第三十六話 遊園地で遊ぶ(後)
「(は〜、結果オーライなのかなぁ……)」
昼食後、どこか人気の無い所で休もうとしたら、どこにも無く。
仕方なく木陰で休もうとしたら、千早ちゃんが服が汚れるのを気にしていたので。
僕の膝の上に乗せようと考えた。
そう思い、彼女を抱きかかえ、そのまま座ろうとした。
しかし、後ろの木に寄り掛かろうとしたら目測を誤り、ほとんど寝そべったのに近い状態になってしまった……。
「なおくん♡」
仕方が無いので、その状態のまま、千早ちゃんを愛でていたら。
それが上手くハマったのか、彼女が上機嫌になっている。
彼女を愛でている内に、眠り込んでしまったので。
僕もその状態のまま休んでいたら、僕も眠り込んでしまったらしく。
気が付くと僕は、逆に千早ちゃんから膝枕をされていたのだ。
ーーあ、なおくん、起きた?
眠りから覚めた僕を、彼女が優しげな視線で僕を見詰めている。
目覚めと同時に、何だか気持ち良い感触がするなと思ったら。
彼女が、僕の頭を撫でていた。
(なで〜……、なで〜……)
僕を撫でる手は、まるで僕を慈しむ様に撫でていた。
それから僕は起き上がり、遊園地巡りを再会させたが。
僕の肘に腕を絡ませながら、千早ちゃんがずっと僕を見詰めている。
(チラッ)
(にこっ)
時々、僕の隣の彼女を見る。
すると眩しい位の微笑みを見せてくれた。
休む前までも、確かに機嫌は良かったが、ここまででも無いので。
恐らく、あの時の事が原因だろう。
ーーまあ、とにかく悪い事では無いので、このままで行こう。
結果オーライな状況に、取り敢えず、このままで行く事にしたのであった。
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(ガタン!)
「キャッ!」
(ぎゅっ)
派手な機械音と共に、暗闇から、洋風のオバケの人形が飛び出し。
それを見た千早ちゃんが、ビックリして僕にしがみ付く。
千早ちゃんが僕に抱き付くと、彼女の中でも取り立てて柔らかく。
盛り上がった部分が、僕に押し付けられる形になった。
・・・
今、僕たちは、トリックハウスに入っている所である。
まあ要するに、年中楽しめる、お化け屋敷と言った所だろう。
またまた、歩いている最中に、彼女に強請られたのである。
しかし、中の仕掛けは。
僕の時代と比べると、ホントに子供騙しにしかならない。
仕掛けも雑で、飛び出した人形も手を抜きまくりだ。
(バン!)
「キャッ」
今度は、天井から人形が落ちてきて。
千早ちゃんが、再び叫ぶ。
最も、こう言った所は、どちらかと言えばカップルがイチャつく定番であって。
実際に怖いかどうかは、余り関係ない。
ただ、相手に抱き付く口実になれば良いのだから。
それは、僕の時代でも変わらない。
だが、当の千早ちゃんを見れば、何だか本気で怖かっている。
純粋な彼女だから、本当に怖いのだろう。
彼女だけで無く、この頃の女の子は。
僕の時代とは違い、全般的に純粋なんだろう。
それは見ているマンガや、実際に街で見掛けた女の子たちを見れば分かる。
僕の時代だと、出てきた途端、相手を殴るだろう。
いや、お化け屋敷で、出てきたゾンビの扮装をしていた多分アルバイトに。
蹴りを入れていた女子の集団を、実際に見た事がある。
僕の時代の女子は、狙った男が居ない時、特に集団になると本性が丸出しになる。
それは本当に、嫌と言うほど見てきた。
「……なおくん」
(ドキッ!)
