表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

更衣室にいた?

 一年ほど前、大学の春休みを利用して、道の駅の売店でアルバイトをしていた。

 田舎だったが、平日でもツアーでやって来たお年寄りの軍団がどっと押し寄せるなかなか忙しい環境だった。

 その日、私はいつものように10時から18時までのバイトを終え、建物の2階にある更衣室へ向かった。

 この時間は、よく隣の鮮魚売り場のおばさんたちと着替えが被った。なので更衣室のドアを開けるときは、必ずドアをノックし、「開けていいですか?」と確認しなければならない。

 その日、いつもぴったりしまっているはずの更衣室のスライド式ドアが少しだけ開いていた。ちゃんと閉めてないのかと思いつつも、中に人がいるか確認すべく、私はその僅かに開いていた隙間から中を覗いた。

 中には黒い人影があった。どうやら誰か着替えているらしい。

「開けていいですか?」

 私はドアをノックしながら尋ねた。だか、誰の返事もない。聞こえなかったのだろうか。

「開けていいですか?」

 もう一度尋ねた。やはり、返事はない。

「あれ?」

 仕方がないので、私はそのままドアを開けた。しかしーー

 そこには誰もいなかった。でも、確かに私はさっきドアの隙間から黒い人影が動いているのを見た。

 少し怖くなったが、疲れていたこともあり、気のせいだろうと思うことにして着替えはじめた。

 不思議なことに、その間更衣室には誰も入ってこなかった。いつもなら4人は入っている時間だというのに。まるでこの更衣室だけ別世界に持っていかれたかのように、辺りはしんと静まりかえっていたのだ。

 ふと、私の背後に誰かが立っているんじゃないか。このまま更衣室に閉じ込められて死ぬまで出られなくなるんじゃないか。などという恐ろしい想像をしてしまい、全身に鳥肌が走った。

 ーー違う。あれは私の見間違いだから!

 私が頭の中でそう叫んだ瞬間、バーン!と思い切り何かが叩きつけられるような音が部屋中に響き渡った。かなり大きな音だった。

 窓の冊子に掛けられていた傘が3本、同時に床に落ちたのだ。はたしてこんな偶然があるだろうか。床に散らばった傘のうち、一本は私のものだった。そして、それだけ持ち手の部分が根元からぽっきり折れていた。

 私は急いで着替えを済ませ、更衣室を出た。不吉だったので、傘は最寄りの駅のごみ箱に捨てた。

 更衣室に、何かいたのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