第十話 出発準備
<朝食が済み、しばらく立った頃>
「るるる、らんらんら〜ん〜」
僕は今、一階の居間でTVを見ていた。
外では、千早ちゃんが鼻歌を歌いながら、洗濯物を干していて。
しばらく洗濯をするので、僕には、ユックリして欲しいとの事であった。
その当時でも、午前中は早い内はやはり下らないワイドショーが多いが。
それを過ぎると、水戸○門などの時代劇や、ドラマの再放送がある。
(※当時を知る人に話を聞くと、大体、そんな感じみたいでした)
僕はドラマでも、時代劇などは以外と好きな方だ。
先程、千早ちゃんに聞いた話によると。
彼女は毎日、午前中は家族全員の洗濯をしているそうである。
やはり、日記の記述どおり、千早ちゃんは高校に行ってなくて。
でも一応、高校卒業の資格を取るため、通信教育は受けているらしい。
何でも、こちらに療養していると通学が難しいのと。
通学可能な学校が、具合が悪くなった時の面倒を負いたくないので、学校側が入学するのを渋ったと言う話だった。
学力的には問題ないのだが。
それが彼女が高校に行っていないと言う理由である。
(※今だとモンスターペアレントが騒いて、裁判沙汰にする場合もある話だが。
今と違い、その当時は良くも悪くも、親と学校との信頼関係があって、割と学校の言うことに従う親も多かったみたいである)
今だと理由を問わず、この世代の人間が学校にも行かず仕事もせず、家に居るだけでニート扱いされて、叩かれるけど。
この当時は、女の子だと家事手伝いとか、花嫁修業だと見られて貰える部分があるようだ。
まあ、千早ちゃんは体が弱いと言う理由なんだけど。
しかし、その当時でもフーテンやヒッピーなど、同様な物もあったらしいが。
ニートほど極端に叩かれては居なかった。
元々、ニートと言う単語自体が、外国の誰も使わないお役所用語だったのを。
メディアが見つけて出し、流行らせ、集中して叩いたのも。
権力による何らかの意図があるとしか思えないけど。
「ふふふ、ふん〜」
――また、余計な事を考える、悪い癖が出たな。
千早ちゃんの鼻歌で我に変えると、すぐに物事の裏を読もうとする癖を、自嘲する。
しかし、そうでもやって現実逃避しない事には。
遠くに見える洗濯物の中にある、二つの丸い物や、三角の白い布地の物に、
どうしても目が行ってしまう。
元々から、人目が全く無い場所な上。
恐らく家族でも、母親以外が目にすることも無い為、いつもそうしているみたいだ。
だから彼女は、いつもの癖で、僕が居ることさえも忘れたまま、洗濯物を干していたのだろう。
こうして僕は、アルミサッシから見える洗濯物から意識を逸れそうと。
時代劇が流れるTVの方に、何とか集中しようとしたのであった。
・・・
洗濯物を干した後、大きく伸びをしながら千早ちゃんが僕の所に来て。
「ねえ、なおくん、一緒にお買い物に行かない?」
「え? どうして」
「なおくんの下着とか、必要な物なんかを買わないと」
「……ああ、そうだよね、ごめん厄介になって」
「ううん、良いよ、そんな事」
「せめて、お金・・・」
僕は財布から、お金を取り出して気付いた。
そうだった、この時代は、お金自体が違うんだった・・・。
特に、お札とかは確か、この頃は聖徳太子とか伊藤博文とかだったはず。
10円、100円とか、同じ物もあるけど、年号が違うから、偽金扱いになるよな。
僕は自分が持っているお金を、彼女に見せる。
「ごめん、僕の時代だと、お金はこうなっているだ」
「へえ〜、未来のお金はそうなっているのか〜。
いいよ、私、結構お金持っているから。
おこずかいは貰うけど、使う機会が無いから、かなり溜まっているの」
「……ごめんね」
「なおくんは気にしなくても良いよ、私が好きでしている事だから」
そう言って千早ちゃんは、僕を気遣う様な笑顔を見せる。
「でも千早ちゃん大丈夫? 昨日も倒れそうになったし」
「うん、あの時は、普段寝ている時間に起きていたし。
それに、冷えた所で長く居て、無理をしたから。
でも無理さえしなければ、最近は体調も物凄く良いから」
「そお? でも無理はしない様、ゆっくりと行こうか」
「……うん、分かった。
ありがとう、なおくん」
僕がそう言うと、彼女が嬉しそうに頷く。
それから千早ちゃんは、外出の準備をする為に、自分の部屋へと向かった。
***********
「う〜ん、どれにしようかなぁ〜」
今、私は部屋で、下着姿で服を選んでいた。
その為、床やベッドの上など、部屋中、広げた服で溢れている。
“今日、男の子と二人きりで外を出歩いて行く。
それも、理想の男の子と”
そう思うと私は張り切り、一番綺麗な服で着飾ろうと。
クローゼットの奥から、服を次々、引っ張り出す。
「う〜ん、胸元が開いていた方が良いのかな?」
私は、一枚の服を体に当て。
その姿を鏡で見ながら、そう呟く。
話によると男の子は、ちょっとHなのが好きみたいだから。
しかし、他の子に肌を見せると思うと、抵抗感があって嫌になるけど。
不思議な事に、なおくんだったら、全く不快にならない。
「それなら、これはどうかな〜」
私は普段あまり着ない、胸元が開いたワンピースを、クローゼットから取り出し。
体に当て鏡を見る。
「よし、これにしよう」
こうして私は外出着を決めたけど。
今度は、部屋中に散らばった服を片付けるのに、時間を取られたのであった。
・・・
「はあ・・・、なおくん、ごめんなさい〜」
「ううん、良いよ」
私は服を片付けた上、ある事に手間取り、なおくんを長く待たせてしまった。
だが、なおくんは全く怒りもせず、にこやかに私を返事をしてくれた。
“本当に、なおくんは優しいなあ〜♪”
そんな彼に惚れ直した所で、私は肝心な事を聞いてみる事にする。
「ねえ、なおくん。
私、似合ってるかな……」
私が着ているのは膝丈より少し短く、胸元が鎖骨が丸見えになるほど空いた、白地の半袖ワンピースと。
頭にはお気に入りの、黒いリボンで飾られた、つば広の白い帽子。
それに肩には、布地のバックを掛けていた。
私は、なおくんにそう言うと、彼の前で軽くターンする。
「……あ、うん、とっても似合っているよ」
「ふふふ、ありがとう♡」
ターンをしてなおくんの様子を見ると、私を見詰めたまま。
呆然とした様子で、返事をした。
どうやら、私に見惚れたみたいで。
そんな彼を見て、私は嬉しくなる。
「遅くなっちゃったから、早くいこっ♪」
「う、うん……」
嬉しくなった私は、ウキウキ気分でなおくんを誘い。
私に見惚れて、呆然としたままの彼が。
慌てて、気の抜けた返事をしていたのであった。
<参考>
・フーテン、ヒッピー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC#%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10109933505
*紙幣
・一万円
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E4%B8%87%E5%86%86%E7%B4%99%E5%B9%A3#C%E5%8F%B7%E5%88%B8
・五千円
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E5%8D%83%E5%86%86%E7%B4%99%E5%B9%A3#C%E5%8F%B7%E5%88%B8
・千円
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E5%86%86%E7%B4%99%E5%B9%A3#C%E5%8F%B7%E5%88%B8
・五百円
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E7%99%BE%E5%86%86%E7%B4%99%E5%B9%A3#C%E5%8F%B7%E5%88%B8




