第二十七話 トラブルに遭遇する(千早サイド)
あれから、なおくんと色んな話をした後。
私と彼は、古本屋を後にした。
「でも、千早ちゃんも古本屋でマンガを買うんだね」
「まあ、雑誌とかなら地元の雑貨屋でも買えるけど。
単行本となると、雑貨屋では無いし。
それに古本屋だと、マンガでも掘り出し物を見付ける事が出来るしね」
古本屋を出てところで、私はなおくんから聞かれた事に答える。
「千早ちゃんは何時も、ああ言う話を読んでいるの?」
「うん、私は特に、あの作者の作品が好きだから」
古本屋を出ても、話は続いていて。
まだ、こんな会話をしていた。
「へえ〜、千早ちゃんは、あんな話が好きなんだ」
「変かなぁ〜」
「ううん、千早ちゃんらしくて、何だか可愛いな」
「……」
なおくんがそう言うので、私が不安になって尋ねると。
私の方を見たなおくんが、微笑みながら返事をする。
私を見る、彼の笑顔は眩しいほど優しい。
そんななおくんの笑顔を見た私は、顔が熱くなり、思わず下を向いてしまう。
「千早ちゃん、どこか行きたい所は無いの?」
「そうだね〜、特に欲しいのは無いけど。
何か有るかもしれないから、デパートに行きたいなぁ」
なおくんが私の行きたい所を聞いて来る。
本当なら、なおくんに色んな所を、エスコートして貰いたかったけど。
未来から来て、この時代の事を知らない彼に、それを期待する事は出来ないだろう。
「じゃあ、デパートに行こうか」
「なおくん、場所知ってるの?」
「うん、場所は僕の時代でも変わらないから。
ただ、僕の時代になるまでに、一回建て替わっているけどね」
「そうなんだ」
行こうとしているデパートは、建て替わってはいるけど、未来でも有るみたいだ。
という訳で、私たちはデパートへと向かう事にした。
・・・
「え! こっちで良いの?」
「うん、ここから行くと近道になるから」
デパートへ向かう途中、確かここの道から行くと近道になる事を思い出し。
私がそう言うと、なおくんが驚いた。
ひょっとして、未来では道自体が変わったのかな?
もうスッカリ恥ずかしさも薄れたので、堂々と腕を組んでいたのだが。
人通りの無い道へと入り、ますます大胆になる。
そうやって静かな道を、しばらくの間歩いていた。
・・・
二人で通っていた道は、そんなに狭い訳でも無いが。
建物の影になっていて、とても寂しい雰囲気であったので、次第に不安になって来る
「へへへへっ〜」
そんな寂し過ぎて、怖いくらいに静かな道を通っていたら。
イキナリ、イヤらしい笑い声が聞こえて来た。
「あっれぇ〜、カワイコちゃんが通ってるよぉ〜」
「ああ、そうだな」
「こんなシケた街に、こんなに可愛い娘が居るとはなぁ」
前の曲がり角から、突然人が出て来た。
出てきたのは不良の男の子達で。
坊主頭と庇の髪型の、あれは確かリーゼントとか言うのかな?
(※結構、誤解している人が多いですが。
実はリーゼントとは後ろの髪型の事で、前の庇はポンパドールと言います)
そんな男の子二人と、それより何よりも。
ボサボサ頭に、顔色が悪く痩せている上に、歯が抜けた虚ろな表情で。
黄色い物が入ったビニール袋を持って、フラフラしていてる子がいる。
話には聞いた事があるが、恐らく、あれはシンナー中毒になっているだろうか?
どう見ても普通じゃない男の子が、私たちの前に立ち塞がった。
「おい、お前、アンパンのヤリ過ぎだぞ!」
「ははは〜っ、そんな事ねえょ〜」
庇の子が、シンナー中毒の子にそんな事を言った。
アンパン! 間違いない、あの子はシンナーをやっている。
それを聞いて私は、体の血の気が引くのが分かった。
「なあ、そこの兄ちゃんよ〜。
その女、置いて行きな」
「お前の代わりに、十分、可愛がってやるからよ〜」
「ギャハハ〜」
三人が私をイヤラシそうな目で見ながら、そう言って笑った。
(ギュッ!)
