第二十九話 最後まで、一緒に居たい
(シューッ)
「千早ちゃん、着いたよ」
「う、う〜ん……」
列車の中で寝ていた私は、駅に着いた所で、なおくんに起こされる。
(プッシュ〜)
「ねえ、歩ける?」
「う、うん」
寝顔を見られていた事に気付き、一瞬、恥ずかしく思うが。
扉が開き、彼が急いで私を連れ出したので、その事を振り返る暇も無かった。
こうして二人は、扉が閉まる前に急いで列車を降りたのである。
・・・
<別荘に帰宅>
「はぁ〜、やっと着いたね〜。
千早ちゃん」
「ただいま……」
予定よりも時間が掛かったけど、やっと家に帰る事が出来た。
向こうを出たのは、早かったけど。
何回も休憩した為に、予想以上に時間が掛かり。
もう西の空に太陽が沈みそうになっている。
あれから駅に降りた後、一旦、駅舎で休憩してから。
帰りの道を、歩き始めた。
ーーねえ、千早ちゃん、もう大丈夫?
ーーうん、大丈夫だよ
帰る途中、フラフラと多少頼りない足取りだったので。
なおくんが心配して、そう言ったけど、フラフラしていたのは具合が悪いと言うよりも。
彼から列車の中で、抱かれたまま頭を撫でられた所為で、フワフワしてしまていたからだ。
そんな私を、大事に抱えたままユックリと歩く、なおくん。
ユックリと歩いてくれたので、帰り道は休憩する事なく。
歩くに従い、頼りない足取りもシッカリとして来た。
そして、家に着く時には何とか普通どおりに歩けるようになり。
なおくんも抱きかかえるのでは無く、肩を抱く程度になっていた。
「あ、洗濯物を取り込まないと」
「あれ、朝、洗濯してたっけ?」
「そうだよ」
朝、洗濯物を干していたのを思い出したので、そう言うと。
洗濯していたのを気付いてなかったらしく、彼が尋ねた。
洗濯物が少なかったから、掃除をしながら洗っていたので気付かなかったらしい。
「あ、でも無理したらダメだよ」
「うん、洗濯物が少ないから、すぐ済むよ。
……じゃあ、向こうで待っててくれる、私の下着もあるから……」
「わっ、分かったよ〜」
昨日は、つい今までの感覚で。
男の子がいることを忘れたまま、見える所に洗濯物を干してしまい。
後から、その事を気付き、物凄く恥ずかしくなってしまった。
だから、今日は干す場所を変えていたので。
彼が洗濯をしていたを知らなかったのは、その為もあるのだろう。
昨日の事を思い出し、恥ずかしさの余り、顔を下に向けたまま上目遣いで、そう言うと。
なおくんは、慌てた様子で居間へと向かったのである。
****************
「ほらほら、今日は静かに寝ないと」
「なおくん、分かったから……」
千早ちゃんの言う通り、洗濯物の取り込みはスグに済み。
僕は、取り込みが済んだ彼女を、無理やり部屋に連れて行きベッドに寝かせた。
「さ〜てと、今日は僕が作るか〜」
千早ちゃんが素直に、ベッドに入ると。
僕はその足で、台所へと向かった。
・・・
(コンコンコン)
「なおくん、良いよ〜」
台所に向かい、しばらくした後。
僕は再び、千早ちゃんの部屋に来る。
「千早ちゃん、お腹空かない?」
「えっ?」
僕は、お粥を入れた茶碗をお盆に載せて、持っていて。
上半身を起こし、僕の様子を見た彼女が驚く。
「あ、台所、勝手に借りたから」
「なおくんが作ったの?」
「うん、口に合うかどうか分からないけどね。
どお、食べられる? 無理なら後で温め直すから」
「食べるよ、折角なおくんが作ってくれたから。
ありがとう」
もう夕方になったけど、千早ちゃんが具合が悪いので。
僕が代わりに夕食を作っていたのだ。
僕でも出来、また体調が戻らない千早ちゃんの為に、お粥を作る。
そうして、作ったお粥を茶碗に入れて、彼女の部屋へとやって来た。
「どお?」
「うん、美味しいよ♪」
お盆を千早ちゃんの膝の上に置き、スプーンを渡すと彼女が食べ始め。
感想を聞くと、満足そうな表情で返事を返した。
どうやら、僕の味付けはお気に召した様だ。
そうして、余り食欲が無いと判断して、茶碗にそれ程の量は注いでなかったのだが。
取り敢えずは完食してくれたので、一応安心した。
・・・
<夕食後>
(シャーーッ)
「……そうするしか無いな」
シャワーを浴びながら、僕は考え事をしていて。
考え事する時の癖で、つい独り言を言ってしまった。
千早ちゃんがお粥を完食した後、僕も作ったお粥を食べ。
その後、シャワーを浴びている。
千早ちゃんが食べて、再び横になる前に。
“なおくん、お風呂を沸かせないけと、代わりにシャワーを浴びて良いよ。
私は今日は、念の為に今日は止しておくから”
と言ってくれたので、今はシャワーを浴びている。
着替えは、この時代に来た時の下着が、洗って居間に置いてあった。
多分、今日洗濯したのだろう。
シャワーを浴びながら、僕は、ある事を考えていた。
それは、千早ちゃんの為に何が出来るかである。
ーー千早ちゃんの体調が悪くなり始めている。
今日、無理をさせたのも有ったが、それにしては普段では考えられない症状。
それからアノ日記の、儀式の後の記述が頭に浮かび。
彼女の命のカウントダウンが始まった事を、思い知らされた。
ーー彼女の為に何が出来るか?
縁も所縁も無い、この時代で出来ることは余り無いが。
でも一つだけは、確実に出来るだろう。
ーー千早ちゃんが生きている間は、ずっと一緒にいて。
最後まで、生きてて良かったと思って貰える事。
この選択を取ると、僕は自分の時代に戻れず、死ぬまでコノ時代を彷徨い歩くだろう。
あの時代では、父親が放置しても住む事と食べる事が最低出来るが。
この時代では、何も頼る物が無いので、最後は野垂れ死にするかもしれない。
それでも、彼女の側に最後まで居たい。
そして、千早ちゃんが居なくなったら、僕も後を追おう。
どうせ、このままコノ時代に居ても、早々に野垂れ死にするのは目に見える上。
元々、儀式をしてコノ世界に来たのも、もう死んでも構わないと思ったからと言うのもある。
まあ僕の時代で居たままでも、積極的に死ぬ理由が無いだけで、何の為に生きているのか分からなかった状態だから。
何か理由が出来たら、そのまま死ぬかも知れなっただろうし。
最も、人間いつかは死ぬのだ、それが遅いか早いかの違いだけで。
ここで死んでも、大して変わらないだろう。
ただ、楽しかった、千早ちゃんとの思い出を胸に死ぬ事が出来る。
ーーとなると、これからどうしよう?
彼女の両親が帰ったら、この別荘に居られなくなる。
そう決めると、色々と難問が出てくるが。
一度決めた以上、何とかするしかない。
幸い、これから段々、暖かくなる季節だから。
最悪の場合、野宿と言う手段もあるのだが。
それにしても、短期の場合はともかく、長期間と言う訳には行かない。
まずは、追い追い決めて行こう。
取り敢えずは、このままコノ時代に留まる事を決めると。
後は、問題を先送りにする事にした。




