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第四話 儀式



 いても立っても居られなくなった僕は。

ネットで、この魔方陣や呪文について、更に調べ出した。


 夜を徹して調べた結果、ほぼ、これらについての詳しい事が分かった。


 僕が、何をしようとしているかと言うと。

この魔法を使って、千早ちゃんと接触しようとしているのだ。


 普段なら、 “魔法? フン、馬鹿馬鹿しい” と鼻にも掛けないだろうけど。

でも、今はそれにすがり付きたい気分になっている。


 調べた結果、満月の夜に儀式をやれば良いらしいが。

幸い、今日が満月で天気も晴れである事が分かった。


 場所は、あの別荘跡付近が広いし、

日曜の夜なら、人目には絶対に付かないはずだ。


 ただ、あの儀式には問題があって。

それは術者の寿命を引き換えに、願いを叶えると言う物らしい。


 正直言って、躊躇ちゅうちょする部分もあるが。

どうせ、何の目的も無く生きている自分には、長生きする意味も無いし。

それに、千早ちゃんの日記を見て、何とかしてあげたいと言う衝動の方が強かった。


 そうと腹をくくると、安心したのか急に睡魔が襲って来た。


 とりあえず、儀式に備え仮眠を取る事にする。





 **********





挿絵(By みてみん)


 <その日の深夜>




 あれから仮眠を取り、昼過ぎに起きると。

儀式に必要な道具を、自転車で十数分かけ、駅前のショッピングモールで調達した後。

再び仮眠を取り、今からの儀式に備えた。


 その後、夜になると自転車を漕いで、また、この丘へとやって来た。


 そして適当な場所を探すと、近くにある人目に付かない草原を見つける。


 確かに、見晴らしが良くて、ロケーションとしては最高だ。


 上空を見れば、満月が中天に上って居て。

月明かりが強い所為せいか、特に明かりが無くても周囲が見えた。


 空に浮かぶ月を見た僕は、 五方星を中心にした外周に。

様々な文字が描かれた円形の魔方陣を、地面に石灰を落としながら書く。


 魔方陣を描き終えると、手をはたいて、手に付いた石灰を落とす。


 それから、一旦、魔方陣から後方に下がって、足元にある紙切れを拾い上げてから広げ。

懐中電灯を照らしながら、目の前の魔方陣と紙切れを見比べて、間違いが無いかを確認する。


 間違いが無い事を確認すると、僕は一回深呼吸をして心を落ち着かせてから、呪文を詠唱し始めた。




「四大元素とそれに関わる天使達よ……」




 メモを見ながら、古い言い廻しの呪文を必死で唱える。


 しばらく呪文を唱えていると、周囲の雰囲気が明らかに変化した。

 

 しかしそれは、決して悪い物では無く、むしろ周囲を穏やかにするのである。


 なおも僕が呪文を唱え続けていると、突然、魔方陣の中央から強烈な光が放たれた。


 しばらくの間、その光で目が(くら)み、前が見えなかったが、目が慣れて行くに従い、段々を見えて来るようになった。




「うん? 何だあれは?」




 見ると、目の前に、巨大な黄色い物体が浮かんでいた。


 それは、赤い(くちばし)に、小さな翼、鳥のような脚。


 何と、それは巨大なヒヨコだったのだ。




「ん、誰ね、私()呼んだとは(のは)




 何か、言葉もおかしい。




「お、オマエは誰だ!」




 思わず、そう言うと、




「何ば言よっとね(言ってるの)、私ば呼び出したとは、アンタやろうが(でしょうが)!」


「だ、だから誰なんだよ」


ほんなこつ(本当に)、失礼な奴やね。

私は、時の精霊メジーたい、まさか、知らんと呼び出したとね()?」



 

 ――だからなんで、精霊が九州弁をしゃべってるんだよ!




