第十八話 悪夢(昔の思い出)
今回は、第三者視点での話です。
<それから、更に夜が更けた深夜>
(すー……、すー……)
尚が、客間の和室で布団に入って寝ている。
あれから客間に戻ると、既に布団が敷いてあった。
どうやら、尚が居ない間に千早が敷いてくれたみたいである。
恥ずかしいがっては居たが、それでも尚の為に世話を焼いてくれたのだ。
昨夜は千早の側にいて、居眠りする形で眠り込み。
またその前の日は、ほぼ徹夜した後、昼間に仮眠をしてマトモに寝ていたかったの疲労していたのであろう。
布団を見た途端、急に眠気が襲ってきて、そのまま布団に入ってしまった。
(すー……、すー……)
やはり、疲れていた様で、布団に入って暫くして。
尚は、静かな寝息を立てて眠ってしまった。
一見すると、尚は安らかに寝ている様に見えるが。
良く見ると、眉根を寄せるような表情で、少し苦しそうに見える。
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「はあ〜。
またおかあさん、いないんだあ……」
幼稚園から帰宅した尚が、家の中を見て一言、そう呟く。
それは尚が幼稚園児だった頃の事。
何時も通り、母親は姿が見えなかった。
朝は、幼稚園の送迎が来るので、一緒に来るのだが。
午後帰ると、母親は何時も居なかったのだ。
母親が帰るのは、決まって夜遅く尚が眠ってしまった後で。
それは父親が帰る前でもあった。
尚の夕食は、書き置きと共に置かれたレトルトかインスタントである。
休日もまた、父親がほぼ休日出勤で家には居ないので。
母親もまた、尚の食事を支度(とは言えやはり、レトルトとインスタントであるが)をしてから居なくなった。
その頃の尚は、母親が何故、家に居ないか理解できなく。
また、それが普通だったので、特に疑問に思わなかった。
後になり、母親が男と不倫をして。
父親が仕事にかまけて、家庭を顧みない事を不満に思い。
家にマトモに居ない事を利用して、外で男と密会していたのを知ったのだ。
別に、母親が居ないのには慣れたけど。
ただ、一人で居る寂しさだけにはナカナカ慣れなかった。
「きょうは、どんな本を読もうかな〜」
最初の頃は、テレビをひたすら眺めて紛らわせていたのだが。
段々、テレビを見るのも詰まらなくなり、家に有った本を片っ端から読む様になっていた。
百科事典の様な難しい物でも、集中している時は、寂しさを感じないで済むので。
敢えて読んでいた。
「(あれ? マンガかな?)」
本棚の奥の方から、古いマンガらしき物が出てきた。
取り敢えず読んで行くと、何だか心の中が暖かくなってくる。
後に分かったのだが、それは母親が若い頃読んでいた少女マンガらしく。
何かの理由で、この家に持ち込んだ様だ。
その少女マンガを読んでいる内に、作品の柔らかく暖かな雰囲気。
主人公の女の子の、優しくて、ひたむきで健気な心に感動してしまった。
それから尚は、毎日の様に家に有った、少女マンガを見続けて。
いつしか、家に一人で居る寂しさを紛らわす様になった。
「(女の子といっしょにいると、いつもこんな気持ちになれるのかな?)」
少女マンガを読んで行っていると、次第にそんな事を考える様になり。
徐々に、幼稚園の女の子と遊ぶようになって行った。
・・・
「なおちゃん、いっしょにあそばない?」
「そうそう、私達といっしょにあそぼうよぉ!」
「うん!」
それから幼稚園の女の子と、良く遊ぶようになり。
その中で特に水樹ちゃんとは、家が隣同士と言う事もあり、特に仲が良かった。
「なおちゃん、いっしょにかえろ」
「うん!」
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「なおちゃん、私のウチであそぶ?」
「うん、みずきちゃん」
家も隣だから、幼稚園の帰りも一緒に帰ったり。
彼女の家に遊びに行ったり、逆に誰も居ないから僕の家に呼んだりしている内に。
次第に寂しさを忘れるようになった。
・・・
この様な、和やかな関係がずっと続くと、尚は思っていたのだが。
