第五話 邂逅(かいこう)〜尚サイド〜
「うわー!」
目の前に閃光が放たれると同時に、足元の感覚が急に無くなり、何故か落下している。
「ドスン!」
「いてて」
落下しているかと思っていると、突然、地面に叩きつけられた。
腰を擦りながら、おもむろに立ち上がり周りを見ると、どうやら魔方陣の中にいる様だ。
魔法陣の外の、ほのかに明るい草原の中に、人がいるのが見える。
それは、白いヒラヒラしたネグリジェを着ていて、肩にはショールを羽織り。
前髪を切り揃えた、背中までの長さの黒々とした黒髪で。
顔が小さい、クリクリした大きな瞳の美人である。
それは、あの写真で見た女の子であった。
「え、千早ちゃん?」
思わず、そう言ってしまった。
「え、どうして、私の名前を?」
まるで、アニメ声優の様な甘い声で、そう言う、千早ちゃん。
「吉塚千早ちゃんでしょ、僕は君に合う為に、精霊にお願いしたんだよ」
「じゃあ、あなたが私の理想の男の子……」
僕がそう言うと、千早ちゃんは、そんな事を言う。
「いや……、僕は君に合う為に来たけど、君の理想の男じゃないよ。
ごめんね……」
「違うわ、あの精霊さんもそう言ってたし。
それにあなたを見て一目で分かったの、あなたが私の理想の男の子だと」
僕がそう言って謝ると、僕を気遣ってくれている。
本当に優しい娘だなあ。
「あ、そうだ、あなたのお名前は?」
「ごめん、ごめん、僕の名前は、渡瀬 尚って言うんだ」
「なおくんか、良い名前だね」
「そんな事言ったら、千早ちゃ……。
ごめん、会ったばかりで、イキナリ馴れ馴れしく名前で呼んで。
しかも 、 “ちゃん” 付けで……」
「うんん、良いよ、千早って呼んでよ、なおくん……」
「それじゃあ、千早ちゃん……」
「はい、はい、よか雰囲気になっと〜とこ悪かとやけど。
ちょっと言わんといかん事があっとばい」
二人でそんな事を話していると、急に精霊が割って入って来た。
「何だよ、急に」
「うんにゃね〜、大事か事があるとたい」
「何なんですか?」
僕が不機嫌に言うと、精霊がそんな事を言い。
それに千早ちゃんが問いかけた。
「まずはね、尚、アンタがここに居らるるとは(居られるのは)、明日から三日間だけで。
三日目目ん夜にまた、こん儀式ばせんと、元の世界に帰れんごつなっとよ」
「じゃあ、帰らなかったら、どうなるの?」
「アンタは死ぬまで、この世界ば彷徨わないとイカンごつなるとたい」
「そ、そんな」
「だけんが、二日後にまた、ここでぜっったいに儀式ばせんとイカんけん。
こっだけは言うとくよ」
と、念を押して警告する、精霊。
「それじゃ、私は帰るけん、また二日後に・・・。
あっそれと、もう一言ゆーとく(言っておく)けど。
ひ◯子は九州が本場やけん、東京じゃなかけんねー」
――と言って消える精霊、何じゃそりゃ!
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ふざけた事を言った、精霊が去った後を、呆然として見ていると。
何だか、千早ちゃんの様子がおかしい。
急いで近づくと、足取りが覚束ない。
思わず、その不安定な体を支えると、潤んだ瞳で僕を見た。
「ごめんなさい」
と言って謝る、千早ちゃん。
そんな千早ちゃんを見て、僕は思わず彼女の背中と膝に腕を廻し、抱き上げる。
「あっ……」
それは、所謂、お姫様抱っこと言われる物だった。
そんなヒラヒラした服でオンブをしたら、太股が丸見えになってしまうから出来ないし。
この時代の女の子、特に千早ちゃんみたいにお淑やかな娘なら、そんな状況になったら恥ずかしがるだろうから。
お姫様抱っこと言う、単語なんて無い時代の千早ちゃんも、その状況の恥ずかしさに頬を赤くする。
でも、太股が丸見えになったら、もっと恥ずかしい思いをするだろう。
「……重くないの」
と、遠慮がちに、尋ねて来た、千早ちゃんに、
「軽すぎるよ、もう少しご飯を食べた方が良いよ」
僕はそう言いながら、腕に抱いた千早ちゃんを軽く上空に放り上げた。
「きゃっ!」
可愛い声を出して、怖がる、千早ちゃん。
「全然、重く無いし、むしろ、こんなに軽いと不安だよ」
予想以上に軽い体重に、戸惑いながらも同時に、不安に襲われる。
心配そうな僕を見て、千早ちゃんは、
「ありがとう、なおくん」
と言って、僕に微笑み掛けた。
やっぱり、千早ちゃんは優しいなあ。
こんな僕を気遣ってくれているんだ。
千早ちゃんを抱きかかえながら、僕は別荘の方へと向かって歩き出した。
蛇足ながら。
*ひ◯子
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%B2%E3%82%88%E5%AD%90
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%82%88%E5%AD%90
北部九州の人間は東京◯よ子が有る為、九州みやげとして◯よ子はチョイスしなくなりました。
メーカーも、九州限定ひよ◯を発売してますが、どうしても東京ひよ◯の影がチラつくので。
やはり他所への、みやげ物としては選びませんね
<3/15内容の変更>
「アンタの存在自体が、この世から消滅すっとたい」
>「アンタは死ぬまで、この世界ば彷徨わないとイカンごつなるとたい」