「で、アンタ誰ね、人に言う前に、自分の方から言わんといかんばい(ダメでしょ)


「そうだった、こめん、僕は、渡瀬わたぜなおって言うんだ」


「尚ね、で、何で私ば呼んだとね?」


「実は、吉塚よしづか千早ちはやて言う、女の子に出来れば会いたいんだ」


「ああ、そん(その)娘ね、そん娘なら知っとーよ(知っているよ)



 

 そんな事を言う、精霊メジー。




「どうして知ってるの?」


「その娘も、アンタと同じで私ば呼び出したとよ」




 そうだった、千早ちゃんも、この魔術を使ったと言う事は。

当然、この精霊を呼び出した事になる。




「でも、望みは叶えられんかった」


何故なぜだよ!」


「その望みが、“理想の男の子に合いたい”とか言う、漠然ばくぜんとしたもんやけん(ものだから)、叶えようがなかったと。


 具体的に、誰に会いたかか(たいか)言うて貰わん(言って貰わない)と、叶えたくても叶えられんたい」




 まあ、それはそうか、具体的な目標が無いと叶えようが無いか。


 じゃあ、千早ちゃんの命は……。




「でも、願いを叶えられないのに、寿命を取られたのかよ!」


「ん、何の事ね」


「とぼけるな! 寿命と引換に、願いを叶えるんだろ!」


「失礼な! 私はそぎゃんか(そんな)悪魔んごたる(みたいな)事はせんよ。

私ば召喚する時に、生命エネルギーば、命に関わらん程度()使うだけたい」


「え、そうなのか?」


「せやけど、あん(あの)娘、虚弱体質で元々から、生命エネルギーが弱か(弱い)上に。

あん儀式()やったけんがら(から)……」


「……じゃあ、どうにかする事は……」


「駄目たい。

一回、儀式をしたとなら、どぎゃん(どう)するこつも出来んとばい」




 ……そ、そんな……。




「ところで尚、アンタは、千早にうて、何ばしたかとか(何をしたいのか)

まず、それば聞かん(それを聞かない)と」 


 

 それは、あの日記を見てから、決まっている。





 ――短い命なら、せめてこの願いを叶えて。


 ――私の残り少ない命を掛けて、この望みを叶えて下さい。


 ――何もかも、どうでも良い、もう生きてても先が無い。




 この優しいの心を、少しでも軽くしてあげたい。




「僕は、千早ちゃんに会って、生きていて良かったと思ってもらいたい」


「うん、分かった、千早に会わせてやるたい」


「えっ?」


「一回、儀式ばやったけん、死んでしまうさだめは変えられんとばってん(ないけど)

それ以外の、運命は変えられるけん」


「本当、なのか……」


「大きな歴史の流れとか寿命とかは、一度決まると変えられんとばってんが(ないんだけど)

個人の運命程度なら、ある程度は変えられるとよ(から)

人の思いと、思いやり次第では」


「本当か、でも僕は、千早ちゃんの”理想の男”じゃないかもしれないのに、良いのかな?」


「大丈夫たい、そん心根があれば、問題なか」


「?」


「四の五の言わんと、男ならドーンと行かんね(行きなさい)

それじゃあ、今から、千早に会わせてやるけん(やるから)はよう魔法陣に入らんね(入りなさい)




 僕は、その時フッと、あの夜に見た光の事を思い出した。




「ちょっと、待ってくれ」


「何ね、まだ何かあるとね?」




 僕はあの夜に見た、謎の光の事を事細かく、精霊に話す。




「どうやら、それはあんが掛けた、おまじないの効力んごたる(みたい)ね」




 それを聞いて、僕は日記に描かれていた魔法陣の事を思い出す。




「そうなのか?」


「とは言え、そん(その)力は物理的に力を、大して及ぼす程も無く。

また、屋根裏部屋さん()隠された位で、封印状態になる程度たい。


 それが、屋敷が壊されて、封印が解けたけん。

どぎゃんか方法でも、自分の使命を果たそうしたごたる(みたい)ね」


「へ~、なるほど」


「たまたま見つけたアンタが、条件に合うけん(から)、導いたってトコかね」


「条件に合うとかは、納得しないけど、大体理解した」


「分かったね、ほんじゃあ、千早んところに行こうかね」




 精霊がそう言うと、突然、目の前にまた強烈な光が放たれた。


精霊が使う方言は、熊本系の方言ですが。

熊本弁そのものではなく、福岡の筑後地方の方言(博多弁では無く筑後弁)と混じった。

県境付近の方言です。


<3/16追記>

日記が光ってた理由が書かれて無く、唐突な印象を受けるので。

その理由と、それに伴いエピローグと第三話に、話を追加しました。


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お姉さん先輩に可愛がられる、後輩男子のイチャイチャした物語です。
図書室の天然天使
男として生きるのに疲れた少年が、女の子に肉体転移して。
その可愛い弟を可愛がる物語。

優しいお姉ちゃんと可愛い弟
姉弟物の短編が多いので、どうか、お越し下さい。

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