第二十二話 街に着いた
今回これで、タイトル回収になるのかなぁ?
<それから数十分後>
「う〜ん〜、やっと街に着いた〜」
「なおくん、お疲れ様」
やっとの事で目的の駅に着き、ホームに降りると。
僕が、腕を伸ばしながら思わずボヤいたら。
それを見てクスクス笑いながら、千早ちゃんがそう言った。
思ったより、街に着くまで時間が掛かったので、少し体が固まっている。
微妙に角度が急で硬い、背もたれの座席に座っていた所為だろう。
この時代の列車が、幾ら僕の時代より遅いとは言え。
僕の時代だと三十分で着く所、二回の特急追い越しも含め五十分ほど掛かった。
確かに、ラッシュ時じゃないとは言え。
特急が別料金で乗り換えられないのにコレじゃあ、乗客が減って民営化されるはずだよ。
「でもね」
「ん?」
「私は、なおくんと一緒に居られて嬉しかったよ♡」
流石に人目があるので、手を繋がないけど。
彼女が、ボヤく僕の少し前から振り返り、そう言って来た。
「はははっ、そうだね」
振り返った、嬉しそうな千早ちゃんの顔を見て。
僕は苦笑しつつも、彼女に返事をしたのだった。
・・・
「(へぇ〜)」
駅舎から外に出ると。
人気が無い駅前の風景に、心の中で感嘆の声を出す。
外の風景が僕の時代とは違うとは言え、想像以上の光景に驚く。
駅前が、僕の時代だと鉄筋コンクリートの、見栄えの良い建物ばかりだが。
目の前の光景は、時代掛かった木造の店が多かった。
通る車も、僕の時代より明らかに貧相で、事故ったら一発で死にそうな車ばかりだった。
ちなみに、この街は、人口二十万くらいの都市であり。
地方でその位の規模なら、そこそこ大きい方だろう。
現に僕の時代でも、この地方一帯の中心都市で。
確か、この時代からそうだったはずである。
「ねえ、ねえ、これからどうする〜♪」
「ん〜、喫茶店にでも行かない?」
「うん、行こうか〜♪」
目の前の、如何にも“The昭和”と言えそうな風景を見ながら、そんな事を思っていたら。
人の影が見えないと思った横から、“キャピキャピ”と言う表現が、出来そうな声が聞こえて来た。
もう学校が終わったのだろうか、向こうからセーラー服姿の生徒が、数人やって来てる。
女の子たちは、三つ編みやお下げ、あるいはポニーテールなどの髪型で。
制服のスカート丈は膝下や、短くても膝上数センチの長さで。
良く言えば素朴、悪く言えば垢抜けてないが。
優しく暖かな雰囲気を纏っていた。
目の前の、小鳥の様に囁く、女の子たちを見て。
幼い頃、まだ僕と仲が良かった頃の女の子たちの事を思い出す。
その優しい空気や、僕の時代の鋭く人を見下す視線の女子ではなく。
柔らかく穏やかな眼差しが、まさに同じようだったからである。
ーーねぇ〜、どっか行かねぇ〜!
ーーカラオケ行こう、カラオケ。
ーーもお、飽きたよぉ〜
ーーオメェ、そればっかだな〜。
彼女たちを見て、ふと自分の時代の女子たちが頭に浮かぶ。
確かに外見が垢抜けてキレイだが、中身が柄の悪い野郎みたいで。
街角を“ギャーギャー”言って騒ぐ、品が無い女たちとは全く違う。
(チョンチョン)
目の前の女の子を見ていたら、不意に僕のシャツの袖が引っ張られる。
慌てて振り返ると、そこには頬を膨らませた千早ちゃんが居た。
「もぉ〜、なおくん何見ているの!」
彼女が不満をあらわに、僕にそう言って来た。
どうやら、ヤキモチを焼いた様だ。
そんな千早ちゃんに僕は言った。
****************
「違うよ。
あの娘たちを見て、僕の時代とは違うなと思ったから」
「?」
他の女の子の方を見ている彼が、何だか面白くない私は。
思わず、なおくんの服の袖を引っ張ってしまった。
なおくんは、そんな私に苦笑しながら、そう言い。
それを聞いた私が、首を傾けてしまう。
「いやね、僕の時代の女子は。
目の前のあの娘たちより、確かに外見はキレイだけど、中身が最悪なんでね」
「??」
なおくんが話を続けるが、それを聞いてマスマス首を傾けて行く。
私が話を理解出来ないと思った彼が、急に周囲を見渡した。
「ねえ千早ちゃん、あれ見て」
それから、しばらく周囲を見ていたと思っていたら。
突然、ある場所を指差した。
「なあ、アイツ大したこと無かったな」
「ああ、シカトこいてたから。
一発殴ったら、途端に謝りやがって」
「イヒヒヒっ、あれは見モノだったな〜」
