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第三十話 死んじゃダメッ!


 僕は、シャワーを浴びた後。

決心した事を千早ちゃんに伝える為に、彼女の部屋へと向かう。




(コンコンコン)


「うん?

あ、なおくん入って良いよ〜」




 彼女の部屋のドアをノックすると、少し間が空いたから返事が返った。

どうやら、寝ている所を起こしてしまったみたいだ。




「ごめん、寝てた?」


「ううん、寝れないから、ただ横になって居ただけだよ」




 千早ちゃんの部屋に入った所、彼女はベッドにネグリジェ姿で横たわっており。

悪い事をしたと思った僕が謝るが、彼女は笑顔で許してくれた。




「それで、どうしたの?」


「えっと、その……」


「?」




 彼女が、何の用かと聞いてくるけど。

言いよどんでしまった僕を見て、不思議そうな顔をした。





 ・・・





「千早ちゃん、やっぱり僕、自分の時代に戻らないよ」


「えっ!」


「最後まで、千早ちゃんと一緒に居たい」




 意を決して言った僕の言葉を聞いて、彼女が驚いた表情になった。




「ど、どうして……。

だって戻らなかったら、なおくん死ぬまで、この時代を彷徨さまよわないと行けないんだよ!」


「いや多分、その前に、何処どこかで早々(そうそう)野垂のたれ死にすると思うよ」


「だったらなおの事、自分の時代に戻らないと!」




 続く僕の言葉を聞き、彼女がベッドから身を起こすと、そう叫んだ。




「もう決めたんだよ、この時代にとどまると」


「どうしてなの……」


「最後まで、千早ちゃんの側に居たいから」




 信じられない様子で、僕の話を聞く千早ちゃん。




「最後まで、千早ちゃんの側に居たら。

その時になるまで、千早ちゃんが生きてて良かったと思って貰えるし。

僕も、千早ちゃんとの楽しい思い出を持って、死んでけるから」


「そんなのダメ、なおくん死んじゃダメ!」


(ゆさゆさゆさ)




