第十六話 生きていて良かった……
<一方、その頃の千早は>
「ふふふ、ふん♪」
私は上機嫌で、鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込む。
しかし、今日は色んな事があったなあ。
――大予言は外れていたけど。
未来が別の方向で酷くなってるなんて。
興味が有った、ノストラダムスの大予言が当たったかどうか、聞いたんだけど。
なおくんの口から聞いた話は、予想外の事であった。
結局、それが原因で、二人の間の雰囲気が悪くなってしまったけど。
なおくんが気を使って、何とか元通りになった。
「ホントに、なおくんは優しいなあ……」
しかも優しいだけなく清潔で、ツルツルサラサラしていて。
まるで少女マンガに出てくる様な、男の子みたいだ。
精霊さんにお願いした甲斐があった。
それから、手を繋いで歩きながら買い物をして。
お宮で、私が作ったサンドウィッチを食べて貰ったし。
――やっぱり、よく食べるんだね。
私の作った、サンドウィッチを美味しそうに食べて。
しかも、私が食べ切れなかった分も食べた上、まだ足りなそうだった。
やっぱり、なおくんも男の子なんだね。
今度作るときは、多めに作ろうか。
「膝枕もしたし……」
食べた後、ユックリしていたら。
急になおくんがアクビをして、眠そうにしていたから。
つい無意識に彼の頭を膝に乗せてしまった。
何んでだろう。
眠そうな彼の顔を見ていたら、そうしたくなったのだ。
しかし、やった事に後悔は無かった。
むしろ、サラサラの髪を好きなだけ撫でる事ができ。
その上、可愛いなおくんの寝顔をタップリ見る事ができたし。
それに。
――なおくんに、後ろから抱き締められちゃった♡
膝枕させたのは良いけど、その後、脚が痺れて倒れそうになり。
なおくんが受け止めてくれ。
そして、その体勢のまま、後ろから抱き締められた。
私は、なおくんの両脚の間で。
体に後ろから寄り掛かった状態で、抱き締められる。
まるで、少女マンガのひとコマにもありそうな状態になっていた。
「やだ、恥ずかしい〜」
(いやんいやんいやん)
その時の事を思い出すと、恥ずかしさの余り。
私は、持っていた洗濯物のタオルを顔に押し当てながら、顔を左右に振っていた。
・・・
「はあ〜」
洗濯物を全部取り込んだ後、一息吐く
「ホント、生きてて良かった……」
私は自分の手を見ながら、なおくんと手を繋いだときの。
温かいくて、大きな彼の手を感触を思い出して、そう呟く。
思えば小さい頃の記憶は、病院の白い部屋が多かった。
物心が付いた時から体が弱く、何かに付けよく病院に入院していた。
だから、幼稚園には行けず。
小学校の低学年までは休みがちで、従って友達は殆ど居なくて。
たまに行っても、一人ポツンと教室に居るだけである。
小学三年生ぐらいから段々休むことも無くなり。
中学くらいからは体力的に充実してきたので、入院する事は無くなったが見知った者も居らず。
友達を作ろうとしても話しかけるキッカケも作れず、いつも一人でいた。
その頃くらいから男の子との恋愛に憧れるが、学校で見る男子は乱暴そうで近寄りがたかく。
高校に行ければ何か変わるかと、淡い期待を抱くも、その高校も体の事や距離的な事で行くことが叶わなかった。
勉強その物は通信教育で出来るのだが、当然、友達と会話したり遊んだりと言った事は出来ず。
ましてや彼氏など夢のまた夢である。
そう言った状況に加え、私は両親とお医者さんとの会話を、たまたま聞き。
私が30歳を超えたら、そんなに長くは生きられない事。
そして、私は子供どころか妊娠すら、命に関わる事を知りショックを受けた。
ーー私は、人並みの幸せさえ掴めずに、死ぬのかな……。
私は、みんなと同じような青春はおろか。
結婚さえも、夢見ることも出来ない事を、目の前に突きつけられてしまい。
ーー何の為に生きているのだろうか?
次第に、生きていることが虚しくなって行き。
それ以降、現実から目を逸らすかのように、ますます少女マンガにのめり込みんだり。
あるいは、恋のおまじないに夢中になっていった。
そんな中、たまたま街に行った時に見つけたある古本屋で、“魔術入門”と言う本を偶然発見し。
中を覗いて、ある儀式を見つけると即座に購入した。
それは時の精霊を呼び出し、自分の寿命と引き換えに望みを叶えると言うものである。
半信半疑ながらも、どうせ先が見えた人生だ。
多少、死ぬのが早まるだけだから、その代わりにせめて理想の男の子と恋愛をしてみたい。
そう思い、儀式を行った。
儀式を行った結果、一旦は失敗したかに思えたが。
思わぬ方向で成功してしまい、一人の男の子が召喚された。
召喚された彼は、不潔で乱暴な子達とは違い、清潔でツルツルサラサラな上。
可愛い精霊さんが言ったとおり、“謙虚、誠実、思いやり”を持った男の子だった。
そんな彼を見た途端、私は一目で恋に落ちてしまう。
なおくんとは、まだ会って一日にも満たないが。
マンガでしか味わえないと思っていたドキドキワクワク、そして肉親以外からの愛情を体感していた。
私は今、溢れるほどの愛を感じ、生きてて良かったと心の底から思っている。
それが例え、すぐに死ぬことになったとしても……。




