第十一話 思ったよりも酷い未来
千早ちゃんと買い物に行くので、彼女が着替えるまで待つ間。
念の為に、自分の格好を確認する。
「あ、そうだよな。
この時代に合わせて、シャツをズボンに入れないとな・・・」
つい、自分の時代の癖で、シャツを出し放ししてたのに気付いたので。
慌ててシャツを、ズボンに入れた。
・・・
(パタパタパタ〜)
「なおくん、ごめんなさい〜」
そんな事をしながら、居間で千早ちゃんを待っていると。
スリッパの音をさせながら、彼女が着替えから戻って来た。
「(か、かわいい……)」
着替えてきた彼女を見て、僕は驚く。
千早ちゃんは膝丈より少し短い、胸元が大きく空いた、白地の半袖ワンピースに。
黒いリボンが付いた、つば広の白い帽子を被り。
肩には、布地のバッグを掛けていた。
目の前の彼女の姿は、まるでギャルゲーの正統派ヒロイン、その物である。
最初に、その姿を見て、画面から抜け出したかと錯覚すると共に。
その可愛らしさに、思わず見惚れてしまう。
「くすっ♡」
僕が自然と、千早ちゃんの姿を見詰めていたら。
イキナリ、彼女が可笑しそうに微笑んだ。
どうやら、僕が考えている事がバレていた様である。
「〜♪」
しかし、そんな僕を見て、千早ちゃんは凄く機嫌が良さそうだ。
――確か、彼女は天然の気があったよね・・・。
その事を思い出すと。
何が彼女の琴線に触れたのか、不思議に思った。
「遅くなっちゃったから、早くいこっ♪」
「う、うん……」
嬉しそうに千早ちゃんが、僕に一緒に行こうと誘うけど。
僕は、見惚れたままの状態から立ち直れず、気のない返事を返してしまう。
それでもまだ、ご機嫌な千早ちゃんを見て。
僕は、苦笑を浮かべるしかなかったのだった。
****************
その後、なおくんが照れてる様子に機嫌が良かった私は。
家を出ると、一緒に並んで丘を下る坂道を下りて行く。
「へえ〜、昔の、この辺りって。
本当に、田んぼばっかりだったんだな〜」
梅雨に入る前の、五月の爽やかな青空の下。
遠くを見ていた、なおくんが、突然そんな事を言ってきた。
あ、そうだった、なおくんは40年後の未来から来たんだったけ?
「じゃあ、40年後って、この辺りはどうなっているの?」
「その頃はね、この辺り一帯は新興住宅地になっていて。
田んぼなんて、影も形も無くなっているんよ」
「……へえ〜、そうなの」
彼が語る未来の事に、信じられない思い出で聞く。
この一面に広がる田んぼが全部、住宅地になってるって?
「どうして、住宅地に……?」
「ほら、この辺りは少し時間が掛かるけど、近くの街に電車に乗って簡単に行けるし。
それにここは、標高が高くても意外と過ごしやすいでしょ。
後、チョット贅沢なイメージを付けて売り出し易くて。
それで開発が始まったって、聞いたけど」
「ああ〜」
言われて見れば、なるほどと思う。
確かに、この辺りは大きな街に近くて。
私のお父さんも多少時間が掛かるが、車で通勤している位だ。
それに、標高も高いから夏はさほど暑くなく、冬も標高が高い割に雪も大して降らない。
私が今住む別荘も、そんな環境だからここに建てたのである。
「確かに、冬も雪は余り振らないし」
「あっ、僕の頃は地球温暖化で雪は振らなくなっているよ」
「地球温暖化?」
「地球温暖化は、地球自体の平均気温が高くなっている事。
僕の居た時代だと、この頃より平均気温が何度か高くなっているんだよ。
原理は、この頃じゃ一般的じゃない知識から、イチイチ説明しないとイケナイから省くけどね」
「へえ〜」
40年後って、地球が暑くなっているんだね・・・
……じゃあ、せっかく未来から来ているのだから。
あれを聞いてみよう。
「じゃ、じゃあ、1999年7の月に恐怖の大王は降ったの?」
「へっ……」
「ノストラダムスの大予言の事よ」
最近、雑誌とかで良く聞く事だけど。
何十年後か先に、そんな事が起こると思うと心配になってくる。
(※20世紀末期、世間を騒がせた“ノストラダムスの大予言”は。
70年代中頃から、流行り始めた様です)
そしたら、なおくんが。
「残念だけど、その時には、そんな物は降らなかったよ」
「え、ホントに、良かった」
と答えてくれたから、私はホッとした。
「でも、その時に人類が滅亡した方が良かったのかも」
「え……」
しかし、その後の彼の言葉に、絶句してしまう。
「21世紀に入ってからの世界は、富める者は益々富み、貧しい者は益々貧しくなる。
力の理論が罷り通る弱肉強食で。
弱者が明るい将来なんて見れなくなって絶望した結果、凶悪なテロを起こし捲くっているんだよ。
全世界規模で」
「……」
「未来の日本だってそう。
一部の金持ちだけが私腹を肥やして、一般庶民が貧しくなっていて。
しかも、それを政治が後押ししているから質が悪い。
そして、その金持ちの老人達が、若い人間を食い物にして将来に期待が持てなくしている。
だから僕も含めた若い人間は、日本の未来に期待はしてない」
なおくんが、怒りの籠もった声でそう言った。
彼が、そんなになる位の世界って……。
未来の世界って、そんな事になっているの?
私は、目の前が暗くなる様な思いになった。
「ごめんね、こんな話を聞かせてしまって」
沈黙していた私に、なおくんが謝った。
「うんん、良いの、気にしないで」
そんな辛い話をしてくれているのに。
私の事を、気遣ってくれている彼を安心させたくて、無理やり笑顔を作り。
それを見た、なおくんの表情も何とか柔らかくなった。
・・・
再び、私達は坂道を下し始めたけど、二人とも沈黙してしまう。
私は、先程までの浮かれた気分が、すっかり吹っ飛んでしまい。
“余計な事を聞かなきゃ良かった”と、後悔する。
そうして、私達は重苦しい雰囲気のまま、買い物へと向かった。
<参考>
・ノストラダムスの大予言
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%80%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%A4%A7%E4%BA%88%E8%A8%80
・恐怖の大王
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%90%E6%80%96%E3%81%AE%E5%A4%A7%E7%8E%8B
※ノストラダムスの大予言を流行らせた張本人が、何か謝罪した様ですね。
https://www.daily.co.jp/gossip/2019/04/07/0012221922.shtml