そんな事を思っていたら、千早ちゃんが上目遣いで、僕を見上げていた。
その縋り付くような瞳を見て、僕の心臓は跳ね上がる。
「大丈夫だよ」
(だきっ)
「う、うん」
不安そうにしていた彼女を安心させたくて、僕は組んでいた腕を一旦外し。
今度は、彼女の肩を抱いて、自分の方へと引き寄せた。
初めの方は、突然の僕の行為に緊張していたものの。
次第に力が抜け、頭を僕の胸に寄せてきた。
こうして、再び先へと進み出したが。
僕とより密着した為か、さきほど程、怖がる素振りを見せなくなったのであった。
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「はぁ……」
「はははっ、疲れた?」
「うん……」
叫び疲れた私は、座席に座ったまま溜息を吐き。
それを見たなおくんが、チョット困ったような笑みを見せる。
面白そうだと言う軽い気持ちで、トリックハウスに入ったら。
怖くて怖くて、堪らなくなった。
余りにも怖かったから、思わず彼にしがみ付いてしまい。
そんな私を見たなおくんが、私の肩を抱いて自分の方に寄せてくれた。
それで大分楽になったんだけど、しかし、それでも何かが出る度に叫んでしまっていて。
そうやって叫んでいる内に、私は何だか疲れてしまった。
結局、私は。
体調が良いとは言えないのに、疲れてしまう事をしてしまったのである……。
「体は辛くない?」
「う〜ん、疲れやすくなっているけど。
昨日みたいな無理はしてないから、大丈夫だと思う」
「そう?
何だか、急激に体力が落ちているみたいだから、余り無理はしないようにしないとね」
「うん」
これから契約に従えば、徐々に生命力が無くなっていくのだろうけど。
急激に体調を壊して、なおくんに心配を掛けない様にしなければならない。
私は少なくとも、彼が居る間は心配を掛けないようしようと、思ったのであった。
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「へえ、結構遠くまで見えるんだね」
「あっ、なおくん。あれが街だよね」
「ああ、建物が固まっている所だよね」
現在ふたりは、観覧車に乗っている所である。
「こんなのが有ったなんて、知らなかったよ」
「なおくんの時代には、無くなっているだっけ?」
「うん、潰れてしまって、遊園地としては無くなっているね」
二人は、狭い観覧車の中で、膝を突き合わせている形で座っている。
「上から見ると、余計に空がキレイだね〜」
「そうだね……」
高い所から見ると、景色がよりキレイに見え。
その景色を見ながら、色んな事を話している。
「ウチは、アッチの方かな?」
「そうだね……」
しかし、私が話をしているけど、なおくんが何故か上の空で返事をしている。
かと言って、私の話を聞いていない訳でもなく。
私の顔を、熱い瞳で見詰めていた。
「……千早ちゃん」
(そっ)
(ギュッ)
そんな微妙な雰囲気にから、イキナリ、くっ付きそうな距離から。
おもむろに彼の手が伸び、私の手を握ってきた。
そうすると、二人はお互いに、顔を見合わせる距離まで近付き。
すると、なおくんが顔を更に近付けてきた。
何となく、彼の意図を理解した私が。
その場で目を閉じ、なおくんを待っていたら。
(チュッ♡)
時間を置かず、唇が触れた。
思ったより、柔らかい感触を感じながら、しばらく立つと。
ユックリと彼が離れた。
離れた所で、目を開いたら。
赤い顔で、嬉しい様な恥ずかしい様な彼の顔が見えた。
「なおくん、ありがとう……」
(ポロッ)
「ああっ、千早ちゃん〜」
「ごめんなさい、私、嬉しいの……」
彼とキスをしたと、認識した途端。
私は感激の余り、思わず涙が零し。
私の涙を見た、なおくんが慌てだした。
「千早ちゃん、泣かないで〜」
「ごめんね、ごめんね」
涙が止まれない私を、必死で慰めようとする彼と。
何とか涙を止めようとして、止まらない私。
そんな光景が、下に着くまで続いたのである。
・・・
こうして、私は。
念願のファーストキスをなおくんと、観覧車の中でしたのであった。