小学校に入学してから、その関係が少しずつ変わっていった。
「ねえ、いっしょにあそばない?」
「あ、今日わたし、ようじがあるの」
「私も〜」
「そっかあ……」
小学校に入ってから、少しずつ避けられ始められ。
「私、尚くんとは遊びたくないな」
「私も」
そして拒絶されるようになり。
三年生を過ぎた頃には。
「アンタ、キモいから来ないでよ」
「シッシッ!」
まるで野良犬の様に追い払われた。
年を重ねる毎に、次第に柄が悪くなっていく女子から、ついには罵声を浴びるようになったのだ。
そんな柄が悪くなった女子たちは、クラスでも粗暴で男子に恐れられたけど、イケメンでもある男の周りに集まるようになり。
何でも粗暴さが、女子たちには“男らしい”と見えるらしく。
尚に対するのと打って変わって、猫なで声でくっ付いていた。
自分だけ当たりキツイのなら、何か悪い事をしたのかな?と思うのだが。
自分たちが認めた男子以外には、尚と全く同じ態度だったので。
それでは無い事だけは確かだ。
年を追うごとに柄が悪くなり、攻撃的になって行くのに加え。
自分にメリットのある相手以外は、眼中に入れないと言う。
女特有の利己的な面を知った尚は、女子たちに失望してしまった。
そして、昔はあれだけ仲が良かった水樹も。
「みずきちゃん、あそぼうよ〜」
「え〜、今日はダメだよ〜」
やはり、避けられ始め。
「ちょっと〜、恥ずかしいから話し掛けないでよ」
「そんなのと話しないで早く行こうよ〜、水樹!」
「うん!」
「……」
どうやら、周囲の女子から吹き込まれたらしく。
次第に、尚を拒絶するようになり。
「ねえ、アナタと一緒に居ると恥ずかしいから。
もう、私に話し掛けないでちょうだい」
終いには、決別の言葉を投げ付けられた。
その事にショックを受けてしまった尚は、現実の女その物に嫌悪感を持つ様になる。
その頃には、既に両親は離婚していたが。
不倫していたのがバレて開き直って騒いだ挙句、尚にマトモに顔を合わせる事も無く別れ。
その後も会おうともしない母親に、失望を通り越して憎悪すら抱く様になり。
その感情を、現実の女全体に投影してしまった。
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「は!
はぁ、はぁ、はぁ……、夢か……」
突然、尚が閉じていた目を見開くと、荒い息を吐いた。
悪夢にうなされて、目が覚めたのだ。
「しかし、何で、こんな時に……」
せっかく、理想の女の子に会って、思っていた恋愛をしていた所に。
昔のイヤな事を見せられて、尚が不機嫌になる。
水樹に別れを突き付けられた後。
尚は、ゲームに夢中になった。
家に有った少女マンガは、両親の離婚時に母親が処分したらしく。
全く残って無く。
かと言って、今のギャル化・ビッチ化した少女マンガを読もうとも思わなかった。
その為、金だけは有る尚がゲームに走った。
放置している事に、多少とも罪悪感があるのか。
はたまた、イチイチ生活費を要求されるのが面倒臭いのか。
父親が明らかに、生活に必要以上の金を渡していたので、それでゲームを購入していた。
最初の頃は、格ゲーやRPGなど、その年頃の男子らしいゲームで遊んでいたが。
偶然に知ったギャルゲーに、次第にノメリ込んで行く。
昔見た、古い少女マンガみたいな優しい雰囲気。
特に、正統派ヒロインのシナリオが、古い少女マンガみたいな話だったので。
同じように心が満たされていった。
それから尚は、ギャルゲーなどの二次元へと走り。
二次元の女の子たちに、癒やしを求めた。
「……折角、千早ちゃんに出会えたのに。
もお、忘れよう、忘れよう」
そんな尚が、まるでギャルゲーの正統派ヒロインみたいな、昔の女の子が居るのを知り。
過去に行って、その女の子と恋愛をしている。
尚の初恋である。
水樹とは、あのままの関係が続いたら幼馴染になって。
恐らく、恋愛をしていたかもしれない。
幼馴染と恋愛なんて、まるでマンガかギャルゲーみたいな状況になっていたであろうが。
もう今では赤の他人である、関係が無い。
尚は、そんな事を思いながら、再び眠りに付いたのであった。




