返事を返してくれた。
「なおくん、ごめんね、私の側にずっと居てくれて。
本当なら、客間で寝て貰うつもりだったんだけど……」
そんな、なおくんを見ていたら。
ふと、昨夜の事を思い出した。
彼に、客間で寝て貰うつもりだったのが。
私の体調が悪くなってしまい、自分の部屋に運んでくれただけでなく。
私を寝かしつけてもくれたのだが、結局、彼をそのままにしてしまった・・・。
その事を思い出すと、なおくんに謝罪する。
「良いよ、そんなの。
それより、千早ちゃんの方が心配だから」
「……そんな……。
でも、ありがとう……」
そんな私に、なおくんは笑って気にもしてくれなかったし。
それどころか、逆に、私の事を気遣ってくれる。
私は、なおくんの優しさが嬉しくて。
悪いとは思いつつも、彼に感謝した。
「ねえ、なおくん、お腹空かない?」
「うん、空いてる」
「じゃあ、私が軽く朝食を作るから
一緒に台所に行こう」
目が大体覚めた所で、なおくんにお腹が空かないか聞いてみる。
聞くと空いているようなので、先に彼を台所に案内してから。
ネグリジェを着替えよう。
「台所はコッチだから」
私はベッドから起き、なおくんを台所の方に案内する。
「体の方は大丈夫?」
「ふふっ、一晩寝たら、大分楽になっちゃった♪」
台所に向かおうとすると、再び彼が体調を聞いてくる。
本当に、なおくんは優しいなあ〜。
彼の気遣いが嬉しくて、私は思わずゴキゲンな返事を返した。