第二十五話 初めてのデート(後)
・・・
「ん〜っ」
千早ちゃんが眠ってしまったので。
疲れていた僕も、ついでに一緒になってベンチで寝ていた。
軽く、二十分くらいしてから目が覚め、軽く伸びをしたら。
結構、体が楽になった。
「す……っ、す……っ」
隣の、僕に縋り付き、肩に頬を付けて寝ている。
千早ちゃんを見た。
すると相変わらず、彼女は可愛い寝息を立てていた。
(そぉ〜)
(サラッ)
「(わぁ、サラサラだぁ〜)」
寝ている、千早ちゃんの頭を見ている内に。
何だか、艷やかな彼女の髪を撫でてみたくなり、手を伸ばして撫でてみた。
手に感じる、そのサラサラな手触りが気持ち良い。
(なで、なで)
「んっ……」
(サッ!)
調子に乗って、千早ちゃんの頭を撫でていると。
どうやら起きた様なので、慌てて手を引っ込める。
「……やめないで……」
「えっ」
「……おねがい、頭を撫でてちょうだい……」
だが、そんな僕に千早ちゃんが、焦点の合わない瞳で。
甘える様にして、愛撫を強請って来る。
夢を見るような眼をしているのは、寝起きだけでは無いかもしれない。
(なで、なで)
「はぁ……」
そんな彼女の御要望に応え、再び頭を撫でると。
満足したかの様な、溜め息が聞こえて来た。
(なで、なで)
(ギュッ)
更に撫で続けていたら、千早ちゃんの僕の腕を掴む力が強まり。
それと共に、腕に感じる柔らかい感触も強まった。
こうして僕は、その柔らかな感触を感じながら。
千早ちゃんが満足するまで、彼女の頭を撫で続けていたのであった。
****************
「千早ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
ベンチでしばらく休憩した後。
再び、散歩を再開させる。
寝起きだけでなく、なおくんに頭を撫でられていた所為で。
何だか、フワフワした気分になっていた。
寝ている最中に、イキナリ頭に気持ち良い感覚がしたので。
半分、目が覚めてしまうと、彼が私の頭を撫でているのに気付く。
ビックリした、なおくんが、慌てて手を引っ込めるが。
その感触が惜しくなって、もっと続けるように思わず強請ってしまう。
そうやって気が済むまで、撫でられていたら。
とっても、良い気分になってしまい。
少々、足取りが覚束なくなってしまった。
気を付けないと、躓きそうになるので。
自然と、さっき以上に、彼にしがみ付いてしまう。
そんな私を見て、心配そうになおくんが言うけど。
チョットだけ、強がった返事をする。
「じゃあ、そろそろ次の所に行こうか?」
もう十分、散歩をした所で、なおくんが次の場所を聞いてきた。
私が行きたい所は有るのだけど。
余り、デートで行くような所で無いので、最初は少し遠慮したが。
フワフワして思考力が落ちた、私は。
そんな事さえ、考えられなくなり。つい言ってしまう。
・・・
「へえ、こんな古本屋が有るなんて〜」
「……ごめんなさい」
「良いよ、千早ちゃんが行きたい所だし」
考え無しに、私が古本屋に行きたいと言ったら。
なおくんは、笑いながら了承してくれた。
しかし、歩いて古本屋に行くに従い、冷静になったら。
“デートに行く場所なのか?”と考え出し、冷や汗が出てしまう。
でも、そんな私を、笑って許してくれた。
は〜、なおくんは本当に優しいなぁ〜。
「しかし、この古本屋は。
いかにも、“THE古本屋”って感じの店だね」
「なおくんの、時代は違うの?」
「そう、僕の時代は、個人経営の店が少なくなって。
古本屋でも、チェーン店ばかりになってしまったから」
「へ〜っ」
そんな事を言いながら、店の中へと入っていく。
開けづらい、木の引き戸を開けると、古本特有の匂いが鼻に付く。
中に入ったら、店の奥に居るおじさんが、一瞬こちらをコチラを見るけど。
私達を一瞥した後、関心なさそうに手元の本に目を落とした。
ここのおじさんは、あまり愛想は無いが、かと言って口うるさい事も無く。
長居がしやすいので、私は、この店を良く利用していた。
「あの儀式で使った本って、この店で見つけたの」
「えっ! そうなの?」
私が、なおくんにそう言うと、彼が驚いてしまった。
「この店でねぇ……」
「うん、この店って。
結構、古かったり、他には無い珍しい本が有るんだよ」
そう、この店は、他には無い本が有ったりするので。
うるさくないだけで無く、知る人ぞ知る穴場と言うのもあり。
そう言った理由でも良く利用していた。
「確かに、見るからに古い本ばかりだけど。
しかし、そんな本が有るなんて……」
なおくんは、古い木の本棚や、中に収められている古本を見ながら、頻りに首を傾げていた。
「最初は、古い少女マンガを探すのが目的だったんだけど。
おまじないの本を探している時に、偶然見つけたの」
私は少女マンガが収められた本棚を指差して、そう言った。
「まあ、今の僕達じゃあ、何も分からないから。
考えてもどうしようも無いか」
なおくんは、そう言って、考える事を放棄してしまった。
でも確かに、今の私達に、何故この店に有るのか分からないから。
そう言ってしまうのは、仕方が無い。
「しかし、この時代の少女マンガかぁ」
私が、そんな事を思っていたら。
なおくんが、そう言いながら、少女マンガの棚へと向かう。
「えっ、なおくん。
ひょっとして、少女マンガを読むの……?」
「ん〜、まあ、読むかな」
「そ、そう……」
彼が少女マンガに関心が有りそうなので、そう尋ねると。
予想もしない答えが帰ってきた
(※現在でも、男が少女マンガを読む事に、余り良く思わない向きがあるのに。
その当時は、“とても信じられない事”であり。
それは、当時のマンガで使われるギャグの中で。
“マッチョが少女マンガを見る”と言うのが、典型的なネタとして使われる位でした。)
「なおくんの時代だと、そうなの……?」
「ん〜、まあ。
余り積極的に、人には言えないけど、結構いたりするよ」
「そう……」
なおくんの言葉を聞いて絶句するが。
しかし、彼の話を聞く限り。
なおくんの時代の女の子は、女性としては想像できない物であり。
だから男の子たちが、現実の女の子に幻想を持ってないそうだし。
また、コンピューターを使った、疑似恋愛が流行してるのも合わせても。
考えられない事でも無いかもしれない。
「千早ちゃんは、どんな作品が好きなの?」
「えっと、私が好きなのは〜」
私がそんな事を思っていたら。
なおくんが、私が好きなマンガを聞いていた。
でも、なおくんでも、別に構わない。
むしろ、少女マンガを読んでいるからこそ。
こんなに私の事を、理解してくれるのかもしれない。
こうして二人は、古本屋で一緒になって。
少女マンガについて、話をしたのであった。