 僕がそう言うと、彼女が飛び掛かるようにして起きて。

僕の襟元えりもとを掴み、激しく揺すった。




「すぐに死ぬっていっても、私が死んだ後。

なおくんはその間、ずっと苦しむ事になるんだよ」


「大丈夫、千早ちゃんが逝った後、僕もすぐに後を追うから」


「いやっ! そんな事言ったらダメだよ!」




 諦めた様な僕の言葉を聞いて、とうとう彼女がうつむいて、涙を流し出した。





 ・・・





「いいよ、どうせ自分の時代に戻っても、何の為に生きているのかも分からないんだし」


「えっ?」




 少ししてから、僕がそう言うと。

千早ちゃんが、涙に濡れている顔を上げた。




「今日の午前中、僕の母親が、僕の世話さえロクにしなかった挙句あげく、僕の事を置いて男の所に走った事。

そして父親も仕事に夢中になって、僕の事を放置していた事を話したよね。」


「……う、うん」




 僕の話を聞き、うなずく千早ちゃん。




「だから、幼稚園児の頃、家に誰も居なくて、寂しい思いをしていたんだよ。

で、寂しさをまぎらわせる為に、家に有る色んな本を読みふけったんだ。


 そんな有る日、たまたま母親が若い頃読んでいた、少女マンガを見つけて読んだら。

世の中には、こんなに優しくて温かい世界が有るのかと思い。

そして、女の子と関わると、こんなに穏やかな気分になると思って。

それから女の子と、積極的に関わるようになった」


「そうだったの……」




 彼女が、静かに耳を傾け、僕の話を聞き続ける。




「小さな頃は、女の子たちと、お互い仲良くなっていたけど。

小学校に入ってから、だんだん女の子たちが変わって行って。

それに従い、僕との関係が悪くなって行ったんだよね。


小さい頃は、ほら“あの公園での女子高生たち”、あんな風な感じだったんだけど。

大きくなるにれ、中身が駅で見掛けたり千早ちゃんを襲った、“あの不良みたい”に、柄が悪くなって行ったんだ」


「そう言ってたよね……」


「僕は、そんな女子から罵声ばせいを浴びたり、蹴りを入れられた事さえ有るんだよ」


「それも聞いた……」


「僕だけなら、“知らない内に、何かしたんだろうな”と思うけど。

他の、気に入れらない男子にも、同じ事をしていたから。

まず、それは無いとは思う。


 要するに、自分たちにメリットがある男子にしか、眼中に無くなってしまったと言う事だね。


 だから、少なくとも女子の中に、親しいなんて皆無だよ」


「……」




 千早ちゃんは、何と言って良いか分からないといった表情になる。




「でも、なおくんモテそうだと思うけど、こんなにキレイな顔だし、優しいし」


「ううん、僕なんて、向こうでは普通にドコにでも居る、平均的な存在だから全然モテなかったよ。

むしろ向こうでモテるのは、“粗暴な二枚目”だよ。


 この時代で例えるなら、ん〜っ……。

“テレビで出てくる二枚目”の脳みそを、“駅前や千早ちゃんを襲った不良”と入れ替えたみたいな感じかな……」


「それだったら、乱暴に扱われるんじゃ……?」


「向こうからしたら、それが“男らしく見える”みたいだけどね」




 ようやく、彼女の方から質問が出てきたので、僕はウンザリとした感じで答えた。


 僕の時代でモテるのは"俺様イケメン"で、中にはDVでもヤリそうなのナンテ、ゴロゴロ居る。


 だから学校に居た時に、"DVされたと"騒ぐ女子生徒が居て、騒動になった事があるが。

その相手と言うのが、顔は良いが素行そこうが悪いので有名な不良だったので、"そんな事も、分からなかったの?"と呆れた覚えがある。




「中でもショックだったのは。

僕の家の隣に“水樹ちゃん”って言うが住んでいて、幼稚園の頃はとても仲が良く、いつも一緒に遊んでたんだけど。

そのも、小学校に入った頃から、僕への態度が段々冷たくなって。

しまいには、別れを突きつけれてしまった……。


 僕はその事が、とてもショックで、とうとう現実の女に幻滅してしまい。

コンピュータが作った歌手やアイドル、コンピュータでの疑似恋愛に夢中になったんだ」




 僕は、この時代の人間である、千早ちゃんに出来るだけ分かりやすい様に説明する。




「男子にしても、小中学校の頃までは、そこまで深い関係じゃないけど、何人かは友達が居たのが。

高校に入ってからは、誰も居なくなって。


 その入った高校は、人間関係が苦痛になる様な、まるで教室自体が全体主義的な社会になっていて。

お互いがお互いを相互監視して、それから外れるとみなで攻撃する。

まあ〜、この時代で言えば教室が、ソ連や東欧諸国みたいになっているんだよ。


あ、そうそう、ソ連は21世紀になる前に崩壊してて。

東欧諸国も民主化して、共産政権ではなくなってしまっているね」


「ええっ〜!」




 本筋から脱線した話を聞いて、彼女が盛大に驚いた。

まあ、この当時としたら、考えられない話だろうから。




 ・・・




「学校がそんな感じだから、親しい人間どころか教室に居ても息苦しいし。

だから、僕は学校に登校するのを拒否してしまって。

今は学校自体は辞めてはいないけど、ずっと学校には行ってないんだ」


「それって、なおくんだけ?」


「違うね、僕の時代だと別に珍しい事ではなくて。

大なり小なり、どこの学校でも有る事で。

もう色んな意味で、日本の教育自体が崩壊しようとしているんだろうね」




 僕の話す内容に、彼女の涙が止まった代わりに、理解に追い付かない表情になった。



 (※登校拒否と言う、用語自体はありませんが。

当時、すでに少数ながら起きては居たのですが、ただ、この頃は、まだ一般的では無く。

メディアに取り上げられ、社会問題化するのは80年代に入ってからで。

しかも当初は、本人または家庭に問題があると言う、精神論的な論調でした)




