第三十四話 遊園地で遊ぶ(前)
※作品で使っている遊園地の写真は、実際の遊園地の写真ですが。
作中の遊園地は架空の遊園地で、写真の遊園地とは全く関係は有りません。
「うわぁ〜!」
目の前の風景を見て、千早ちゃんが歓声を上げた。
・・・
あれから街の駅で乗り換えて、目的の駅でバスに乗って遊園地へとやって来た。
遊園地のゲート前には、既に多くの人が並んでおり。
僕たちも、その列の後ろへと続いた。
そうやって並んでいたら、時間になった所でゲートが開き。
人の列が、続々と園内へと雪崩込んだ。
「やっぱり、凄いねぇ〜」
こうして、ゲートから園内に入ると。
彼女は、目の前の光景に目を奪われる。
園内のアトラクションは、当然、僕の時代と比べると、少々迫力に欠けるけど。
それでも、この時代では充実している方だったそうだが。
如何せん、周辺人口の点で、都会の施設より不利だったそうだ。
とは言え、まだ遊園地が全国的に少ない時代では。
それでも、何とか成っていた様だが。
しかし、バブルに入って強力なライバルが乱立すると、他の施設に客を取られ。
更に、バブル崩壊後の不況で本格的に人が来なくなってからは、それが原因で潰れてしまった。
その後は、どう言う経緯かは知らないが、市役所の手に渡り。
前にも言った通り、緑が多いのを利用して緑地公園にしたのである。
「ねえ、なおくん、早く行こう〜♪」
「ああっ、チョット〜。
千早ちゃん、引っ張らないで〜」
僕から見ると、イマイチなアトラクションだけど。
それでも、園内の光景を見て興奮していた千早ちゃんは。
僕の組んだ腕を引っ張って、早速、目の前の物に乗ろうとしていた。
「もぉ〜、早く早く〜」
「そんなに急いでも、逃げないから〜」
一体、この細い体から、どれだけの力が出ているのかと。
思えるほどの力で、僕を引っ張っていたのであった。
・・・
(グルグルグル〜)
「キャ〜ッ♡」
「ちょっ、ちょっと、そんなに回して大丈夫〜?」
「大丈夫、大丈夫〜」
千早ちゃんが僕を引っ張って、まず乗ったのはコーヒーカップである。
彼女が、気持ち良さそうな悲鳴が上げながら、ハンドルを回しているが。
僕は昨日の事も有り、少しハシャギ過ぎな彼女を心配したけども。
そんな心配を余所に、ハンドルを回す手を全く緩めない。
(グルグルグル〜)
「キャ〜ッ♡」
僕の言葉が耳に入らないまま、千早ちゃんがコーヒーカップを回し続けたのであった。
・・・
「う〜っ、目が回る〜」
(キュウ〜)
「千早ちゃん大丈夫?」
やはりと言うか。
調子に乗ってコーヒーカップを回し過ぎた彼女が、目を回してしまう。
「気分は悪くない?」
「う〜ん、目は回るけど。
そこまで悪くは無いよ〜」
どうやら、目を回して一時的に気分が悪くなっただけの様で。
本格的に体調を崩した訳では無いので、安心した。
「まだ、まだ、時間は有るから、ノンビリ行こう」
「ごめんなさい……」
コーヒーカップから、少し離れた所に有る白いベンチに項垂れて座っている彼女に、そう言うと。
千早ちゃんが、済まなそうに謝った。
*************
「(う〜っ、気分が悪い〜)」
余りにもハシャギ過ぎた私は、つい調子に乗って目を回してしまった。
気分は悪いけど、目を回して頭がクラクラしているだけで。
あの胸の奥から襲ってくる、気分の悪さとは違うので。
しばらく休むと、収まるだろう。
「(なおくんに悪い事したなぁ……)」
私の側で、なおくんが心配そうにしている。
私が調子に乗った所為で、彼に心配を掛けてしまった。
昨日の事を考えたら、もう少し自重しなければならなかったのに……。
「まだ、まだ、時間は有るから、ノンビリ行こう」
「ごめんなさい……」
しかし、そんな私の心中を察してか。
なおくんが、優しくそう言い。
それを聞いた私が、自然と謝った。
(ポン……、ポン……)
ベンチに座って項垂れていた私の背中を、なおくんが優しく叩いた。
背中を叩く、その感触が。
優しく心に響く。
「(なおくん、ありがとう)」
心に沁みる、その優しさに、私は心の中で感謝したのであった。
・・・
(ピタッ)
「あれ、どうしたの? 千早ちゃん」
しばらく休憩した後、気分の戻ったので。
再び、園内を周り始める。
流石に、さっきはハシャギ過ぎたと反省して。
今度は、落ち着いて周っていた。
そうやって、なおくんと一緒に歩いていたら。
ある物が目に入り、ふと足を止めた。
「ああっ、メリーゴーラウンドだね」
そう、メリーゴーラウンドが有ったので。
思わず、足を止めたのである。
「ひょっとして、乗りたいの?」
「ううん」
私の様子を見た、なおくんがそう尋ねてくるが。
流石に、良い歳なので、乗ろうとは思わなかった。
「チョット、昔の事を思い出したから」
「昔の事?」
「うん、小さい時、両親と一緒に、ここに来て。
お父さんに、メリーゴーラウンドに乗っけてもらった事を、思い出したの」
メリーゴーラウンドが目に入った途端、脳裏に昔の記憶が流れる。
幼い頃は、ナカナカ病院から出られなかったが。
タマタマ、体調が良かった時を見計らって、遊園地に来た事があった。
両親に連れられ、今日みたいに私がハシャグなか。
苦笑しつつも、そんな私を、二人で温かい目で見てくれていた
歩いていて、メリーゴーラウンドが目に入ると。
突然、その時の事を思い出してしまったのだ。
多分、お父さんと一緒に乗った。
メリーゴーラウンドが、一番印象に残っていたからであろう。
その頃は、学校へも行くのも稀だったので。
余り、記憶に残る思い出の無い中、数少ない良い思い出であった。
「楽しかった?」
「うん」
「じゃあ、今日も楽しくなれば良いね」
「ううん、違うよ」
「えっ?」
「今日も楽しいんだよ♡」
なおくんは、意表を突かれた様な表情になったのだが。
私は、イタズラっぽい笑みを浮かべて、答えたのだった。