誰も居ないと思っていた駅前に、汚れた学生服をダラシなく着ていた男の子たちが、何時の間にか居た。
ただダラシないだけでは無く、Yシャツの前を開いて肌が露わになってたり。
学生服の下にTシャツを着込んでいたりしていて。
坊主頭の中には長髪(※今だと普通の長さだけど、その当時なので)の子も居るけど。
チャンと手入れしていない所為か、ボサボサで印象が悪い。
そんな不潔でダラシない男の子たちが、駅の階段や地面にあぐらで座り込み。
汚い言葉遣いで、物騒な事を話している。
なおくんから言われて、私が見たのは不良の子たちで。
私が一番苦手なタイプだ。
「例えるなら。
あそこに居る不良たちの脳みそを、向こうに居る女の子たちと脳みそを入れ替えた。
そんな感じかな」
「うん?」
「向こうに居る女の子たちが、あの不良みたいな会話をしているんよ。
僕の時代の女子は」
「えっ!」
「殴るのはともかく。
僕は、そんな女子から何回も蹴られた事があるんだよ」
「ええっ〜!」
私は、なおくんが話す衝撃の内容に、驚いてしまった。
「あとね、あの連中が話していた“シカト”や、ああ言った人間が集まる“タムロ”とか言う単語を。
……ん〜、何と言うか。
この時代で言うスケバンじゃなく、ごく普通の女子が普通に使う様になっているから」
「……」
更に続く話に、私は声も出なくなった。
(※今では、女子中高生が普通に使う“シカト”、“タムロ”、あと“ヤバイ”などの言葉は。
90年代半ばのコギャル出現以前は、良家の子女が使ってはイケナイ単語の様でした。
特に“シカト”は、元々ヤクザ用語でしたし。
“ヤバイ”も語源が、その筋の人たちが使う用語です)
「だから僕は、現実の女に幻滅したんだ」
「……」
「現実がそうだから、やはり世の中に僕みたいな人間が一杯居て。
コンピューターが作った、現実に居ないアイドルや歌手が出てきて、それが人気があるんだよ」
「……そうなの?」
次から次に語られる内容に頭が追い付かず、ただ返事をするのがやっとである。
「それに、コンピューターが作った女の子と、疑似恋愛する事さえできたんだ」
「えっ!」
「僕は、それに夢中になっていた」
「じゃ、じゃあ、私の事は……」
だが次に聞いた、なおくんの言葉に。
思わず不安に駆られてしまい、彼に聞いてみた。
「でね、そのコンピューターで疑似恋愛していた女の子は、千早ちゃんみたい娘ばっかりだった。
と言うより、僕の理想は千早ちゃんの様な娘なんだ」
「それじゃ……」
「僕は別荘跡で見つけた、千早ちゃんの日記と写真を見て好きになったんだ。
だから、どうしても儀式をやって、それから千早ちゃんに会って。
何としても、“生きていて良かった”と思って貰いたかったんだよ」
私が、少女マンガに出てくる理想の男の子に会いたい為に、儀式をやった様に彼もやった。
つまり私達は、お互いの理想の相手を求めていたのである。
私は、なぜ彼がココに来たのか、やっと理解する事が出来た。
元々、この作品は、"泣きゲー"当時のギャルゲーで、正統派ヒロインのシナリオの中に。
昔に見た事が有る、バブル以前の少女マンガ(結構古いのも含む)と共通項が有る事に気付き。
両者の主人公が出会うと、どの様な物語が紡ぎ出されるか想像したのが、発端です。
<参考>
・シカト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%A8
・タムロ(屯)
https://kotobank.jp/word/%E5%B1%AF%E3%81%99%E3%82%8B-563033
・ヤバイ
http://gogen-allguide.com/ya/yabai.html
https://www.kanken.or.jp/kanken/trivia/category05/16051502.html
・スケバン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%90%E3%83%B3
・コギャル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%AB#%E3%82%B3%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%AB