「そんな訳で、僕は仮に自分の時代に戻らなくても、誰も悲しむ人間なんか居ないんだよ。

だから、この時代に残って、最後まで千早ちゃんと一緒に居たいと思った。


例え最後が悲惨でも、少なくとも楽しかった思い出を胸にいだいて死ねるのだから」


「ダメ、そんなのダメだよ!」




 僕が無理やり笑顔を作り、そう話すと。

それを聞いた千早ちゃんが叫んだ。




「私の為に、なおくんが不幸になるなんて許さないし。

不幸になる為に、なおくんが自分の時代に戻らないのは、私は悲しいよ」


「えっ?」


「私の方こそ、やっと理想の男の子と出会えて、素敵な恋愛が出来て。

生きてて良かったと思えたんだよ。


 私の方も、なおくんとの思い出を胸に、残りを生きる事が出来るから。

だからなおくんも、私との思い出を胸に抱いて、向こうで最後まで生きて!」


「千早ちゃん……」


「私、なおくんの事が好きなの!

最初に、なおくんと会った時から好きなの!

だから、お願い、私の為に生きて、死んだらダメ!」




 僕は千早ちゃんの魂の叫びを聞いて、目から熱い物が流れ始め。

それを見られたくなくて、思わず下を向いてしまった。




(スッ)


「(えっ?)」




 すると目の前が暗くなり、頭が柔らかい物に包み込まれた。




(なで……、なで……)




 何が起きたか分からない内に、背中に気持ち良い感触がした。


 どうやら、彼女が僕の背中を撫でているみたいだ。




「ねえ、なおくん。

私は、少なくとも私の所為せいで、なおくんが不幸になるだけは嫌なの。

お願いだから、自分の時代に戻って。


 なおくん、私なおくんが好きなの、なおくんはどうなの?」


「僕も、僕も千早ちゃんの事が好きだよ!

最初に日記を見てから、こんなにキレイで優しい女の子が現実にいるなんて。

とても信じられなかった!」


「だったら、お願い、私の為に自分の時代に戻って」




 背中の滑る、手の感触を感じていると。

僕は何時いつの間にか、千早ちゃんに抱き付いてしまっていた。




「私は、なおくんの事を愛しているよ」


「千早ちゃん、僕も千早ちゃんの事を愛しているよ」




 そうやってお互いに、愛の言葉を交わしていたら

彼女が、僕を抱いている腕に、少し力を込めたので、鼻腔に甘い匂いが広がった。




 ーーああ、これだ。

  僕はずっと、これを求めていたんだ。




 千早ちゃんの胸に顔を埋めていると、まるで春の陽溜ひだまりの様だが。

それよりも、優しくて温かい物に胸にあふれる。


 その温かさに、僕の中にそんな感情が生まれ。

小さい頃から、僕が何を求めていたのかが、ようやく分かる。



 ーー気持ち良いよぉ……。



 やっと求めていた物に包まれながら。

僕の意識は、次第に薄れて行くのであった。



 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・


 ・・


 ・


第五話で。

尚が、この時代に居続けた場合を、


・"消滅"から、"彷徨さまよう"に変更しましたので、


以前から、ご覧になっている方は注意して下さい。


 <参考>

・ソ連崩壊

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%93%E3%82%A8%E3%83%88%E9%80%A3%E9%82%A6#%E5%B4%A9%E5%A3%8A


・東欧民主化

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%AC%A7%E9%9D%A9%E5%91%BD


・監視社会

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%A3%E8%A6%96%E7%A4%BE%E4%BC%9A


・東欧での監視の例

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B8


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お姉さん先輩に可愛がられる、後輩男子のイチャイチャした物語です。
図書室の天然天使
男として生きるのに疲れた少年が、女の子に肉体転移して。
その可愛い弟を可愛がる物語。

優しいお姉ちゃんと可愛い弟
姉弟物の短編が多いので、どうか、お越し下さい。

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