第十九話 二日目の朝
<翌日の朝>
(チュン、チュン)
「んんっ〜」
遠くから雀の鳴き声が微かに聞こえると、私は朝になったのに気付いたので。
眠い目を擦りながら、布団の中で伸びをする。
この辺りは田園地帯だから、朝になると、こんな丘の上にまで雀が来ることがある。
私は伸びをした後、ベッドの上で上体を起こし、考え込む。
「(はあ〜、ようやく落ち着いたかな……)」
昨夜、偶然にも尚くんの裸(上半身だけの)を見てしまった。
あれから恥ずかしくて、ナカナカ彼とは顔を合わせていない。
一晩経って、今は何とか落ち着いていた。
とは言え意識すると、あのキレイな胸板が頭に浮かんで、顔が熱くなって来るので。
出来るだけ意識を逸らそうとした。
「(そう言えば、今日は土曜日かあ)」
ふと、部屋に掛けてあるカレンダー見て、そんな事に気付く。
今は学校に行ってないので。
最近では、曜日の事など気にすることは無くなっていた。
「(だったら半ドンだから、お昼に街に出ても不自然じゃないよね)」
土曜日と分かり、そんな事を思ってしまう。
「(遠出をするとキツイけど、なおくんと一緒に街を歩きたいな〜)」
街に行くと何時もとても疲れてしまうけど、理想の彼と出会えたのだから。
なおくんと一緒に行きたい。
私は理想の彼と会えたら、どうしてもしてみたい事が二つあって、
その一つが、一緒に街を歩く事である。
でも、よく考えると……。
ーー男の子と一緒に、街で並んで歩く。
これって、デートになるんだよね?
(キャーーッ)
その事に気付いた私は、後ろにある枕を手に取り。
それを押し当てながら、顔を埋めていたのだった。
****************
「街に行くの?」
「うん、どうかなぁ……」
朝食の場で、突然、エプロン姿の千早ちゃんから、そんな事を言われた。
昨日の事が有ったので、どんな様子か心配していたが。
どうやら、表向きは戻った様なので安心する。
ちなみに朝食は、トーストとコーヒー、それからレタスを主体にしたサラダであった。
「どうして急に?」
「いや、今日は土曜日だから、半ドンで丁度いいと思って」
「ん? 半ドンって何?」
「えっ?」
イキナリ、聞きなれない単語を聞いて僕は思わず彼女に訊ねた。
「半ドンって、半日休みの事だけど……」
「それがどうして土曜日なの?」
「土曜日が半日休みなのは当たり前じゃないの?」
「僕の時代、学校は週休二日制で、土曜日も全休なんだ」
「ええっ〜!」
千早ちゃんから言われて思い出した。
そう言えば、学校で週休二日制が定着したのは、21世紀になってからだ。
(※90年代には、月イチと言った形などでは有りましたが。
完全週休二日が普及するのは、21世紀になってからです)
「未来はそうなっているのかぁ……」
「そうだよ。
とは言え、進学校なんかでは補講があったりで。
事実上、土曜日も無かったりするんだけどね」
僕の言葉を聞いた彼女が、絶句していた。
しかし、進学校やセレブが行くような所だと、有名無実な事がある。
「でもどうして、今日、行こうと思ったの?」
「実は、平日の昼間に、欲しい本を買おうと思って街に出たら。
お巡りさんに補導されて、親が呼ばれる羽目になった事があって」
「ああ〜」
「その時、学校に行っていない事が分かって、色々と不愉快な思いをした事があったから。
それ以降、病院に行くときとか以外は、土曜の午後と日曜、祭日にしか出ない様にしているの」
「なるほど」
その時の事を語る、千早ちゃんの表情は嫌悪感を表しており。
よほど、腹に据えかねる事があったのだろう。
でも、その事について聞かない方が良さそうだ。
「それに、今日は体調が良いから。
体調が良いときじゃないと、結構、体に堪えるの」
「でも、一昨日の夜は倒れようとしてたけど……」
「あの時は、普段は寝る頃に寒い所に、長い時間いたから。
あんな無理をしなければ、大丈夫」
「ホントに?」
「うん♪」
僕が疑問に思っていたが、彼女が元気よく返事をする。
顔色を見ても血色が良さそうだし、無理をしなければ大丈夫だろう。
「二人で街に行くんだよね」
「うん」
「これって、デートになるのかな……」
(カーーーッ!)
僕が浮かんだ事を、つい口走ったら。
それを聞いた千早ちゃんの顔が、急に真っ赤になってしまう。
「えっ……。
やっぱり、デートになるんだよね……」
「あっ、いや、その。
迷惑だった?」
「ううん、迷惑じゃないよ、嬉しいよ〜」
千早ちゃんの反応を見て、慌てて謝るが。
彼女は、満更でも無いようだ。
「なおくんと、デート……。
キャーッ!」
(クネクネクネ〜)
「……」
千早ちゃんが小さな悲鳴を上げながら。
伏せた顔をエプロンで覆いつつ、体を左右にくねらせる。
突然の彼女の奇行に、僕は唖然としてしまった。
<参考>
・学校週5日制
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E9%80%B15%E6%97%A5%E5%88%B6#%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E9%80%B15%E6%97%A5%E5%88%B6%E3%81%AE%E5%B0%8E%E5%85%A5




