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生き霊

 数年前、某動画サイトに美容系の動画を投稿していた時の話だ。

 私は事務所と契約しているような大物投稿者と比べれば、ちっとも大したことないのだが、チャンネル登録者数はそこそこ多い方で、コメントも毎回100件ほど付いていた。

 だがそのコメントも、必ずしも私を応援するような内容のものではなく、ある時から誹謗中傷のようなコメントもちらほらと見受けられるようになった。


「下手くそ。せっかくのデパコスがもったいないね」

「ブスだね。素材が悪いから化粧品の良さが伝わらないよw」

「声キモい。絶対ぶりっ子でしょ吐き気するわ」


 内容は今でもはっきり覚えている。忘れたくても忘れられないのだ。いつも同じ人だった。仮に、そのアカウント名を「T」とする。

 ツイッターに専用アカウントを作ってからも、そのTは執拗にアンチコメントを送り付けてきた。それどころか、自身のアカウントで私の動画のスクショ(カメラのブレで酷い顔になっているものばかり)を連続で投稿し、晒し者にしていた。「やめてください」とDMを送っても、そのDMのスクショを晒され「動画投稿はアンチコメントを書かれる覚悟を持ってやるべき。コメント欄もツイッターも自分の意見を書くところなんだから、仕方のないこと。口出しされる筋合いはない」とのこと。

 やがてそれらのツイートに影響を受けたTのフォロワーが、私のアカウントや動画サイトのコメント欄にやってくるようになってしまった。


「普通にブスだよね?こんな女をかわいいとか言ってる奴の気が知れないw」

「可哀想に。努力したってどうせブスなんだからその努力は無意味だよ」

「こいつ日本人じゃないよね。この顔は純粋な日本人じゃないよ」


 Tの悪ふざけに便乗する人たちも不快だったが、私はむしろTさえ現れなければこんな目に合わずに済んだという思いを徐々に抱き始めた。コメント欄で反論したり、庇ったりしてくれるファンだけが救いだった。


 その後もTによる嫌がらせは続いた。毎日毎日誹謗中傷の嵐。何がそんなに気に入らないのか尋ねてみても、「嫌ならやめろ」としか返ってこない。気がつけば私は、Tのことばかり考えていた。


 Tさえいなければ……

 あいつさえ消えてくれれば……


 いつの間にかそんなことばかり考えるようになっていた。完全に心を病んでいたのだと思う。挙げ句の果てには夢の中にまでTが現れ始めた。

 しかし、それとほぼ同時期にTから奇妙なDMが送られてくるようになった。


「どうやって(うち)を特定したんだよ!言っとくけどこれ犯罪だかんね?」


「まじでキモいんだけど。何で部屋知ってんの?」


「ごめんなさい。本気じゃありませんでした。許してください。ていうか死んだなら成仏して」


「もうやめてください!おねがいですうちにこないでくださいこわい」


「もうにどとしないせたぞすぞぜんぶわたしがやりましてたころさやないて」


 最後の方はもう文字がめちゃくちゃだったのが少し気味悪かった。もちろん私はTの家など知らないし、行ってもいない。そして当然ながら死んでもいないのだ。

 最後のメッセージが届いてからというもの、Tは自身のツイッターを更新しなくなり、動画のコメント欄にも一切姿を現さなくなった。そして不思議なことに、嫌がらせに便乗していたTのフォロワー達も一切動きを見せなくなったのだ。

 どうやら、すべてTの一人芝居らしかった。後になって私が確認しただけでも、それらしきアカウントは10個以上あった。同じ画像を使い回していたり、言葉使いがほぼ同じだったり、どれも同時期に作られたアカウントだったり、今までどうして気が付かなかったのだろうと思った。


 とはいえ、その後私は動画投稿をやめてしまった。急に面倒くさくなってしまったのだ。誰かに中傷されることも、誰かを心の底から恨むことも、どちらも酷く疲れることなのだから。

 私もTも、どちらもネットに向いていなかったのかも知れない。そう思い込むことでしか、私は自分を納得させられない。

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