第二十三話 初めてのデート(前)
「じゃあ、千早ちゃん、ドコに行こうか?」
駅前で、千早ちゃんに会いに来た理由を話した後。
それから、ドコに行こうかと訪ねてみる。
本来なら、僕がエスコートしないとイケないのだろうが。
生憎、この時代の情報、特に習慣やら流行、または地理などに疎いので。
下手な事はしないで、彼女に尋ねた方が無難だと判断する。
「ん〜、そうだね〜。
もうお昼だし、昼ゴハン食べよう」
・・・
(カラン、カラン、カラン〜)
「いらっしゃいませ〜」
そんな訳で、千早ちゃんの提案に従い。
二人は近くの喫茶店へと入った。
僕の時代ならファミレス、同じ喫茶店でもス○バなどのチェーン店に行くのだろうが。
確か、この頃はファミレス自体が、まだ出たての頃だから。
この辺りまでは、進出してはいないだろうし。
当然、喫茶店も全国規模のチェーン店なんて、この当時には存在していない。
彼女と一緒に、カウベルの音と共に中に入ると。
昼時だから大丈夫かなと心配したが、人が多いけど何とか座れそうだ。
まあ、まだ昼になったばかりと言うのも、あるのだろう。
店内からは、BGMのクラッシック音楽に混じり、先程の女子高生だろうか。
聞いた事がある、甘い小鳥の様な囁きが聞こえてくる。
今みたいなチェーン店ほどでは無いが、個人経営の店にしては比較的広い方だろう。
内装も、昔の映画で見た通りの、仕切に植木が置かれたボックス席で。
僕らは店員さんの案内で、空いている席に対面で座る。
「千早ちゃんは、良くココに来るの?」
「うん、街に出た時は良く来るよ」
座ると同時に、僕は彼女に尋ね。
すると、千早ちゃんは直ぐにそう答える。
「ねえ、千早ちゃん、何食べる?」
「えっとねぇ〜」
千早ちゃんが、テーブルに置いてあるメニューを見ている。
気を遣って、僕が奢ると言う形を、彼女が取ってくれたので。
僕は、メニューを見ながら選ぶ千早ちゃんに、そう言った。
****************
「はぁ〜、美味しかった〜」
「千早ちゃん、満足した?」
「うん♪」
出てきた物を食べ終え。
二人で、そんな会話をした。
注文したのは、私がスパゲッティナポリタン。
なおくんが、カレーライスである。
なおくんの話だと。
カレーならば、店による当たりハズレが少ないと言う話だ。
最も、こう言った店で出てくるカレーは。
業務用の、すでに出来ている物を使っている場合が多いので。
“マズいはずが無い”と、彼が小声で耳打ちしてくれた。
それから驚いたのは。
実はスパゲッティナポリタンは、本場には全く無い。
日本で創作された物だと言うのを彼から聞いて、ビックリしてしまった。
(※今では、結構、ナポリタンは日本生まれだとは知られていますが。
当時は、極一部にしか、知られたなかったみたいです)
「何だか喉が乾いたな〜」
「じゃあ、何か飲み物頼まない?
僕はカレーを食べた後だから、水だけで良いから」
「あ、なおくんアリガトウ〜。
あの〜、すいません〜」
一応、なおくんが、私に奢っていると言う体を装っているので。
私は少し芝居をしながら、注文する為に店員さんを呼ぶ。
・・・
「ご注文の品です、どうぞ〜」
「……」
「……」
注文してから、しばらくして。
店員さんが、頼んだ物を持ってきた。
しかし、そのやって来た物を見て、私となおくんが絶句した。
私は、メロン味のクリームソーダを頼んだけど。
出てきたのは、たしかに上にクリームが乗った、クリームソーダなのだが。
その、何と言うか、注文した物にはストローが二本刺してあって。
しかも、刺してあるストローが、途中でクルクルと巻いていると言う物である。
「えっと……、これは……」
「はい! こちらはカップルの、お客様用サービスになっております。」
事態が理解できない私は、目の前の店員さんに聞けば。
店員さんは、まぶしい程の営業スマイルで答える。
“それでは、ごユックリしてください”と言う、言葉を残し。
店員さんが去っていく。
店員さんが去り、二人は同時にメニューを見てみる。
「……あっ。
“今月は、カップルのお客様に、特別サービスを行っております”だって…」
なおくんがメニューを見て、そう言うので。
私も確認すると、確かにそう書いてあった。
ーーしまった〜。
久しぶりに来たから、そんな事は分からなかったよ。
一瞬、そう後悔したが。
しかし良く考えると、“二人でストローを使い、同じものを飲む”。
それって、マンガで度々見るシーンではないか?
そう思うと、私は勇気を絞り出して、彼に尋ねてみる。
「……ねえ、なおくん。一緒に飲まない?」
「えっ」
私はそう言って、出てきたクリームソーダを、席の真ん中に置き。
片方のストローを、彼に向ける。
ーー多分、今の私は顔が真っ赤なんだろうな。
それが分かる位、熱い顔を俯かせつつ、なおくんに言う。
「ほら、千早ちゃんも」
「……」
「一緒に行けは恥ずかしくないから」
「う、うん……」
なおくんがストローに口を付けた状態で。
自分から言って置きながら、何だか踏み切れない私の様子を見て、そう言ってくる。
「せえ〜のぉ」
((チューーーッ))
なおくんの合図で、二人同時にストローに吸い付く。
(チラッ)
(チラッ)
((カーーーッ!))
二人同時に吸い付き、思わず顔を上げたら。
間近に彼の顔が目に入ったので、更に顔が熱くなる。
私の目に入ったなおくんの顔も、何だか赤い様にも見える。
「「「キャーーッ!」」」
二人、見詰め合いながら、顔を熱くしていたら。
近くから、騒がしい声が聞こえてきた。
「きゃ〜、二人で同じ飲み物飲んでいる〜」
「カップルだわ、あの二人、カップルだわ」
「いや〜ん」
見ると、さっき駅前で、なおくんが見ていた娘たちだ。
その娘たちが、私達を見てキャッキャ騒いでいる。
騒いでいる、その娘たちを見てだろう。
店内全員の視線が、私達に集まった。
「……」
「……」
私達に集まる視線に、私は恥ずかしさの余り、思わず顔を伏せてしまい。
チラリと見た、なおくんも、赤い顔をを伏せていた。
こうして私達は、周りの視線を集める。
ある意味、針のムシロの上に座った状態に、なっていたのであった。
<参考>
・ナポリタン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%BF%E3%83%B3




