第三十八話 残り少ない時間を過ごす
<別荘の千早の部屋>
「……千早ちゃん」
「……なおくん」
僕は海から帰ると、千早ちゃんの部屋で一緒に過ごした。
あれからバスの時間になったので、名残惜しいけどバスに乗って。
それから列車に乗り換え、一旦、街で降りて夕食を取った。
今日は最初から、外食で済ませるつもりであったので。
街で食べる為に、降りたのである。
食べたのは、昨日昼食を取ったあの喫茶店であった。
街に出る事が少ない千早ちゃんが知っている、馴染みの店でもあるからだ。
ちなみにそこで食べたのは、二人共ハンバーグセットであった。
・・・
「なおくん、あ〜ん」
「あ〜ん」
「どお?」
「うん、美味しいよ」
「じゃあ、今度は千早ちゃんだよ」
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
・・・
二人共、同じ物を食べているのにも関わらず。
なぜか、お互いに、自分の物を食べさせている状況になってしまい。
周囲の席に胸焼けを起こさせていた様だが、自分たちの事に集中していたので。
全く気になって居なかった。
帰りの車中は、バスでも列車でもそうだったけど。
始終二人はくっ付いて居て、離れる事は無かった。
ーーもうすぐ、自分の時代に帰らないとイケナイ。
そう思うと、互いの感触が惜しくなって離れ難かったのだ。
それは、列車を降りてからも変わらず。
別荘へと向かう途中でも、僕は千早ちゃんの肩を抱いて自分の方へと引き寄せ。
彼女も、僕の体に身を寄せていた。
別荘に着くと、その状態のまま、彼女の部屋へと向かい。
そこで、二人で過ごしていたのである。
今は、仰向けに寝ている僕の胸に、千早ちゃんが頭を乗せているけど。
その前は、逆に彼女が僕の頭を胸に抱き締めていた。
見掛けよりも大きくて豊かな、彼女の胸に顔を埋め。
柔らかい感触と温かさ、そして甘い匂いを堪能していた。
(なで……、なで……)
「んん……っ」
(すりすり)
仰向けなった僕の胸に頭を乗せている、彼女の頭を撫でる。
滑らかで指通りが良い、彼女の髪の感触が気持ち良いが。
撫でられている彼女も気持ち良いのか、微かな声を出しながら僕の胸に頬ずりをする。
「なおくん、気持ち良い……」
(すりすり)
僕に頭を撫でられながら、蕩けそうな声を出す千早ちゃん。
こうやって、時間が来るまで彼女と一緒に過ごしてのだった。
**************
「……なおくん」
「ん……」
二人で密着している流れで、再び私は横になった状態で、なおくんを胸に抱き締めた。
女性からの温かさに飢えていた彼は、思う存分、私に甘える。
夕食の時を除いて、二人はひたすらくっ付いて、互いの感触を確かめて居たのだが。
ただ、バスで帰る時は、しばらくは色々と会話をしていたなあ。
・・・
「夏だったら、二人で海で泳いでいたんだけどね」
「仕方ないよ」
なおくんがそう言って来たので、私はそう返事をする。
「私も、肌を焼いたほうが良いのかな。
そうすれば、健康的に見えるから」
「あ〜、止めて方が良いよ」
「えっ?」
海に来た所為か。
最近は、肌を小麦色に焼くのが流行っていて。
ただでさえ、健康的じゃない私も、肌を焼いたら少しは健康的に見える事を、言ったのだが。
それを聞いた、なおくんが突然否定した。
「肌を紫外線に晒すと、肌が老化するのが早くなるんだよ」
「えっ! そうなの!」
「それだけならまだしも、下手をすると皮膚ガンになるかもしれないし」
「そうなの……」
「うん、この時代から十年も立たない内に、それが常識になるから」
私はそれを聞いて、驚いてしまう。
(※この頃は、まだ紫外線による害が、一般的になる前で。
しかも、色白よりも肌を小麦色に焼くのが、健康的だとして流行っていました)
・・・
バスの中で、そう言った事を言っていたけど。
会話を交わしていたのは途中までで、途中からは、ひたすら相手の感触に集中した。
「千早ちゃん」
(コツン)
そんな事を思い出していたら。
いつの間にか、なおくんが私の顔に顔を近付け、オデコをくっ付ける。
なおくんの顔が私の間近にあって、優しい瞳で私を見詰め。
そんな彼の顔を見詰め返した。
そのまま、お互い見詰めた状態で、言葉は何も無く。
いや、言葉は出す必要も無かった。
・
・
・
「なおくん、苦しくない?」
「ううん、別に」
次に、私な片手を後ろに着いて上体を起こしている。彼の足の間に体を入れた状態で抱かれている。
つまり、お宮で足が痺れた時にされた体勢であるが。
その状態で、もう片手で抱き締められ、彼が顔を私の肩に乗せている。
要するに、あの時よりも更に密着度が高くなっている。
何だか苦しそうな体勢に、私が尋ねるが。
なおくんは、何でも無いように言う。
(ピトッ)
隣にある、なおくんの頬に自分の頬を付けてみる。
(ギュッ)
それを感じたのだろうか、私を抱く力が僅かに強まった。
・
・
・
「とん……、とん……」
「……」
なおくんの広い背中を、軽く叩いていく。
それを受けている彼が無言でいるけど、表情からは満更でも無いようだ。
今度は、ペッタンコ座りをしている私の膝に、なおくんが頭を乗せている。
「なで……、なで……」
「すりすりすり〜」
「ビクッ」
背中を叩く動きから、頭を撫でる動きへと変える。
男の子の割に滑らかな髪を撫でていると、イキナリ彼が私の太ももに頬ずりして。
その頬ずりの感触に、思わず体を震わせた。
「なで……、なで……」
「……」
頬ずりの感触を耐え、再び頭を撫でたら。
今度はジッとして、私の成すがままになっていた。
このように私たちは、お互いに甘えたり可愛がったりしながら。
その時が来るのを、待ったのであった。
<参考>
・美白の歴史
https://www.po-holdings.co.jp/csr/culture/bunken/facial3/24.html




