第一話 現実に失望した少年
201X年5月のある日。
標高の高い、とある地方の新興住宅街にある。
何の変哲もない一軒家の、二階の部屋。
・・・
「ふああ〜」
目が覚めると、眠い目を擦りながらベッドから起き出す。
「もう、昼近くか・・・」
枕元の時計を見て、そう呟く。
時計の短針は、直角に近い角度になっていた。
ベッドから起きると、1階のキッチンに降り。
トーストを焼きながら、徐にテレビのスイッチを入れる。
(プッ!)
「はい〜、***さんと***さんの熱愛の報道がありました」
(ピッ!)
「妻が夫のオナラが臭かったので刺した……」
(ピッ!)
「妻の夫に対するDVが激増……」
(プッ!)
下らない番組しか無いので、スイッチを切る。
そう言えば、テレビを見るのは久しぶりだなあ。
今やテレビは、嘘だらけのヤラセ番組か、見るだけで頭が悪くなりそうなクダラナイ番組ばっかりだ。
だから最近は、ネットで動画か配信番組を見たり、ネット小説やオンラインゲームの方が多い。
その中でも、バーチャルアイドルが出る動画を見るのが、今のマイブームである。
穏やかで優しく、笑顔が可愛い彼女たちを見ると心が癒やされる。
だから僕はネット配信でもアニメ以外の、ドラマや映画などの番組は見ない。
何で、学校で散々見る、三次元女が喚いたり暴れたりする物を、虚構の世界にまで見ないとイケナイんだか。
三次元アイドルもそう。
殆どは、見るからに猫を被っているのが分かる女で、中には若干、凶暴な女も居るが。
どちらにしろ、とてもじゃないが興味は持てない。
……おっと、トーストが焼けたみたいだ。
考え事は置いといて、さっさと食べるか。
**********
・・・
僕の名前は渡瀬 尚、17歳の高校二年生である。
僕は今、登校拒否状態である。
僕が行っている学校は、学年で複数の集団に分かれていて、お互いに直接の交流が無いが。
しかし、その癖、全体が教師の制御すら不可能な、ある種の無言の同調圧力に支配されている。
ピラミッド型のスクールカーストに縛られていた。
また、そんな学校に溶け込めず、ある意味目立つと。
場合によっては、イジメと言う名の陰湿な袋叩きに合ってしまう。
だから僕は、そんな息苦しい学校に付いていけなくなり、この2、3ヶ月程学校に行ってない。
そんな話は、今では別に珍しく話ではない。
と言うより、これが当たり前の状況なのである。
そんな学校でも、昔はこれで、“我慢すれば、先がある”と思えたから、何とかなっていたが。
今は、未来が”お先真っ暗”なのが、みんな分かり切っているから、無理をしてまで行ってどうなるの?と誰もが、何となく思っている。
テレビで、アホな評論家が“世界には学校に行けない子供もいるのに”とか、ふざけた事を言ってるが。
そんな国は、学校に行けるだけで未来が開けるが、日本は学校に行っても未来が無いんだよ。
どんなに必死で勉強しても競争しても、“豊かになる”のはその極一部だけ。
その他は、底辺で藻掻き苦しむだけだ。
馬鹿な年寄り共が、自分たちの欲で若い世代の未来を奪った癖に。
そんな下らないことをホザいているから、若い世代はテレビなんか見なくなったんだよ。
今じゃ理想の学校生活なんて、マンガや小説、ゲームなどの二次元の世界にしかない。
……詰まらない事はもう良いから。
さあ、食事を済ませたら、自分の部屋に行くか。
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今、僕はこの家に一人で住んでいる。
親は、母親とは幼い頃離婚し、それ以降、二度とは顔を合わせる事は無く。
父親は現在、外国に単身赴任に行っている。
もっとも、仕事中毒の父親は、幼い頃より僕の事など関心がなく。
仮に日本に居ても、僕が何しようと放置しているだろうが。
高校生になってから友達はいない、要するにボッチだけど。
下手に表面上だけ取り繕う関係なんか、ボッチよりも更にタチが悪いと高校に行って痛感した。
何で日本って、同調圧力に支配された上っ面な関係よりも、一人でいる事を蔑視するんだろうか。
まあ、結果的に、それで利益を得る人間が、居るからなんだろうけどね。
……しかし、最近、独り言が多くなったな。
自分の部屋へ行き、動画鑑賞の準備をする。
PCを立ち上げると。
いつもの様に癒やしを求め、動画サイトへと入って行った……。
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<それから、数時間後>
「ふう、疲れたな」
窓の外を見ると、すでに夜になっていて、闇の中に星と街灯の光が光っていた。
さすがに、ぶっ通し動画を見たりギャルゲーをやって疲れたので、PCを落として休憩している。
僕は今まで、三次元で恋愛をした事が無い。
それ以前に三次元の女と、とてもじゃないが恋愛なんか出来ない。
三次元の女は、確かに外見だけは良いかもしれないけど。
もう中身は、“スカートを穿いた野郎”でしかない。
――何、見てんだよ!
――キモいんだよ!
――コッチくんな、アッチ行け!
言動が下手な男よりも柄が悪く、粗暴で。
イケメン以外が近寄れば、罵倒だけでは済まず、場合によっては蹴られる事さえある。
昔はあれだけ優しくて、小学校に入るまではお互い仲良くやっていたけど。
それが小学校入ってから、何故か、そんな娘たちが次第に柄と言動が悪くなって行き。
男も自分にとって、メリットが有るか無いかで選別するようになった。
小学三年生辺りを最後に、女子から優しい言葉や思いやりのある言葉を聞いた事は無く、代わりに罵声を聞くようになり。
ましてや女子といて心が温まったり、穏やかな気分になった事は無くなり、不快感しか抱かなくなった。
自分だけかと思ったが。
中学時代に周囲のイケメンでない連中から聞いた所では、大体、同じ意見だった。
因みに、高校になってからは居ないが。
中学時代は深い付き合いこそないが、それなりの友達と言えるような存在が何人か居たけど。
高校進学と共に、バラバラになってしまった。
しかし、クラスで騒ぐ女子たちを見ると、まるで街角でタムロするヤンキーの様で。
あの連中の脳みそを、そのまま女子に移植したとしか思えない。
そうかと思えば、イケメンを見るとあからさまに猫を被り、女らしく振る舞おうとする。
そんな物を見ている内に、三次元に失望して二次元に走った。
中学に入る前くらいだろうか、試しにギャルゲーをやってみたら、現実の女では味わう事が出来なかった、暖かさと穏やかな気分を感じる事が出来た。
それをキッカケに、僕は二次元にハマり込んでいる。
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(チカッ……、チカッ……)
「ん?」
しばらく休憩していると、遠くの丘の上で何かが点滅している。
(チカッ……、チカッ……)
気の所為かと思ったが、ヤッパリ光っている。
一度気が付くと、どうにも気になって仕方が無い。
こんな生活をして関係なくなったが、明日は土曜日か。
丁度いい、ちょっと運動不足気味だから。
運動がでら、あそこまで行こうかな。
「はあ〜〜〜」
思わず、大きなアクビが一つ出てしまった。
あ〜、動画の見過ぎで、眠気が凄い事になっている。
とりあえず疲れを取る為、ベッドに寝っ転がっていたが。
しかし、ちょっとのはずが、本格的に眠り込んでしまった。
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