本当の居場所
この世には、心霊スポットと呼ばれる場所がいくつも存在する。しかし私に言わせてもらえば、そんなものは大抵、地元民やたまたまそこを訪れた観光客が作ったデタラメである。本当にまずい場所は、心霊スポットにすらならないからだ。
私の地元には、何人も自殺者が出ている海浜公園がある。私が知っているだけでも既に8人以上は亡くなっている。家族や近所の人が第一発見者になったり、駐車場に花や酒が手向けられていたり、パトカーや救急車が公園に向かって行くのを目撃したりするのは、特に珍しいことではない。
しかし不思議なことに、そんな不気味な場所には何の噂話もたたない。ネットで検索しても「心霊スポット」とは書かれていないし、自殺に関する情報もゼロ。地元民の間でも、特にこれといって話題になることもない。
だから、そこらにある心霊スポットなんてみんなデタラメなのだと思っていた。もし幽霊なんてものがこの世にいるのなら、あんなに沢山の人が死んでいる場所で何も起きないだなんて、逆に不自然ではないか……と。
しかし今日の夕方、ついに私は不可思議なものを目撃してしまったのだ。
今日の3時頃、私は海浜公園の散歩道をひとりで歩いていた。この日私が歩いていたコースは人通りが少なく、おまけに日当たりも悪いので、常にどこかもの悲しい雰囲気が漂っている場所だった。
そしてその道の折り返し地点にあるゲートボール場には藤棚があり、そこで去年の年末に男性が一人、首を括って亡くなっていたそうだ。第一発見者が私の祖父だったので、デマではない。
祖父はかなり気味悪がって、その藤棚には極力近づかないようにしていたようだが、幽霊などちょっとしたエンターテイメント程度にしか思っていなかった私は、どこで誰が死のうがそれほど気にしてなどいなかった。
しかしながら、そこを通る度に何故か自殺した男性の話が頭を過るので、ついつい無意識に藤棚の方に目を向けてしまう癖はついていた。
そしてこの日も私は、その藤棚に何気なく目を向けてしまったのだった。藤棚の真下にはベンチがあり、そこには一人の老人と思わしき男性が腰掛けていた。髪はボサボサの白髪で、毛先が色々な方向に飛び跳ねている。まるで何日も風呂に入っていないようだった。色褪せたベージュの上着を着ており、藤棚の上を見上げるような格好で座っている。
――なんだあの人。見ない人だな。もしかして、最近行方不明になってるお年寄り?
私はそう思い、男性の顔の見える位置まで移動しようとした。
移動している間、私は男性から目を逸らさずにいたのだが、一瞬だけゲートボール場内に植えられている楠の陰に男性の姿が隠れてしまった。
その一瞬の内に、男性はその場から姿を消していた。
驚いた私は藤棚の近くまで駆け寄り、男性の姿を探した。しかし、いくら探して見ても、そこには誰もいなかった。
誰もいない夕暮れのゲートボール場に、私独りがぽつりと取り残されていた。私は急に恐怖を感じ、急いで元来た道を引き返した。
家に帰ると、玄関の近くに祖父がいた。私は息を切らしながら祖父に詰め寄った。
「ねえお爺ちゃん。去年の年末に藤棚で首吊った人、どんな人だったか覚えてる?」
自分でも何故そんな馬鹿な質問をしてしまったのだろうと思う。単なる気のせいということにしておけば、それで良かったはずなのに。気が動転していたのか、それとも好奇心のためか、私は祖父に尋ねてしまったのだ。
祖父は一瞬顔を歪めたが、私の質問に答えてくれた。
「なんだい藪から棒に。忘れもしないよ。白髪のボサボサ頭に、ぼろぼろのジャンパー着た爺さんだ。そういや、もうすぐその人の命日だな」
心臓を冷たい手でぎゅっと鷲掴みにされたような気分だった。まさか、この私に見える日が来るだなんて、思いもしなかった。




