第二話 光源
<翌日の朝>
「うんんっ〜〜」
少し寒気を感じて、目が覚めた。
布団を被らずに、そのまま布団の上に寝込んだ様だ。
5月になったとは言え、特にこの辺は標高があるので、まだ朝晩がチョット寒い。
ベッドから起き上がると、両腕を上げて伸びをした。
……何か、久しぶりに朝早く起きたなあ。
取りあえず今日は、例の光が気になったので、あそこまで行こうと思う。
それから、朝食を摂りに1階に降りる為、ドアへと向かう。
・・・
朝食を済ませてから。
昨夜、風呂に入らず眠り込んだので、シャワーを浴び。
今までに付いた習慣で、軽く、肌や髪の手入れもする。
不登校の、引き篭もり生活を送っているが。
体がベタ付くのが嫌だから、毎日、最低シャワーくらいは浴びている。
良く、メディアで取り上げられる、汚部屋の不潔な引き篭もり像は。
半分はヤラセで、半分は精神が病んでいる(それもメディアによる、イメージ作りによって追い詰められた末の)のだろうと思う。
同様に悪意に満ちた、昔からの不潔なオタク像にしても。
全く居ない訳でも無いが、皆が皆、そうでは無い。
そんなんだから、若い人間は新聞や雑誌、TVなんか見なくなったんだよ!
……はあ、また余計な事を考えてしまった。
一人だけだと無駄な事に、思考エネルギーを使ってしまうなあ……。
そんな風に思いながら、自転車の用意をしてから、玄関を出た。
玄関先で、自転車に乗ろうとした時。
隣の家の門扉が開いて、誰かが出て来た。
良く見ると、背中までの長い黒髪に、顔が小さいが目鼻立ちがパッチリした美人で。
幼い頃から見知っている、大野城 水樹だった。
彼女は、僕を一瞥すると。
何事も無かった様に、自転車に乗って行ってしまった。
休日にも関わらず、制服で行ったと言う事は、部活なのかもしれない。
確か、自分が行っている高校と違い、名門のお嬢様学校に行ってるんだっけ。
彼女も幼い頃は、僕と一緒に遊んだけど。
小学校に上がって、最初の頃は良かったが、次第に避けられる様にになり。
終いには別れを突きつけられて、それから全くの没交渉である。
あのまま関係があれば、幼なじみと言える関係だったのかもしれないが。
もう過去の事だ、今は他人も同然だ。
彼女の事を思考から追い出し、そのまま、自転車を走らせ始める。
**********
「はあ、はあ」
うあっ、これは相当な運動不足だなあ。
自転車を走らせ始めると、僕は昨日の夜、気になる光の点滅を放っていた、あの丘へと向かっている。
まだ、朝早い時間の陽の光を浴びながら、自転車のペダルを漕いでいる。
――陽が高くなれば暑いが、この時間なら、この冷たさが心地よい
――あの丘ならば。
小さい頃より何度も行った事があるから、迷うことは無いだろう
僕は、そんな事を考えながら、土曜の朝の道を走っていた。
・・・
あの丘に着いた。
この丘は、こんもりと盛り上がったお椀型で。
高さが高い訳では無いが、この辺りでは目立っていた。
丘じたいは、途中までは森になっているが。
そこから頂上までは、木が疎らに生えた草原になっている。。
頂上に着いた、僕の目の前に広がるのは。
芝生くらいの草が生えた草原の中にある、取り壊された瓦礫の山だった。
ここには以前、古い洋風の別荘が立っていた。
大きさは、普通の一戸建て住宅の二倍程度だが。
派手さが無く、落ち着いた作りの建物であった。
目立つ丘の上にある洋風の建物だから、この建物自体も目立っていた。
この別荘は、何でも昔は。
この辺一帯では有名な、資産家の持ち物だったらしい。
以前は、この辺りも開発されてなくて。
駅前に集落が固まっている以外は、周囲は田んぼばかりの田舎だったとか。
それがバブルの頃、街に比較的近くて便利な上、標高が高く、ちょっとリッチなイメージを付け易かったので、開発が始まったらしい。
しかしバブル崩壊と共に、開発が一時停止して。
その頃、その資産家もバブル崩壊がキッカケで会社が倒産して、一家が消息不明になったんだとか。
21世紀に入り、開発が再開し。
それと同時に、別荘そのものは、別の金持ちの手に渡ったけど。
それからしばらくして、何でも遺産相続で揉めたの原因で、長い間、放置状態となった。
誰でも入れるぐらい放置されていたから、子供の頃はここまで皆で遠征して。
探検と称し、この別荘の中に入ったりした事もあった。
その時は、所々建物が破損していたけど、既に中には何も無く、ガランドウだった。
何でも、遺産整理で中の物はすでに処分されたみたいだ。
それがやっと、十年越しの長い争いの決着が付き。
建物も老朽化が激しいので、先日、取り壊された所である。
「とりあえず、何かそれらしき物が無いか探そう」
僕は瓦礫の周囲を、歩いて見た。
・・・
小学校の校庭ほどの広さの、柵で囲われた敷地にある。
瓦礫の周囲を回ってみたが、それらしき物は見つからなかった。
あの光は自分の見間違いか? それとも幻か?
(ピカッ!)
自信を無くしかけていると。
潰れた屋根から、何かが点滅しているのが見えた。
その光が見えた、潰れた屋根に来てみる。
どうやら、潰れた屋根の下から見えたみたいだ。
屋根の下を見てみた、しかし、暗くて何も見えない。
(ピカッ!)
やはり無理か、と諦めかけた時、何かが光った。
うん? 何か板の様な物に付いたのが点滅している様だ。
取り敢えず、その辺りを瓦礫を掘り返し、その板の様な物を取り出す。
その板の様な物は、本だった。
本の金具に、ガラスの飾りが付いてるがそれが光るとは思えないし。
他に、考えられる物も付いていなかった。
“これが光るのか?”と思いながらも、その本を確保する。
その後も瓦礫を見て回ったが、瓦礫以外の物が見つからない為。
仕方が無いので、その本を持ち帰る事にした。
ちなみに主人公の名字は、鹿児島本線の駅名(筑後地方南部)。
ヒロインの名字と名前も、鹿児島本線の駅名(福岡市内)。
幼馴染の名字と名前は、大宰府絡みの遺跡の名前より取りました。
・路線図
https://www.jrkyushu.co.jp/railway/routemap/
・大野城
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8E%E5%9F%8E_(%E7%AD%91%E5%89%8D%E5%9B%BD)
・水城
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E5%9F%8E
<参考>
立ち上がった「ひきこもり」当事者、根深いメディアの偏見に変化促す 緊急シンポ
https://www.bengo4.com/c_18/n_9849/
大手メディアが求める「オタク像」には違和感を覚える
https://otakei.otakuma.net/archives/2013051302.html
テレビがオタクと犯罪を結び付ける理由
https://togetter.com/li/956959
メディア「とても信頼している」最下位の0.8% 信頼できるのは「天皇・皇室」「自衛隊」「警察」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20190717-00134578/