第三十五話 遊園地で遊ぶ(中)
「ねえ、なおくん」
「どうしたの?」
「今度、あれに乗ってみたい」
(え゛っ!)
更に園内を歩いていると、急に彼女が指を差し。
それを見た僕が、内心焦ってしまう。
千早ちゃんが指差したのは、ジェットコースターである。
ん〜、僕は余り好きじゃないんだよね〜。
べ、別に、苦手な訳じゃなくて、ホントに余り好きじゃないだけだよ。
「ねえ、行こうよ♪」
「チョット、落ち着いて〜」
千早ちゃんが甘えるような声を出しつつ、再び僕を引っ張り。
僕は、内心の焦りを見せないようにしながら、必死で彼女を落ち着かせた。
・・・
「この宙返りコースター、最近、出来たんだって〜」
「そ、そお……」
彼女がウキウキした様子で、そう解説するが。
僕は、何とか平常心を保とうとした。
しかし、もう、この頃からループが有ったなんて……。
僕は、回ったり捻ったりしなければ、何とかなるけど。
ループとかコークスクリューが入ると、ダメなんだよね。
(この頃あたりから。
ジェットコースターに、ループやコークスクリューなどが、入る様になったみたいです)
嬉しそうな千早ちゃんと、内心を何とか悟られない様にしている僕と。
相反する感情のまま、ジェットコースターを待つ列に、二人は並んだのである。
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「きゃあぁぁ〜〜♡」
「うわぁぁ〜〜〜」
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・
「やぁぁぁっ〜〜♡」
「うぅぅぅぅ〜〜〜」
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・
・
・・・
「あ〜、楽しかった♪」
「……はははっ、それは良かったね」
ジェットコースターから降りた千早ちゃんは、悲鳴を上げていた割には、何だか楽しそうにしていて。
対する僕は、乗っている間中、絶えず冷や汗を掻いてしまっていた。
たぶん今の僕は、顔が真っ青になっているだろう。
「あれ?
なおくん、何だか顔色が悪くない?」
「え゛!
ああっ、多分、気の所為じゃない?」
「ん〜? だったら良いけど……」
突然、僕の様子がオカシイのに気付いた彼女が。
僕の様子を尋ねてきた。
急に言われた僕が、慌てて否定する。
決して体調が良いとは言い難い、彼女が元気で。
健康な僕が、顔色を悪くしているとは、何とも情けない。
そんな情けない顔を、何とか見せない様にしながら。
僕たちは、次のアトラクションへと向かった。
************
「今日は良い天気だね〜」
「うん、恰好の行楽日和だよね」
木陰に座り、向こうの空を見ていた彼が、そんな事を言い。
同じく空を見ていた私が、そう返した。
・・・
午前中、色々とアトラクションを回った後。
少し早めだが、園内のレストランで昼食を取る事にした。
今日は、アトラクションも並んで待っていたので。
早めに取った方が良い、という判断である。
「あ〜、千早ちゃん遅かったね」
「うん」
とは言っても、やはり同じ様な事を考える人は多く。
結局30分程、待たされたけど。
ようやく席に着いて、私はナポリタン。
なおくんはカレーライスと、昨日と同じメニューになってしまった。
私は混んでいたので、自然と早く出来るメニューを、頼んでしまったんだけど。
彼曰く、ナポリタンが普及したのは、手早く出来るのも一因だからだそうである。
そして、なおくんは、例のように当たり外れの少ない、カレーライスを頼んでいたが。
当たり外れが少ないのもそうだけど、やはり出来合いの物を使うので、時間が掛からないのもあった。
出てきたナポリタンは、味が微妙だったが、縁日の屋台を例に出して。
こう言う所で出てくる物は、雰囲気も味の一部だからと、彼が言っていた。
確かに、そう思うと日常じゃない雰囲気で、食べる食べ物は。
何だか何割増しか、美味しく感じられる様に思われる。
・・・
時間が立つにつれ、次第に増えて行く人の数に。
私たちは昼食を食べ終えると、手早くレストランを出た。
最も、人の熱気で汗が出るほど暑くなったので。
堪らなくなったのだけど。
(当時は、今ほど冷房が、どこにでも有る訳では無かったみたいですし。
有っても、本格的に暑くならないと、冷房を入れない事も多かった様です)
こうしてレストランを出ると、人の少ない木陰を探して。
二人で、そこへ食休みをしていたのである。
「……ねえ、なおくん、苦しくない?」
「ううん、大丈夫だよ」
で、今の状況は。
私が、木に寄り掛かった、なおくんの足の上に横向きで座り。
そんな彼に、体を預けていた状態であった。
彼とユックリする為、人気の無い所を探していたら、ベンチが全く無く、芝生だけど直に地面に座るしかなかったが。
服が汚れるのを気にしていた私を見て彼が、イキナリ私を抱えて、そのまま座ったのである。
――これで服は汚れないね。
ニッコリ微笑みながら、私にそう言ってくれた、なおくん。
その心遣いがとても嬉しい。
「(しかし……)」
この状況は、良く考えると恥ずかしい。
なぜなら私は、木に寄り掛かった彼に体を預けていると言うよりも。
なおくんの体が大きく傾いている所為で、横になっている彼の上に、乗っかっている状態になっていた。
つまり端から見ると、寝そべっている彼の上に彼女が覆い被さっている、イチャついたカップルである。
ただ、人気が無い所を選んだのが幸いして。
丁度、木や生け垣の影になってはいた。
だから、一緒に空を見ていたと言っても。
ほとんど、上空を見ていた訳なんだけど。
(なで……、なで……)
初めは恥ずかしかった、この体勢も。
なおくんが、私を軽く抱き締めながら、頭を撫でられている内に、次第に落ち着いて来て。
今ではこの体勢のまま、マッタリと過ごしていたのである。
(トン……、トン……)
「はぁ〜っ……」
(すり、すり〜)
そうやって頭を撫でる動作に加え、今度は背中を優しく叩く動きが加わると。
私は、思わずため息を漏らしつつ、彼の胸板に頬ずりをしてしまう。
一見すると硬そうに思える彼の体だが、以外とスプリングが利いたマットレスの様で。
乗っていても気持ち良い。
だから自然と、なおくんの胸板に顔を押し付けたりして、弾力を確かめていた。
また体から漂う、お日様の様な、なおくんの匂いも心地良い。
その感触をもっと味わいたくて、更に頬ずりと、顔を押して付けている内に。
食後であるのに加え、涼しい木陰、それになおくんの感触。
そんな心地良い感覚を味わっていたら、いつの間にか、私は眠りに付いてしまったのであった。
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<参考>
・ジェットコースター
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC#%E6%AD%B4%E5%8F%B2