三人の品の無い笑い声を聞いて、私は目の前が暗くなり、思わずなおくんの腕を掴んでしまう。
「スーーッ、ハーーッ。
スーーッ、ハーーッ」
暗くなる視界の中で、不意に深呼吸の音が聞こえ。
思考力が低下していたのだが、不思議に思ったので、その音が聞こえた方向を見てみる。
すると、なおくんが、微笑んで私を見ているのが見えた。
なおくんの笑顔は、見ている者を安心させる優しい微笑みである。
その笑顔を見た途端、目の前の景色の色が戻り。
恐怖で強張った体が、少しは緩んだ。
「なあ〜、なあ〜、俺達と一緒に遊ぼうぜ〜」
(ガバッ!)
「キャッ!」
なおくんの笑顔で、少しは楽になったと思ったら。
何時の間にか近付いてきた、シンナー中毒の子がイキナリ私に抱き付く。
口から薬品のキツイの匂いがして、臭い!
しかも抱き付きながら、私の体中を弄り。
その気持ちの悪い感触に、体中に鳥肌が立った。
そのシンナー中毒の子が、私をなおくんから引き剥がそうとする。
(グイッ)
「ぐげっ!」
「千早ちゃん、大丈夫?」
それを見たなおくんが、シンナー中毒の子の顎を上から後ろへと押し上げ。
私に抱き付く力が緩んだのを見て、私の体を掴んで自分の方に引っ張り。
それから、シンナー中毒の子を突き飛ばす。
(ドン!)
(バタン!)
「イテェーーー!」
シンナー中毒の子は、背中から地面に落ち。
それから、地面をゴロゴロと転がる。
あれ? 確か吸っている時は痛みを感じないはずだけど?
「こんの野郎ーー!」
私がそんな事を思っていたら。
庇の子が、腕を振り上げながら、こちらに駆けて来る。
それに気付いたなおくんが、体を掴んでいた手をソっと外してから。
庇の子に体ごと突っ込む。
(ドン!)
(ガツン!)
「オオーーーッ!」
何かがぶつかった音がした後、庇の子がその場に蹲り。
顔を押さえて、叫んでいた。
どうやら、なおくんの頭が顔にぶつかってしまった様だ。
「舐めやがってーー!」
一難去ったと思いきや、坊主頭の子がなおくんを、今まさに殴ろうとしている。
“あ、あぶない!”
私はそう思いながら、両手を口元に当て、息を呑んだ。
(ゴン!)
「ギエェェェ!」
「イタっ!」
拳が、なおくんの顔に当たると思いきや。
咄嗟に、なおくんが頭を前に傾けたので、拳が彼の額に当たる。
派手な音がしたので心配になったが。
なおくんは頭を押さえているけど、心配する程のダメージは無いようだ。
そして、なおくんを殴った坊主頭の子は。
殴った腕を反対の手で掴み、まるで天に祈るかの様に痛みに耐えていた。
「「ぜったい、ブッ殺す!」」
殺気立った叫び声と共に、シンナー中毒と庇の子が、なおくんに飛び掛ろうとしている。
しかし、なおくんは慌てる事なく、周りを見渡すと。
近くに止めてあった自転車を掴んだ。
(ブン! ブン! ブン!)
何をするのかと思えば、イキナリ自転車を振り回しだしたのである。
「うわっ!」
「おっとっ」
「アブねぇ〜」
坊主頭の子も立ち上がり、三人でなおくんに襲おうとするけど。
なおくんが自転車を振り回してので、三人共、慌てて後ろに下がる。
(ヒョイッ)
(ガシャン!)
「「イテェーー!」」
自転車を振り回しながら、三人を追い廻していたのかと思えば。
突然、身を低くしつつ、自転車を三人に向けて放り投げる。
自転車は地面を低く飛び、三人の足に当たった。
三人の内、庇と坊主頭の子はモロに当たったらしく。
膝を抱えながら地面に転がり廻っているが、シンナー中毒の子は掠っただけの様で。
当たった所を撫でているだけであった。
「千早ちゃん、早く!」
(グイッ!)
「あっ、ちょっと、なおくん」
(バタバタバタ)
以外な展開に、私が呆然として見ていると。
その様子に気づいた、なおくんが、私の手を引いて走り出した。
「おら〜っ、待ちやがれ〜」
(ヨロ、ヨロ、ヨロ)
三人の内、無事なシンナー中毒の子が、それを見て追い掛けようとするが。
足元がフラついて、マトモに走る事さえ出来ない。
それを幸いに、二人は可能な限り走って逃げる。
だが、元々から、体が弱く体力が無い私は、息が上がり出して苦しい。
でも、走って逃げないと色んな意味で危ない。
こうして私は、なおくんに引っ張られながら。
苦しい息の中、必死で逃げたのであった。
<参考>
・リーゼント
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%88
https://blogs.yahoo.co.jp/prains237/12629658.html




